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就職先が倒産したので牧場を継いだら、俺だけ馬の声が聞こえるようになりました  作者: 萩原詩荻
第三章 ???

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第三十四話 芦毛率三割を要求する!!

「来たのだね、小さい牧場の若き牧場主くん!!」


 おっきな駐車場に軽トラを止めて降りた途端、声が飛んできた。


 金持である。


 相変わらず、冬なのにコートまで高そうだ。


 いや、冬だから高いのかもしれんが。


「金持も若き牧場主だろ。なんか、こうして来るの久しぶりだな」


 そう、結構久しぶりに俺はゴールドファームに来ている。


 先日、クラウンの引退レース後に電話した約束の詳細を詰めるためだ。


「ようこそ我がゴールドファームへ!」


「何度目だよ」


「何度来ても歓迎してやるさ!」


 言いながら、金持は胸を張った。


 そのまま、くるりと踵を返して、種牡馬エリアに歩きながら話し出す。


「で、大丈夫なのかい?優先権は約束したが、お金は取るぞ?」


 微妙に心配そうな顔をしているあたり、優しいよな。


「溜めてきた」


 俺が即答すると、金持の眉がちょっとだけ動いた。


「これでも色々勉強したんだぞ?」


「ほう?」


「種付けって、ロマンだけじゃ決めちゃダメなんだろ?」


 ここ最近、血統表見すぎて夢にまで見たんだよ。


 ノーザンダンサーが追いかけてくる夢、わりと悪夢だったぞ。


「当たり前だ!」


「でもロマンもゼロではない」


「そのとおりだ!」


 金持が急に楽しそうになった。


 こういう話になると、こいつは本当に元気になる。


「いいだろう、気に入った。で、どの種牡馬がいいんだい?」


 俺は持ってきたクリアファイルから血統表やメモを出した。


 何度も消して書いて、結局「これかな……」になった紙だ。


「カスタードって馬にしようかと思って見に来たんだけど」


 そう言うと、金持が「ふむ」と真顔になった。


 こういう時のこいつは、本当にホースマンの顔をする。


「つける牝馬の血統表等はあるかね?」


「これ」


 俺が差し出すと、金持はその場で受け取って、すらすらと目を走らせた。


 俺が何日も悩んだ紙を、こいつは数秒で読む。

 なんかちょっと悔しい。


「ふっ」


 金持が小さく鼻を鳴らした。


「目の付け所は悪くない」


「おお」


 ちょっと嬉しい。


「見事な配合だと言ってやりたいが……」


 そこで金持が口ごもる。


 あ、ダメ?


「あ、人気すぎて流石に無理?」


 俺が聞くと、金持は少しだけ視線を逸らした。


「いや、その」


「うん」


「人気があるのも事実なんだが」


「うん」


「うーん……」


 歯切れが悪い。


 なんだよ。


「ええい!秘密だぞ!?」


「お、おう」


 何だこの“国家機密を漏らす政治家”みたいな空気は。


「最近、アイツ、二、三回に一回は必ず種付け嫌がるんだよ」


「え~……」


 思わず変な声が出た。


 なにそれ。


「僕たちも困っていてだね……」


 金持は本気で困っている顔をしていた。

 いや、たしかに困るだろうな。


「体調が悪いとか?」


「獣医も見てる。身体に異常はない。食欲もある。元気もある。気分らしい」


「気分……」


「そう、気分」


 どういうことだ。


 その時だった。


 柵の向こうから、やたらと落ち着いた、でもなんか嫌な自信のある声がした。


「おいおい、どうしたガキンチョども。深刻な顔をして」


 振り向くと、宵闇を纏ったような黒鹿毛。


 おお、コイツがカスタードか。写真で見るよりかっこいいな。


 最終的にG1を五つも取った凄いやつ。


 金持は、カスタードが何を言ってるかはわからないので、「よしよし、落ち着いてくれたまえ」とか話しかけている。


 俺だけが、その軽口をそのまま聞いていた。


「深刻というか……カスタード、お前時々種付け嫌がるんだって?」


 次の瞬間、カスタードの顔が変わった。


「小僧!?俺の言葉がわかるのか!?」


「たぶん」


 カスタードは目を丸くしたあと、すぐに何か思い当たったように鼻を鳴らした。


「あ!お前、もしかしてストーンブレイクのババァの牧場の小僧か?」


「あ、誰かから聞いてた? せいかーい」


 ババァって言ってるのは不問にしておこう。


 カスタードは、すごく納得したように鼻を鳴らした。


「なるほどな。だったら話が早い」


「何が?」


「ここの牧場の奴らに俺の話を伝えてくれないか?」


「うん、聞いてくれるかはわからんけど、伝えるのはいいよ」


 ん、なんか問題かリクエストがあるんだろう。


 俺が軽く頷くと、カスタードは急にぐっと首を近づけてきた。


「俺にだって好みがあるんだよ!!!!」


「うわっ」


 でかい。

 声がでかい。


 通路の向こうでスタッフさんが「どうしました坊ちゃん!?」って言ってる。


 カスタードは止まらなかった。


「仕事だからある程度は頑張るけど!可愛い子がいい!!できれば芦毛の可愛い子がいい!!!」


「ぇぇ……」


 俺は思わず半歩引いた。


 お前、そんな理由なのかよ。


「いいか!?お前らも雄ならわかるだろ!?頑張ってもダメな日もあるんだよ!!」


「ま、まあ、わかるけど……」


 わからなくもないが、わかりたくないところで共感を求めるな。


「そうだろう!?頼む!伝えてくれ!!せめて芦毛率を五割とは言わずとも三割くらいは!!」


「三割って結構高くない?」


「妥協してる方だ!!」


 妙な迫力がある。


 五割は高望みしすぎだと思ってるあたり、妙に現実見てるのも腹立つ。


 横で金持が、完全に意味不明な顔をしている。


「ど、どうした、カスタード、そんなに興奮して……?」


 いや、そりゃそうだろうな。


 金持から見たら、カスタードが急に興奮して、俺が「まあ、わかるけど……」とか言ってる光景。


 だいぶ怖い。


「……えっと、金持、あのな?」


「な、なんだね……?」


 金持は、俺の顔を見て、何かを察したような、察したくないような微妙な顔になっていた。

 でも、言わないわけにもいかない。


 カスタードが、ものすごい期待の目でこっちを見ている。


「カスタードが『芦毛のカワイイ子がいい!芦毛率を三割くらいにしてくれたら頑張れる!』って」


「………………は?」


 金持の顔が、見事に固まった。


 いや、そうなるよな。


 俺だって逆の立場ならそうなる。


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