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第19話「人事権という最強の武器」

───


 ギルド長が消えた冒険者ギルドは——混乱していた。


 依頼の受付は止まり、報酬の精算は滞り、冒険者たちは広間にたむろして酒を飲んでいる。やることがないのだ。指揮系統が消失した組織は、三日で腐る。誠は前職でそれを嫌というほど見てきた。


「——後任を早く決めないと、ギルドが機能停止します」


 マリーナのオフィスで、誠が言った。


「わかってるわ。問題は——」


「ルンゲの推薦候補。ですよね」


 テーブルの上に、ルンゲからの書簡がある。推薦候補の名は——ヴェルナー。


 エリーゼが補足した。


「ヴェルナー。元冒険者。A級。引退後はルンゲの領地で商売をしている。——表向きは、申し分のない経歴だ」


「表向きは?」


「裏は調べている。だが、今のところ不正の証拠はない。——ルンゲが送り込む人間だ。尻尾は掴ませないだろう」


「優秀な傀儡か」


「そうだ。前のギルド長より——はるかに手強い。帳簿に証拠を残すような間抜けではないだろう」


 誠は腕を組んだ。


「……ルンゲの推薦候補を阻止する方法は、二つあります。一つは、ヴェルナーの不正を暴いて候補資格を失わせること。でも、今エリーゼさんが言ったように、証拠がない」


「もう一つは?」


「選挙です。——冒険者の投票で、ギルド長を選ぶ」


───


「選挙」。


 マリーナが、その言葉を噛み締めるように繰り返した。


「構成員が投票して、リーダーを決める。——理屈はわかるわ。でも、この世界にそんな仕組みは——」


「ないです。だから作る」


「また作るの」


「また作ります」


 マリーナが、ため息をついた。ため息の中に、微かな笑みが混じっていた。


「……で、具体的には?」


「まず、立候補制にします。ギルド長になりたい人間が、自分で名乗りを上げる。推薦ではなく、本人の意思で」


「ルンゲの候補も立候補できるわね」


「できます。それは排除しません。——排除したら、制度の正当性が失われる。重要なのは、全ての候補が同じ条件で競うことです」


「条件?」


「公開討論。帳簿の公開。政策の提示。——候補者が何を約束するか、冒険者全員の前で明らかにする。そして、冒険者一人一票で投票する」


「一人一票?」


「はい。ランクに関係なく。Eランクの新人も、Aランクのベテランも、一票は一票。——これが選挙の根幹です」


 エリーゼが首を傾げた。


「それは……公平なのか。Eランクの新人にギルドの運営がわかるとは思えないが」


「わからなくても、選ぶ権利はあります。——いや、わからないからこそ、選ぶ権利がなければいけない。新人こそが、不正の被害を最も受けやすい立場です。等級操作で報酬を削られていたのも、主に低ランクの冒険者でした」


「…………」


「声なき人に声を与える。——選挙は、そのための仕組みです」


───


 選挙の規則を作るのに、二日かかった。


 誠がマニュアルを書き、マリーナが実務を整え、エリーゼが公正さの担保を設計した。


 選挙規則。全十二条。


 第一条。冒険者ギルド長は、登録冒険者の投票により選出される。

 第二条。立候補の資格は、ギルド登録一年以上の冒険者、または元冒険者とする。

 第三条。候補者は立候補届を提出し、政策方針を書面で公開する。

 第四条。選挙期間は届出から七日間とする。

 第五条。選挙期間中、候補者は公開討論を最低一回行う。

 第六条。投票は無記名。一人一票。

 第七条。投票の集計は、監査チームが行う。

 第八条。買収、脅迫、その他の不正な選挙活動は候補資格の剥奪事由とする。

 第九条。当選者は就任後、四半期ごとに監査を受ける。

 第十条。ギルド長の任期は二年。再選は一回まで。

 第十一条。ギルド長が不正を行った場合、構成員の三分の二以上の賛成でリコールできる。

 第十二条。選挙の管理は、商人ギルドと騎士団の合同監視のもとで行う。


「……十二条。あんた、二日でこれ作ったの」


「前職で選挙管理委員会の支援をしたことがあるんです。労働組合の役員選挙の」


「異世界に来てもそれが役に立つのね……」


「役に立つんです。——組織の意思決定の仕組みは、世界が違っても根幹は同じですから」


───


 選挙規則が冒険者ギルドの掲示板に貼り出された。


 反応は——様々だった。


「投票? 俺たちが?」

「ギルド長を自分たちで選べるってこと?」

「そんなの、強い奴が勝つに決まってるだろ」

「いや、一人一票って書いてある。強さ関係ないぞ」


 冒険者たちの間で、戸惑いと興奮が入り混じった。誰かを選ぶ。自分の意思で。——そんな経験は、誰もしたことがなかった。


 立候補届の受付が始まった。


 最初に届出を出したのは——予想通り、ヴェルナーだった。


「ヴェルナー。元A級冒険者。引退後は商会を経営。——政策方針は……」


 誠は、ヴェルナーの提出書類を読んだ。


「冒険者の報酬体系の見直し。ギルド運営の効率化。新人育成プログラムの充実。依頼料の透明化。——完璧ですね」


「完璧?」


「完璧すぎます。隙がない。——ルンゲの入れ知恵でしょう」


 マリーナが書類を覗き込んだ。


「……確かに。この書き方、商人の文書よ。冒険者が書く文章じゃない」


「でも、内容自体は正しいんです。報酬の見直しも、効率化も、新人育成も——必要なことばかり。反論のしようがない」


「つまり——」


「ルンゲは、正論で攻めてきてる。正しいことを言って、正しい手続きで、正しく勝つ。——選挙を作ったのが僕たちなら、選挙で勝つのはルンゲの候補。皮肉ですね」


「皮肉じゃなくて、計算よ。——で、対抗馬は?」


───


 対抗馬が——いなかった。


 二日経っても、ヴェルナー以外に立候補者が出ない。


「なんでよ。冒険者、あんなに怒ってたじゃない」


「怒ることと、自分がやることは違います。——ギルド長は責任が重い。報酬の管理、依頼の采配、トラブルの処理。怒りに任せて手を挙げる人はいても、実際に運営できる自信がある人は少ない」


「じゃあ——」


「誰かを説得する必要があります。対抗馬にふさわしい人を」


 誠は考えた。


 条件は三つ。冒険者からの信頼があること。運営の能力があること。そして——ルンゲの影響下にないこと。


「……バルドは」


「あいつは傭兵ギルドの人間でしょ。冒険者ギルドの登録一年以上って条件を満たさないわ」


「トビアスは?」


「若すぎる。経験が足りない。冒険者たちが信頼するには——」


「なら——」


 エリーゼが口を開いた。


「一人、心当たりがある」


「誰ですか」


「ハンナ。B級冒険者。女性で、この街で十五年活動している。冒険者の間では、仲裁役として信頼が厚い。——私の騎士時代の情報源でもあった」


「ルンゲとの繋がりは?」


「ない。少なくとも、私が知る限りでは。ハンナは——独立心が強い。誰の傘下にも入らない女だ」


「立候補してくれますか」


「わからない。——が、話はしてみる」


───


 エリーゼの紹介で、ハンナと会った。


 冒険者ギルドの裏手にある酒場。薄暗い店内に、がっしりとした体格の女性が座っていた。


 ハンナ。四十代。日焼けした肌に、短く切った栗色の髪。腰には使い込まれた片手剣。——目に、冒険者にありがちな虚勢がなかった。代わりに、静かな知性があった。


「エリーゼから聞いた。選挙? ギルド長を投票で選ぶ?」


「はい」


「面白い仕組みだね。——で、私に立候補しろと」


「お願いしたいです」


「理由は?」


「ハンナさんは冒険者から信頼されている。運営の実務も理解している。そして——ルンゲの息がかかっていない」


「最後のが本音でしょ」


「……正直に言えば、そうです。ルンゲの候補を阻止するために、対抗馬が必要です」


 ハンナは、エールを一口飲んだ。


「あたしね。ギルドの運営には興味ないのよ。冒険者は——外を歩いてナンボなの。机に座ってる暇があったら、依頼をこなしたい」


「…………」


「でも」


 ハンナが杯をテーブルに置いた。


「前のギルド長が抜いてた三割。——あれ、あたしの仲間たちの金だよ。若い冒険者が、ろくな装備も買えずに死んでいった。報酬がまともに払われてれば、もう少しマシな装備を買えた。もう少し生き延びられた」


「…………」


「運営に興味はない。でも——仲間の金を盗る奴に、ギルドを任せる気はもっとない」


「では——」


「条件がある」


「何ですか」


「あたしが勝ったら、あんたが監査を続けること。あたしは帳簿は読めない。数字のチェックは、あんたたちの仕事だ。——あたしは外の問題を片付ける。中の問題は、仕組みに任せる。それでいい?」


「——それでいいです。むしろ、それが理想です」


「じゃあ、やるよ。——ただし、あたしは嘘はつかない。選挙で何を約束するかは、あたしが決める。あんたたちの操り人形にはならない」


「操り人形にするつもりはありません。——自分の意志で動く人が、ギルド長にふさわしいんです」


 ハンナが、かすかに笑った。


「あんた、面白い男だね。——紙切れ屋って呼ばれてるらしいけど」


「はい。不本意ですが」


「不本意でもないでしょ。紙切れで世界を変えようとしてる男が、紙切れ屋。——ぴったりじゃない」


───


 選挙戦が始まった。


 候補は二人。ヴェルナーとハンナ。


 ヴェルナーの陣営は——洗練されていた。


 政策ビラが配られた。印刷は美しく、言葉は丁寧で、約束は具体的だった。「報酬の一割増額」「新人向けの装備支給制度」「依頼の等級見直し」——冒険者たちが長年求めてきたことが、全て網羅されている。


「……金かかってるわね。このビラ」


「ルンゲの資金でしょう。——ビラの印刷だけで銀貨数十枚はかかっています」


「選挙規則に、資金の上限は——」


「ありません。……作り忘れました」


「作り忘れた?」


「選挙資金の上限規制。——前職では当然あったんですが、今回は時間がなくて」


「…………あんた」


「すみません。次からは入れます」


 マリーナが額を押さえた。


「次からって。今回はどうするのよ」


「今回は——正面からぶつかるしかありません」


───


 ヴェルナーの選挙活動は、資金だけではなかった。


 冒険者一人一人に声をかけていた。酒場で奢り、依頼先で話しかけ、新人冒険者の訓練を見学しては「応援してるよ」と声をかける。


「……買収じゃないの、これ」


「微妙です。酒場で奢るのは、冒険者の慣習として普通のことです。規則の第八条——買収、脅迫、その他の不正な選挙活動の禁止——に該当するかどうか、グレーゾーンです」


「グレーだから放置するの?」


「放置はしません。——でも、証拠がないものを告発はできない。告発すれば、こちらが選挙妨害に見えます」


「じゃあ、どうするの」


「ハンナさんの強みで勝つしかありません」


「ハンナの強みって?」


「現場を知っていること。——ヴェルナーの政策は完璧ですが、全てが数字と理論です。現場の冒険者が何に困っているか——本当に困っていることを知っているのは、十五年間ここで戦ってきたハンナさんです」


───


 公開討論の日。


 冒険者ギルドの広間に、登録冒険者のほぼ全員——百二十名以上が集まった。


 ヴェルナーが先に立った。


「私は、このギルドを——皆さんのギルドに変えます。報酬の適正化。手数料の引き下げ。新人育成。全てを、数字と計画で実行します。——私の経歴はご存知の通り、A級冒険者として十年。引退後は商会を経営し、組織運営の経験を積んできました。計画を立て、実行し、結果を出す。——それが、私にできることです」


 拍手が起きた。演説は堂々として、隙がなかった。


 次に、ハンナが立った。


「……あたしは、演説は上手くない」


 広間が、少し笑った。


「計画書もない。立派な経歴書もない。——あたしにあるのは、この街で十五年、冒険者として生きてきたこと。それだけ」


「…………」


「あたしは、仲間が死ぬのを見てきた。装備が足りなくて。報酬が少なくて。等級が不当に低くて——本来受けられるはずの依頼が受けられなくて。金がないから安い依頼を受けて、安い装備で危ない場所に行って——死んだ」


 広間が、静まった。


「前のギルド長が三割抜いてたって、監査で分かった。——あたしの仲間が死んだのは、自分の力不足だと思ってた。でも違った。金を盗られてたんだ。盗られた分があれば、もう少しまともな装備が買えた。もう少し——」


 声が、詰まった。


「……ごめん。上手く言えない」


 ハンナは、深呼吸した。


「あたしにできることは、多くない。計画書は書けない。演説もできない。——でも、あたしはここにいる。ずっとここにいた。誰の金も受け取ってない。誰の操り人形でもない。——あたしがギルド長になったら、帳簿は監査チームに見てもらう。判断は、冒険者のみんなに相談する。一人で全部はできないから、仕組みに頼る。でも——仲間を守ることだけは、あたしの意思でやる」


 沈黙が広がった。


 一人の若い冒険者が、拍手した。


 それが——広がった。


 ヴェルナーへの拍手より大きかった——とは、言えない。互角だった。


 討論が終わった後。


 ヴェルナーが広間を出る時、誠は——一瞬だけ、その横顔を見た。


 ルンゲの傀儡。完璧な政策。隙のない演説。——そう分析していた。だが、広間を出るヴェルナーの目は、冒険者たちの方を振り返っていた。懐かしそうに。まるで、自分もかつてあの中にいた頃を思い出しているかのように。


 その目が——一瞬だけ、揺れた。


 誠は首を振った。感情移入してはいけない。ヴェルナーがどんな人間であれ、ルンゲの候補であることに変わりはない。——でも、あの目は。


───


 投票は翌日。


 投票箱は、監査チームの管理下に置かれた。無記名。一人一票。投票用紙にはルカの魔法で一枚ごとに異なる魔力印が刻まれており、複製や追加は不可能。


「あんた、投票用紙にまで魔法をかけたの」


「不正投票は選挙の死です。——これだけは、絶対に守らなければいけない」


 開票は、その日の夕方。


 広間に、再び冒険者たちが集まった。今度は——静かだった。討論の時の熱気はなく、代わりに、張り詰めた空気。自分が入れた一票の行方を、全員が見守っている。


 誠とルカが票を数えた。バルドとリーゼが確認した。エリーゼが立ち会った。


 一枚ずつ。ルカが魔力印を確認し、誠が名前を読み上げ、バルドが正の字を刻む。


 広間には、紙をめくる音と、誠の声だけが響いた。


 途中から——数えなくても、空気でわかった。拮抗している。


 全百二十三票。有効票百二十一。無効票二。


 ヴェルナー——五十五票。

 ハンナ——六十六票。


 ハンナの勝利。——だが、僅差。


「……十一票差」


 誠は結果を見て、唇を噛んだ。


「勝ちは勝ちよ。何が不満なの」


「不満じゃありません。——でも、ルンゲの候補が五十五票取ったということは。冒険者の四割以上が、ルンゲの影響下にあるということです」


「影響下って——全員がルンゲの手先ってわけじゃないでしょ。ヴェルナーの政策に納得して投票した人もいるはずよ」


「それはそうです。——でも、だからこそ危険なんです。ルンゲの候補が、正当な支持を得ている。正しい手続きで、正しい政策を掲げて、四割の支持を得た。——これは、単純な不正より手強い」


 エリーゼが頷いた。


「同感だ。不正なら暴けばいい。だが——正当な支持は、暴けない。覆せない」


「ルンゲは——選挙を制度として認めた上で、制度の中で影響力を行使している。監査でも、選挙でも。仕組みの外から壊すのではなく、仕組みの中から支配する。——これが、ルンゲの本当の恐ろしさです」


───


 ハンナの就任式は、翌日に行われた。


 冒険者ギルドの広間で、冒険者たちの前で——ハンナが宣誓した。


「あたし、ハンナは。冒険者ギルド長として、以下を約束する」


 誠が作った宣誓書。ハンナが自分の言葉で書き直したもの。


「一つ。帳簿を公開する。四半期ごとに、監査を受ける。隠すことは、何もない」


「二つ。報酬の手数料は一律五パーセント。例外なし。それ以上取ったら——あたしを辞めさせろ」


「三つ。冒険者の声を聞く。月一回、ギルド集会を開く。——あたしは偉くない。ただ、代表するだけだ」


 冒険者たちが、拍手した。


 バルドが、腕を組んで頷いた。


「……悪くない」


「悪くないですね」


「紙切れ屋。選挙ってのは——まぁ、悪い仕組みじゃないな」


「完璧な仕組みではありません。——でも、今ある中では最善です」


───


 その夜。


 誠は宿の部屋で、結果を整理していた。


 勝った。ハンナが勝った。選挙は機能した。——でも。


 十一票差。


 ルンゲの候補が四十五パーセントの票を取った。選挙資金の規制がなかった。買収に近い行為を止められなかった。——制度の穴は、まだある。


「……選挙は民主主義の根幹だけど、民主主義は脆い」


 誠は呟いた。


 買収。情報操作。恐怖による投票誘導。——現実世界でも、民主主義を内側から食い荒らす手口は山ほどある。この世界も同じだ。ルンゲは、次の選挙では——もっと巧妙な手を打つだろう。


「でも——」


 ルカの寝息が、隣の部屋から聞こえた。


「それでも、選挙がないよりは——まし、か」


 完璧な制度はない。あるのは、不完全な制度を少しずつ改善し続けること。穴を見つけて、塞いで、また見つけて。


 ——コンプラ担当の仕事は、終わらない。


───


 同じ夜。ルンゲの屋敷。


「——十一票差で負けました」


「十一票か。——悪くない結果だ」


 ルンゲの声に、敗北の悔しさはなかった。


「ルンゲ様……負けたのですが」


「負けたのは選挙だ。——私の目的は、ギルド長の椅子ではない」


「では——」


「今回の選挙で、四十五パーセントの票を得た。つまり——四十五パーセントの冒険者が、私の側にいる。選挙で、合法的に、証明された」


「…………」


「是永が選挙を作ってくれたおかげだ。選挙がなければ、この数字は見えなかった。——今、私は自分の影響力を正確に把握している。どこに支持があり、どこに反感があるか。次にどこを押せば、数字がひっくり返るか」


 ルンゲは窓辺に立った。


「選挙は、一度では終わらない。任期が来れば、また選挙がある。——次は、もう少し手を打つ。資金規制がないことは確認した。グレーゾーンの広さも測った。是永の制度の穴は——是永自身が教えてくれた」


「帳簿の工作は——」


「予定通り進めろ。選挙で負けたことは問題ではない。——是永の信用が崩れれば、ハンナの政権も崩れる。監査チームが疑われれば、選挙の正当性も疑われる。全てが繋がっている」


 ルンゲが振り返った。


「是永は仕組みで戦う。なら——仕組みの信用を壊す。数字を汚す。是永が信じたものを、是永の足元から崩す。——正義が正義であるためには、信用が必要だ。その信用を——私が奪う」


 暖炉の炎が、ルンゲの影を壁に映した。


 影は——微笑んでいた。


───

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