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第一章:長い前髪の向こう側
陽来は、いつも誰かの後ろに隠れて生きてきた。
小さい頃から引っ込み思案で、2つ上の快活な姉の背中が、陽来の定位置だった。「何が食べたい?」「どっちの服がいい?」そう聞かれても、自分のしたいことや好みをうまく言い出せない。「お姉ちゃんと同じでいい」そう繰り返すうちに、自分の声の出し方を忘れてしまった。
いつも損ばかりしている自覚はあったが、目立つよりはマシだった。専門学校の医療秘書学科に進んだのも、自分で決めた道ではない。「これからは医療系が安定しているから」という家族の勧めに、ただ頷いただけだった。長い前髪で視線を遮り、マスクを外すことは滅多にない。学校の教室でも、陽来は周囲の賑やかな輪から離れ、気配を消して座っていた。




