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就職先が倒産したので牧場を継いだら、俺だけ馬の声が聞こえるようになりました  作者: 萩原詩荻
第三章 ???

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第三十八話 進路希望……うっ、頭が。

「そういえば、就活が始まってるんですよ」


 弥生ちゃんが馬糞を片付けながら、ふと思い出したように言う。


 慣れてきたものだなぁ、本当にありがたい。


「おー、そんな時期か」


 俺は自分の就活を思い出す。


 ……わりと流されるまま大学受けて、流されるまま就活して、気づいたら倒産していた。


 人生、何があるかわからん。


「進学はしないの?」


 俺が聞くと、弥生ちゃんは首を横に振った。


「うちの高校は、大体就職ですね」


 弥生ちゃんはそう言って、少しだけ笑った。


「私はやっぱり、馬に関わる仕事に就きたいなーと」


「えらいなー」


 自分の高校生の頃より、弥生ちゃんの方がよっぽどちゃんとしてる。


 ……高校どころか、現時点でも負けてるかもしれない。


「弥生ちゃんなら大丈夫だよ、きっと」


「そうですかね」


「うん。真面目だし、優しいし、馬にも好かれてるし」


 今年の当歳も弥生ちゃんにはすごい懐いてるしなー。


 素直に伝えると、弥生ちゃんは少し照れくさそうに笑った。


「ありがとうございます」


 それから、わりと何気ないテンションで聞いてきた。


「ここは社員募集しないんですか?」


「んー……」


 俺はちょっとだけ考えた。


「弥生ちゃんいなくなっちゃうなら、募集しなきゃかもなあ」


「えっ」


 弥生ちゃんが、少しだけ目を丸くする。

 あれ、そんなに驚くとこだったか?


 すると、ちょうど近くの放牧地からストーンが馬房の中から当然みたいな顔で言った。


「弥生ちゃんにここで働いてもらえばいいじゃない」


「こっちの都合押し付けるわけにいかないだろ」


「えー」


 横で草を食っていた別の馬が、こっちを見もせずに言った。


「朔のバーカ」


 さらに向こうから別の声。


「バーカ」

「朔のアーホ」

「朔クビにして弥生ちゃん雇おー」


「お前ら、ご飯減らすぞ」


 すると、反対側から慌てたような声が飛んできた。


「朔かっこいー」

「朔サイコー」

「深謀遠慮ー」


 こいつら、ほんとに現金だな。



 そんな話があった数日後、俺は無事就職した奴の様子を見るために、町の乗馬施設に来ていた。


 桜井牧場から車でそう遠くないところにある、川沿いのちょっとした山の上の施設だ。

 子どもの笑い声が聞こえる。


 平和そうだなあ、と思った。


 いや、平和そうじゃなくて実際平和なんだろう。

 少なくとも、競馬場よりは。


「こんにちは」


 受付を抜け、奥へ案内してもらうと、職員さんが笑顔で迎えてくれた。


「桜井牧場さん、どうも」


「どうも。クラウン、どうですか?」


 俺が聞くと、職員さんは、なんとも言えない笑顔になった。


 不安になる笑顔やめてくれ。


「ええ、元気ですし、子どもにも優しいですよ」


「それはよかった」


 おお、本当に?

 クラウン、意外とやるな。


 俺が素直に感心していると、職員さんが続けた。


「ただ……」


 やっぱりただがあるじゃねぇか。


「ああやって、他の馬が乗せる分まで取りに行くのが玉に傷ですが」


「ん?」


 その視線の先を辿る。


 見覚えのありすぎる顔が、ものすごく偉そうに胸を張っていた。


「ちびっこども!看板馬様の背に乗せてやる!!」


 クラウンである。


 たぶん子どもたちには「ヒヒーン!」くらいにしか聞こえてない。


 でも、ノリで伝わっているのか、子どもたちは大喜びだった。


「すごーい!」


「もういっかいのるー!」


 そして、それを見た別の馬が、わりと本気でクラウンに言っている。


「おい、また行くのかよクラウン」

「今日はもう二回乗せただろ」

「あ、代わりに行ってくれるなら頼むわ、クラウン」

「任せろ!!子どもを笑顔にするのも町の代表の仕事だからな!!」


 誰が町の代表だ。


 でも、まあ、うん。

 元気そうだ。


 俺が黙って見ていると、職員さんが苦笑いを浮かべた。


「元競走馬って、最初は環境に慣れなくてピリつく子も多いんですけどね」


「はい」


「クラウンくんは……その……」


「その?」


「最初から妙に自信満々で、“この施設の顔になるのは俺だな”みたいな空気を出してまして」


「うわぁ……」


 想像できすぎる。


「でも、子どもに対しては本当にやさしいですよ。大きな音にも動じませんし」


「へえ」


「たぶん、自分が目立てる場だと思ってるんでしょうね」


「それは、かなりあると思います」


 職員さんと俺は、顔を見合わせて苦笑いした。


「……よろしくお願いします」


「ええ。ちゃんとお休みできるように、時折牧場にお返ししますね」


「助かります」


 ホワイトだな、この職場。

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