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7/12

母親と息子

今日の客は、イタリア人の紹介で、親子だ。母親と息子らしい。

なにやら、離れて暮らしていた息子が数年ぶりに帰省した所、母が勝手に息子の婚活を進めていたみたいだ。

なんだ?今時そんなことがあるものなのか?

よくわからんな。


俺はいつものように、体を鍛え、銭湯に行き、追加の具材を買っておく。

今日は変なオッサンがいた。

公園の草を抜いてはニオイを嗅ぎ捨てる。

草を抜いてはニオイを嗅ぎ捨てる。

俺がトレーニング中、それをずっと繰り返していた。

何かのフェチなのだろうか。

何かの学者なのだろうか。

不思議なのが、いろんな草を抜いて、そのニオイを嗅ぐなら、なにか研究とか目的なのかなと、まだ理解できるが、

同じような草も抜いているから、意味がわからない。


スーパーの入り口には犬がいた。

飼い主が電柱にひもを巻き付けて、そこで留守番させていたみたいだが、

その電柱をくるくる何周も回ったのだろう。

リードが30㎝くらいになっていた。


俺がその犬を見ると、

「助けて」

と言わんばかりの声を出すので、

犬に触らず、手で誘導して、逆回転させて、苦境から救ってやった。

犬はものすごい笑顔になり、しっぽをめちゃくちゃ振ってきた。


「すまんな。俺は猫派なんだ」

そういい、俺はその場を離れた。

俺とすれ違いに飼い主が現れる。


犬は何度も俺の方を見て、

「ありがとう」

とでも、言いたげだった。


(あばよ。もうバカな真似はよせ)

俺は心の中で言った。


スーパーはタイムセールで混んでいた。

1000円以上お買い上げで豆腐が12円、

クリームパンが38円、シイタケが88円だった。


俺は一瞬立ち止まる。


今日はうどんでも買っておこうか。


20:08、客がうちのアパートの前に来る。窓をあけ、2階まで来るように窓から言う。


「はじめまして、今日はお世話になります」

若い男と、母親らしき女が挨拶する。


「おぅ。まぁ上がってくれ

えっと、悪いんだけどな。

俺は人の名前を覚えるのが苦手なんだ。

だから、息子とオカンって呼ぶけどいいか?」


と俺は言った。


2人ともうなづいた。


「で……、具材はなんだ?」

と言うと、2人は俺に具材を手渡した。

肉:鶏団子、タラ、豚しゃぶ

野菜:白菜、人参、豆腐


なるほどなぁ……。

俺はしばし沈黙する。


「水炊きとかでもいいですよね」

とオカンは言った。


なるほどな。こいつは厄介だ。この空間では、鍋奉行である俺の裁きが絶対。

下手人であるオカンが意見を言うなど、ありえない。

かとって、それをハッキリと言ったのでは、イタリア人の顔が潰れる。


なにかいい理由を考えないと。

「水炊きは3日連続なんだ。今日はピリ辛味噌ちゃんこにする」

と言った。


オカンはうなづいている。


「まぁそこに座ってちょっと待て」

俺がそういうと、2人は座り落ち着きだした。


味噌ベースに、キムチをいれてかな。


今日は中華そばがあるから、ちょうどいいな。


俺は鍋を準備しだした。テフロン製のホットプレート兼電気鍋。


「えっとじゃあ材料を切っていこう」


鶏団子はそのまま、

タラは骨を取る、

豚しゃぶは半分に切って、クルクル巻いておく。


白菜はざく切り、

人参は皮のまま、たわしで洗い、ヘタを落とし、皮をピーラーでむく。

そして包丁で薄切りにする。

皮は千切りにする。

豆腐は人数分に切る。



それでは調理開始だ。


まずはテフロン製の鍋に材料を全部入れる。


そして日本酒と砂糖、味噌とコンソメ、一味と水を入れる。

そして、コトコト煮ていく。


「あとは待つだけですか?」

と息子は言った。


「そうだな」

と俺は答える。


「カンタンですね」

とオカンは言った。


「そうだな。相性がいい素材だからな」

と俺は言った。


「そうなんですね」

と息子は言った。


「まぁ人間関係と似ているかもしれんな」

と俺は言った。


「じゃあまずは飲もう」

俺は箸と茶碗とグラスを渡す。


息子は熱燗

オカンは麦焼酎ロック

だった、


熱燗は電子レンジで作ってやった。


「じゃあ乾杯」

3人で乾杯をした。


3口ほど飲んだところで、

俺は話を切り出した。


「で……どういう状況なんだい?」

俺がそう言うと、


「自分の人生は自分で決めたい」

と息子は言った。


「ただ、あなたに幸せになってほしいだけよ」

と母親は言った。


「あのな。オカン。あんたは親が勝手に決めた結婚だったのか?」

と俺は聞いた。


「私は会社の同僚でそれで夫からプロポーズされて結婚しました」

とオカンは言った。


「じゃあ、自由恋愛だったわけだ」

と俺は言った。


「あんたは、今の旦那と結婚して、この息子が生まれて不幸だったと思っているのか?」

と俺は聞いた。


一瞬オカンの顔がひきつった。

「そんな不幸だなんて……」

オカンは言った。


「じゃあ。姑さんとの関係はどうなんだ。鬱陶しいな。そう思ってるか?」

と俺は聞いた。


「そこまでは思っていません」

とオカンは言った。

オカンの瞳の奥には焦りと恐怖があった。


あぁなるほどな。こいつはコントロール欲求だ。できれば自分の制御下に置きたいという気持ちだ。

そうピンときた。


「あのな。似たケースを35件見てきたが、結局親子断絶だ、

お前らも覚悟しておいた方がいい」

と俺は言った。


「嫌。そんなの嫌です」

と母親は泣きそうな顔になる。


「そんなもの仕方ないだろう。あんたが招いた結果だ」

と俺は突き放す。


「えっそんなことしないよね。縁切るとかないよね」

とオカンは息子の方を見る。


息子はオカンの顔をみず、視線を落とした。


やはりな。息子から、漂っている気配。

あれはうんざりという気配だ。


「なんとか。なんとかしてください」

とオカンは狼狽する。


つい30分ほど前まで、制御下に置いていたと思っていた息子がまさかの制御不能。

その現実に耐え切れなくなったのだろう。


どうしようか。一度だけ助け舟を出してやろう。

基本的に言っておくが、俺はどちらか一方に優しいことはない。

このケースでは、息子が母親の犠牲になる。

そんな事は俺の美学に反する。


この場合は、母親のエゴだ。完全にな。

人というのは、支配と支配される関係になりがちだ。

しかし、俺は嫌いだ。支配もしないし、支配もされない。

それでいて、友好な関係性。これが俺の美学だ。


「ところで息子、その相手ってお前のタイプなのか?」

と俺は聞いた。


息子は嫌そうな顔で手をふる。


「じゃあ。なにかいい人はいるのか?」

と俺は聞いた。


なんかモジモジしている。

「めんどくさい奴だな。ほら耳打ちしろよ」

と俺は言った。


息子は、実は好きな人がいると、そして付き合う寸前だと。

そう答えた。

俺はじゃあ邪魔させないから、上手い事やれ。とりあえず、この場を取り持つぞ。

と耳打ちした。

息子は勢いよくうなづいた。


ほんとカワイイ奴だな。


「なぁオカン。とりあえず5年。そのお節介は封印しろ。息子の人相を見てるとな、モテ期に入ってる。ほっておいても、そのうちいい人見つかるよ」

と言った。


オカンはうなだれた。


「それなら、お前もオカンと離れたいとか思わないよな」

と俺は息子に聞く。


息子はうなづいた。


オカンはほっとした顔をした。


そろそろ鍋が食べられる頃あいだ。


俺は鍋の蓋を取る。鍋から水蒸気と共にうまそうなニオイが立ち昇る。

これはもう食えるな。


「うわ。これ美味い」

と息子


「一味がいい味だしてますね」

とオカンは言った。


それからのんびり酒と美味い鍋をつつきながら、一時を過ごした。


後日、2人は高級あんぱんを持参して、うちにやってきた。


なんと、息子が好きな子と付き合いはじめ、プロポーズにも成功したそうだ。


しかも、オカンとその息子の彼女の趣味が一緒で、めちゃくちゃ盛り上がったそうだ。ちなみにブロマンスで、推しの一部が同じだったそうだ。


だから、姑と嫁という関係より、歳の離れた友達感覚だそうだ。


「あの時べぇさんのところに来ていなければ、こんなに幸せはなかったと思います」

と言っていた。


「まぁ今回のことをわかっただろうが、コントロールなんてしようと思わなくてもいいだよ。オカンがコントロールしたいのは、怖いからだ。でもな恐怖なんていらないだよ」

と俺は言った。


高級あんぱんは美味かったが、ケシの実ではなかった。

すこし残念だった。

まぁコントロールする必要もないのだろうな。

美味いんだし。

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