娼婦
老人の飽きが来るのは、驚くほど早かった。
佐藤による凄惨な復讐を経て、精神が完全に崩壊し、四つん這いで虚空を見つめながら壊れた機械のように笑い続けるようになった由紀は、もはや「高貴な女が堕ちていく過程を楽しむ」ための観賞品としての価値を失っていた。
「壊れた玩具はいらんな。……佐藤、お前の好きにしろ。あとの始末は任せる」
老人の冷淡な一言で、由紀の首を飾っていた「黄金の首輪」は、ペンチで無残に切り落とされた。かつて彼女が「勝利の証」と信じて疑わなかった輝きは、今やただの金属片として床に転がった。代わりに首に巻かれたのは、皮膚を削るほどに赤錆び、獣の臭いが染み付いた、重く冷たい「鉄の鎖」だった。
由紀は再び、窓のない暗いワゴン車に押し込まれた。だが、今度の行き先は砂漠の宮殿ではない。ドバイの華やかな超高層ビル群が落とす長く黒い影に隠された、異臭漂うスラム街の一角。不法就労の労働者や、行き場を失った犯罪者たちが吹き溜まる「闇の娼館」――通称『肉の穴』だった。
「……あ、あは。……パパ、シャンパン。……クリスタル、開けて……? 素敵な、お部屋ね……」
由紀は、自分がどこへ運ばれているのかさえ理解していなかった。
辿り着いたのは、コンクリート打ちっぱなしの壁に、数えきれないほどの「汚れ」を吸い込んだ湿ったマットレスが敷かれただけの、一畳半ほどの狭い小部屋。換気扇からは油の混じった熱風が吹き込み、壁には先客たちの吐瀉物や乾燥した精液、そして絶望した女たちが爪で刻んだ呪詛の跡が重なっていた。
「今日からここがお前の『城』だ。……港区の女王様。ここでは一回一ドル、いや、一セントの価値もありはしないぞ」
佐藤は冷たく言い捨て、娼館の管理人に一束の薄汚れた紙幣を渡した。
「この女を死ぬまで使い倒せ。一分も休ませるな。……彼女が一番嫌っていた『安っぽい、不潔な、金のない男たち』の欲望を、死ぬまでその体で受け止めさせるんだ」
佐藤が去り、重い鉄の扉がボルトで固定されるような音を立てて閉まる。
直後、部屋の外には、一ドルの安価な快楽を求める男たちの長い列ができた。
「……嫌。……来ないで。……私は、由紀。……高い、女……なの……っ! 触るな! 私の肌に触れるなら、三百万持ってきなさいよ!!」
由紀が反射的に、かつての傲慢さを取り戻して叫んだ直後、最初の一人が部屋になだれ込んできた。
それは、砂埃と油にまみれた、強い体臭を放つ出稼ぎ労働者の男だった。彼は、由紀がかつて「視界に入れることさえ汚らわしい、歩く公害」と蔑んでいた、社会の最底辺を支える男の一人だ。
「おい、見たかよ。元は日本の高級モデルだってよ」
「へっ、こんなボロボロの肉が? ……まあいい、穴があれば何でもいいんだ。さっさと開けよ、ゴミ女」
男は、震える由紀の髪を乱暴に掴み、マットレスに押し倒した。
かつて男たちに「お願い」をして開けさせていた五大シャトーのヴィンテージの代わりに、男の粗末で野卑な欲望が由紀の体内に無造作に、暴力的に注ぎ込まれる。
「やだ……っ! 痛い! 痛いああああああああああああああ!!」
由紀の悲鳴は、薄い壁一枚隔てた隣の部屋から聞こえる、別の女の呻きと荒い吐息にかき消された。
一人、また一人。
男たちの列は途切れない。由紀にはシャワーを浴びる時間も、涙を拭う時間も、ましてや息を整える時間も与えられなかった。
男が果てるたびに、由紀の肌は他人の汗と脂で汚れ、粘膜は無残に裂け、彼女の身体は「人間」から「ただの穴」へと変質していった。
「……あ、ああ……っ、ひぐ……っ。パパ……助けて……高いバッグ、買って……いい子にするから……」
夜が明ける頃、由紀はもはや悲鳴を上げる気力すら失っていた。
白濁した液体が内腿を絶え間なく伝い、床の埃や髪の毛と混ざり合って、どす黒い泥のように彼女の肌をコーティングしていく。
ふと、部屋の隅、男たちが投げ捨てたゴミの中に、ひび割れた小さな手鏡が落ちているのが目に入った。
由紀は、震える手でその鏡を拾い上げた。
そこに映っていたのは。
髪は泥と精液で固まり、目は虚ろに剥かれ、頬には男たちの暴力によって刻まれた青あざが幾重にも重なった、得体の知れない「怪物」の姿だった。
かつて一回の美容医療に数十万をかけ、毛穴一つの消失さえも許さなかったあの究極の美貌は、跡形もなかった。
「……だれ……これ……? ……わたし、は……。……ゆき……。……港区の……由紀……」
自分の名前さえ、正しく発音できない。
その時、再び扉が乱暴に蹴り開けられた。
「おい、次だ! さっさと腰を振れ、この廃品が!」
次の男が、由紀の首に食い込む鉄の鎖を、犬の散歩でもするかのように乱暴に引いた。
由紀は、ひび割れた鏡の中の自分を、ただ呆然と見つめたまま、人形のように男を受け入れた。
「あ……あああああああああ!!」
男が彼女の喉を締め上げ、激しく突き上げる。その衝撃のたびに、由紀の視界は白く飛び、かつて自分が男たちの自尊心を切り刻み、彼らの家庭を崩壊させながら流し込ませた、最高級のシャンパンの泡を思い出した。
あの泡は、美味しかっただろうか。
あの金は、温かかっただろうか。
今の彼女の体内を蹂躙しているのは、一ドルの汚辱と、男たちの獣じみた熱だけだ。
「……ああ……きれい……。泡が……いっぱい……。あは、はははは!!」
もはや絶頂も苦痛も判別できなくなった由紀は、男の顔を引っ掻きながら狂ったように笑った。
かつて自分が「選ぶ側」だと思い込んでいた傲慢な日々。
その報いが、今、ドバイの最底辺の湿った空気の中で、永遠に終わらない「肉の消費」となって彼女を食い潰し続けていた。
心の中にあった「港区」という名の黄金の城は、今、完全に崩壊し、腐った砂となって彼女の全身を埋め尽くしていった。




