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就職先が倒産したので牧場を継いだら、俺だけ馬の声が聞こえるようになりました  作者: 萩原詩荻
第三章 ???

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第六十七話 テンザンミラクル

 私は、なんか長距離のプロフェッショナルみたいに言われてるけど、正直心外である。


 ちょっと、一昨年の菊花賞と去年の天皇賞春を勝っただけの普通の馬だ。


 だから。


「今日はよろしくお願いしますね、テンザンミラクル先輩」


「よ、よよよよよろしくね?サクライルドルフくん」


 こんな風に、一個下のすごい強い子に話しかけられたら動揺するに決まってる!


 今日は天皇賞春。


 五月最初の日曜日、京都競馬場の三千二百メートルのレース。


 長いよねぇ、疲れるよねぇ。


「先輩には特に注意させていただきます」


 そんなこと言わないでよー。私なんて七番人気ってさっき見たよー?


「やだなー、ルドルフくんが一番人気でしょ?私のことなんて気にしないでよー」


 あ、あれ?ルドルフくんが余計警戒している気がする?


 どうして???


「え、えっと、がんばろうね!」


 そそくさと離れる。


 あ、別の強そうな馬がルドルフくんに話しかけてる。


 うーん。みんな元気だなぁ。


 ファンファーレが鳴り終わり、歓声が大きくなる。


 一頭ずつ順番にゲートに収まっていく。


 うーん。


 みんな、そんなにやる気満々で走っても疲れるだけなのにねー。


 落ち着いていこうよー。


 ガシャン!!


 ゲートが開く。


 ゆるっと、芝に走り出す。


 いきなり割と下り坂なの意地悪だよなーと思いつつ、のんびり走る。


 焦ってもいいことなんてないもんねー。


 周囲の様子をのんびり見ながら坂を登って観客席が目の前の直線を走る。


 わー、今日もたくさんの人が見てるなー。


 天山のお爺ちゃんも牧場のみんなも見てるかなー。


 んー?


 あらら、ルドルフくん、そんなに周囲を意識してたら疲れるよー?


 まあ、周りもルドルフくんを意識してるからある程度は仕方ないかな?


 大変だねー、無敗の三冠馬ってのもー。


 ぐるっとまわり、二週目の向こう正面に入る。


 んー。やっぱり長いよねー、疲れるよねー。


 でも、スタミナ不足って言われたらプールやれって言われるから頑張らないと。


 プール嫌いって言ってるのに、みんな入れようとするんだもん!ひどいよね!


 おっと、そんなこと考えてる場合じゃないや。


 三コーナーが近づいてきたからか、騎手の人が「そろそろだよ」って合図をしてくれた。


「ありがとー、がんばろーねー」


 伝わってないのはわかるけど、少しだけ嘶いて加速する。


 うん、良い感じー。


 四コーナーを回って、直線が見えた。


 うん、良い位置。


『これから直線コース!先にテンザンミラクルだ!!』


 実況の声が聞こえる。


 お、勝てちゃうかも?


 外から追い込む。


 うん、良い感じ。


 騎手さんもばっちりだよ!


 えーと、ルドルフくんは……あ。


『内からサクライルドルフも突っ込んできている!』


 うーん、さすがに上手いねー。


 でも。


 負けないよ?


「っ!!さすがです!!でも負けませんよ!!」


 あー、そんなに叫んだらスタミナ減っちゃうよー。


 だから、私は黙って脚を伸ばす。


『テンザンミラクルが先頭に変わった!ルドルフも粘る!!』


 んー、でも粘るなぁ、えらいなぁ。


 私は普通の馬だ。


 だから、走る理由なんて「走りたいから」と「勝ったらみんなが喜んでくれて嬉しいから」くらいしかない。


 でも。


 負けてあげる理由はないんだよね。


『テンザンミラクル更に伸びる!古馬の意地を見せる!!』


「それでこそです!ですが!私もここからです!!」


 叫びながらルドルフくんが更に伸びてくる。


 おお、すごい。


 うーん、これは……悔しいけど、ちょっと無理かなぁ。


『ルドルフ差し返すか!?これは!これはどうだ!?』


 でも、もうちょっとだけ頑張ろうと思って首を伸ばす。


『テンザンミラクル粘る!サクライルドルフ苦しい!だがルドルフだ!ルドルフ伸びた!』


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 うーん、熱いなぁ、ルドルフくん。


 うん、でもそれも競馬だよね。


『サクライルドルフ先頭だ!サクライルドルフ一着でゴールイン!二着はテンザンミラクルか!』


 うー、勝てなかったー。


 でも、二着なら褒めてもらえるかな?


 うーん、でもちょっと悔しいなー。


 ゴールした後、みんなでゆるっと流していたら、またしてもルドルフくんが話しかけてきた。


「テンザンミラクル先輩、すごい強かったです」


「え、いやいやいや、気にしないでよ!?」


 それに勝ったの君だよ!?


「楽しかったです」


 あ。


「それは私もだよー」


 うん、楽しかった。


 やっぱり、強い馬と走るのって楽しいよねぇ。


 でも。


「でも」


「?」


 目の前のこのルドルフくんは未だ無敗なんだもんね。


 だから、この気持ちは知らないのかもしれない。


 それはそれでもったいないかもね。


「悔しいは悔しいから、また走ろうね」


 次は、私が勝っちゃうかもしれないよ?


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