親友
今日の客は、同僚の親戚の紹介で、親友の関係だ。高校時代の同級生のようだ。
なにやら、隠し事が多くて困っているみたいだ。
なんだ?親友間での隠し事って、逆になんでも打ち明けるものなのか?
よくわからんな。
俺はいつものように、体を鍛え、銭湯に行き、追加の具材を買っておく。
ただ今日は公園に半グレみたいな若い男がいた。
睨んできたが、ほっておいた。上着を脱いで、懸垂とか始めたら、どっかにいった。いったい何をしたかったのか?
スーパーはタイムセールで混んでいた。
欲しい食材がタイムセールにない場合、あんなものはただの迷惑でしかない。
うちの冷蔵庫は小さい。
多量に買っても無駄になる。
今日は中華そばでも買っておこうか。
20:12、客がうちのアパートの前に来る。窓をあけ、2階まで来るように窓から言う。
「うっす。はじめまして、今日はお世話になります」
細い男と、がっちりした男が挨拶する。
「おぅ。まぁ上がってくれ
えっと、悪いんだけどな。
俺は人の名前を覚えるのが苦手なんだ。
だから、スマートとマッチョって呼ぶけどいいか?」
と俺は言った。
2人ともうなづいた。
「で……、具材はなんだ?」
と言うと、2人は俺に具材を手渡した。
肉:鶏のモモ肉、豚の細切れ
野菜:キャベツ、ニンジン
なるほどなぁ……。
俺はしばし沈黙する。
「ちょっと合わなかったですか?」
とスマートは言った。
「いや。大丈夫だ。キムチを入れるかどうかを考えてるんだ」
と俺は言った。
「まぁそこに座ってちょっと待て」
俺がそういうと、2人は座り落ち着きだした。
味噌ベースに、キムチをいれてかな。
今日は中華そばがあるから、ちょうどいいな。
俺は鍋を準備しだした。テフロン製のホットプレート兼電気鍋。
「えっとじゃあ材料を切っていこう」
鳥の鶏のモモ肉は一口大に。
豚の細切れはそのまま。
ニンジンは皮のまま、たわしで洗い、ヘタを落とし、皮をピーラーでむく。
そして包丁で薄切りにする。
皮は千切りにする。
「ニンジンの皮も入れるんですか?」
マッチョが聞いてきた。
「そうだな、野菜も魚も皮と皮の間に栄養素が詰まっているらしく、摂るほうが身体にいい。ただそのままいれると、見た目がきれいじゃないから、こうやって別の形でいれる。すると皮のままではなく、なんとなく、ちょっとしたごぼうのような、なんか別の野菜って雰囲気になるんだ」
と俺は言った。
「なるほど」
とマッチョは喜んでいた。
ついでキャベツは芯の部分を取り除き、葉っぱだけをざく切りにする。
そして、残った芯をみじん切りにして、水にしばらく晒す。
「そのキャベツの芯はなにをされているんですか?」
とスマートは言った。
「あっこれか。これは水に晒して、くさみを取っているんだ。俺はキャベツの芯が苦手なんだが、捨てるのはもったいない。だから芯を取り除き、みじん切りにする。このままだと、ここにキャベツの特有のニオイが強く残っているから、水にさ晒して取り除く」
と俺は言った。
「なるほど」
とスマートは言った。うれしそうだった。反応が似ているな。似たもの同士なんじゃないか?
いったい何を喧嘩しているんだ。
それでは調理開始だ。
まずはテフロン製の鍋に材料を全部入れる。
鶏のモモ肉、豚の細切れ、キャベツ、ニンジン、
うちからは豆腐を提供しよう。
そして日本酒と砂糖、味噌とコンソメ、キムチと水を入れる。
そして、コトコト煮ていく。
「あとは待つだけですか?」
とスマートは言った。
「そうだな」
と俺は答える。
「シンプルですね」
とマッチョは言った。
「そうだな。相性がいい素材だから、シンプルにできる。相性が悪いと複雑になる」
と俺は言った。
「そうなんですね」
とマッチョは言った。
「まぁ人間関係と似ているかもしれんな」
と俺は言った。
ちょっと待てと、俺はちゃぶ台を離れる。
スマホにさっきのセリフを書き留める。
「相性がいい素材だから、シンプルにできる。相性が悪いと複雑になる。人間関係と同じさ」
これメチャクチャカッコいいじゃないか。
俺はこうして、自らの名言を書き溜めている。
ただ見返すことはあまりない。
たんなる癖だ。将来俺のことを物語にする変わった作家でも現れたら、提供してやろうと思う。
まぁ俺のことが物語になることはないだろうがな。
「あぁすまねぇ」
俺が戻ると、二人はスマホをしていた。
「何してるんだ」
と俺は聞く。
「俺はゲームです」
とスマートは言った。
「俺はたんぱく質の計算していました」
とマッチョは言った。
「たんぱく質の計算?マッチョは体重辺り何グラム取ってるんだ」
と俺は質問した。
とたんにマッチョの目が輝く。
「俺は体重辺り2gです。今日はこれだと足りなさそうなので、あとでサラダチキンを買おうかなと思ってます」
と言った。
「そうか。いい身体してるもんな。マッチョは筋肉の付き方からして、ナチュラルだろ。何をやってるの?」
と俺は聞いた。
「そうです。ナチュラルです。メニューはビッグ3がメインです。べぇさんもいい身体ですよね。メニューは?プロテインは何取ってます?」
とマッチョは言った。
「俺のはあんまり参考にならないと思うわ。俺は公園で自重トレなんだけど、懸垂チンニングとディップス、あとは腕立て伏せ、スクワット、Vシット、背筋くらいかな。プロテインは取ってない」
と俺は言った。
「えっ。プロテイン取らずに、その身体っすか。たんぱく質はどれくらいですか?」
とマッチョは聞いてきた。
「正確にはわからないな。朝はコーヒー牛乳だけ、昼はアンパン二つ、夜は鍋だからな。そんなに多くはないんじゃないか?」
と俺は言った。
「まじっすか。それカロリー足りてなくないですか?お酒もカロリー計算入らないし」
とマッチョは言った。
「どうなんだろうな。まぁ色々なんかもらったりするからな。それでカロリー調整してるんじゃないか?」
と俺は言った。
そろそろ鍋が食べられる頃あいだ。
俺は鍋の蓋を取る。鍋から水蒸気と共にうまそうなニオイが立ち昇る。
これはもう食えるな。
「じゃあ食おう」
俺は箸と茶碗とグラスを渡す。
スマートは酎ハイ。
マッチョはジンバックだった。
「じゃあ乾杯」
3人で乾杯をし、鍋をつついていく。
「うわ。これ美味い。めちゃいい味」
とスマート
「これ、全部具材が美味すぎる。これ胸肉でもこの味再現できますか?」
とマッチョは言った。
「胸肉ではちょっと難しいだろうな。たまには鶏もももいいもんだぞ」
と俺は言った。
「そうだ。お前は筋肉のことばかり考えすぎだ。時には緩めろ」
とスマートは言った。
「お前こそ、ゲームばかりじゃないか」
とマッチョは言った。
「まぁちょっと待てよ。あのな。筋トレもゲームも常習性が強いんだ。脳内麻薬みたいなのがでるからな。そういう事をお互いに知っとけ」
と俺は言った。
俺は気が付いた。そうか、こいつらお互いの趣味とかを知ろうとしなくて、それを少し否定的に見てたりするから、分かり合えないのじゃないか?
「えっと、お前らな。お互いの趣味に対してあんまり興味ないだろ」
と俺は言った。
二人ともうなずいている。
「だったら、お前ら1か月だけでいいから、お互いの趣味に付き合え」
と俺は言った。
「なぜ。そんな事をするのですか?」
とマッチョは聞いてきた。
「お前らは親友だけど、趣味の接点が少ない。それがすれ違いの原因だ。お互いの趣味を理解していると、その良さがわかってくる。1か月やって、くだらないなと思うかもしれない。でも面白いなと思うかもしれない。それは負けじゃなくて、人生に楽しみが増えたという点で勝ちだ」
と俺が言うと、二人ともうなづいた。
「さっきな、俺とマッチョがたんぱく質の話をしていて、スマートはつまらなさそうな顔をしていた。あれな、スマートも興味あれば、話に乗っかかれるんだぞ」
と俺は言った。
スマートは納得している。
「あの……俺がスマートに全部言わないのも、実は理解されないだろうってのがあって、前にバカにされた気がしたから」
とマッチョは言った。
「そうか……」
とスマートは落ち込んだ。
「まぁそういう事だ。二人で趣味交換1か月しろ」
と俺は言った。
それから2人は握手をしあい、のんびり酒と美味い鍋をつつきながら、一時を過ごした。
後日、2人は鬼ころしとサラダチキンを持参して、うちにやってきた。
二人ともお互いの趣味にはまって二人の時間が増えたそうだ。
二人はペアリングをつけていた。
「もしかして、あれから二人は付き合ったとか?」
と俺が聞くと、二人は嬉しそうに笑った。
どうも、二人で趣味の時間を共有するようになって、自然とそういう雰囲気になったみたいだ。




