師匠と弟子
今日の客は、知り合いの紹介で、師匠と弟子の関係だ。老舗和菓子店での修行時代に出会った。
なにやら、弟子が独立してから、SNSで店を批判して炎上して、師匠激怒しているみたいだ。
最近こういう話が多いよな。
まったく嫌になる。
俺はいつものように、体を鍛え、銭湯に行き、追加の具材を買っておく。今日はうどんでも買っておこうか。
ちょうどうどんが20円引きで売っていたから、それを買う事にした。
20:00、客がうちのアパートの前に来る。窓をあけ、2階まで来るように窓から言う。
あぁ二人ともギクシャクしているな。こいつは厄介かもしれないぞ。
「あのう。べぇさんですか?」
と若い男は言った。
「そうだ。あいさつはいい。なかに入ってくれ」
と俺は言った。
若い男に続いて年配の男も入ってくる。
「えっと、悪いんだけどな。
俺は人の名前を覚えるのが苦手なんだ。
だから、弟子と師匠って呼ぶけどいいか?」
と俺は言った。
2人ともうなづいた。
「で……、具材はなんだ?」
と言うと、2人は俺に具材を手渡した。
肉:鶏もも、鴨肉、豚バラ
野菜:ごぼう、長ネギ、水菜
なるほどなぁ……。
俺はしばし沈黙する。
「なにか追加で買ってきましょうか?」
と弟子は言った。
「いや。大丈夫だ。味付けを考えてるんだ」
と俺は言った。
「ほら、お前が鳥ももなんか買ってくるから」
と師匠は言った。
「なに言ってるんですか。師匠こそ、何ですか?鴨肉と豚バラって」
と弟子も言い返す。
「お前ら元気だなぁ。
まぁそこに座れ、一見するとバラバラだけどな、悪くねぇ組み合わせなんだよ。だからちょっと待て」
俺がそういうと、2人は落ち着きだした。
こいつらは、悪くない相性だけど、どっかで、反りが合わなくなってるんだろうな。
醤油ベースでするか、味噌ベースか?
今日はうどんがあるから、醤油ベースだな。
俺は鍋を準備しだした。テフロン製のホットプレート兼電気鍋。
20年で3代目だ。どれも客がくれたものだ。
壁には、くれた時に撮った電気鍋と共に記念写真が貼ってある。
俺は単なる記念のつもりだけど、なんかプレゼントは増える。
「えっとじゃあ割り下を作って……酒:みりん:醤油:砂糖だな。
男3人分だから、酒200ml みりん200ml 醤油200ml あとザラメあったかな……
あっ……あんたらザラメ持ってねぇか?」
と俺は言った。
「あっ……ちょっと待てよ。昨日家でみたらし団子作ろうって思って持ってたわ。
ほらこれ」
と師匠は言った。
「師匠これ30gほどもらっていいか?」
と俺が言うと、
「もちろん、いいザラメだぜ」
と師匠は自慢げに言った。
ザラメは宝石のような粒で、均一で、透明感があった。
「なんか……鍋で使うのはもったいないようなザラメだな」
と俺がいうと、
「何を言ってやがる。
あんたは一流の鍋奉行だと聞いたぜ。
一流なら、一流の材料を使うのに、なんで躊躇する。
それに俺も一流の職人だ。
だったら一流で勝負しやがれって」
と師匠は言った。
言葉は強いが、そこには人を思いやる優しさがあった。
「なるほどな。それゃそうだ。じゃあ遠慮なく使わせてもらう」
と俺は言った。
それでは調理開始だ。
まずは長ネギを焼いておく。
すき焼きなら、牛脂を使い、その脂で長ネギを焼けばいいのだが、今回は牛脂がない。
そこで豚バラの脂身を少し取り、サラダ油と共に入れ、その後、長ネギを入れて焼く事にする。
長ネギに火が通ったら、一度取り出し、次は割り下を入れ鴨肉を焼く。
美味そうなニオイがする。
「これ美味そうだな」
と弟子は言った。
「あぁここの肉屋の鴨肉は絶品だ」
と師匠は言った。
「じゃあ、火が通ったら、まずは鴨肉から頂こう。長ネギも入れるぞ」
と俺は言った。
俺は2人にコップを渡す。
師匠の方は大吟醸。
弟子の方は焼酎だった。
「あのお湯割りで飲みたいんだけどお湯とかありますか?」
と弟子は聞いた。
「ちょっと待ってな」
と俺は湯飲みに水を入れ、電子レンジにかける。
(ち~ん)
弟子は興味深そうに様子を見ている。
「へぇ~。ポットとかやかんじゃないんですね」
と弟子は言った。
「うちはガスコンロもないし、電気ポットもない。
でも電子レンジがあるから、これで十分だよ」
と俺は言った。
割り下と鴨肉と独特のいいニオイがする。
「さぁ食おう」
俺は言った。
(はふはふ)
「こいつは美味いね」
師匠は言った。
「ほんと美味い」
弟子は言った。
「よかった。想像以上に美味かった」
俺は言った。
それぞれ鴨肉を食い、それぞれ酒を飲んだ。
「まぁ……あれだ。
それぞれ酒の好みも、具材の好みも違う。
でも同じ鍋を囲むことはできる」
と俺は言った。
2人は黙ったまま酒を飲んでいる。
あぁちょっと考えているな。
「一旦ストップして、次の具材を入れるよ」
俺はそう言い、ほかの具材を入れていく、鶏胸肉、豚バラ、ごぼう、春菊。
そして冷蔵庫の中から、豆腐を取り出し、鍋に入れた。
蓋をしてコトコト煮込み出す。
「それで、弟子はなんでSNSで師匠を批判したんだ」
と俺は聞いた。
「俺なりに現代のやり方で勝負したかった」
と弟子は言った。
すると師匠は、
「やり方は自由でも、人を傷つけるな」と言った。
「まぁ~よさねぇか。弟子はあれか。炎上させたかったのか?」
と俺は質問した。
「いや……、
炎上させるつもりはなかったんだけど……。
あぁなってしまった」
と弟子は言った。
あぁこれは発信が下手くそだったんだな。
「なんか、その発信はお手本にした奴がいるんだろ」
と俺は言った。
「インフルエンサーのBさんです。フォロワーも多いし、発言もいいねが沢山ついてるし、バズったら店な売り上げも上がるかなって思って」
と弟子は言った。
「……で売り上げは上がったか?」
と俺は聞いた。
「店の前で笑いながら写真を取る連中はいるけど、売り上げは上がらなかった。
逆に常連さんが、気持ち悪がって来られなくなりました」
と弟子は言った。
「あのな。あのBさんってのは炎上商法で有名な人で、訴訟も起こされまくってる。
あのいいねを押してるのも、本当に評価しているんじゃなくて、もっと過激な事をしろってフォロワーの煽りなんだよ。
訴訟を起こされまくってもやめないのは、止まったら終わる自転車操業だからなんだ。
わかるか?
そして何割かお前みたいにBさんに憧れる奴がいる。
そして彼の有料サロンとかに入って彼にお金を払う。
そういう裏があるんだよ」
と俺は言った。
弟子は青ざめた顔をしていた。
「なんかコイツ救ってやる事できないですか?」
と師匠は言った。
「師匠……」
弟子は泣きそうな顔をしている。
「う~ん。そうだなぁ、ところで批判ってのは、何を批判したんだ?」
と俺は聞いた。
「素材です。師匠は良い素材ばかり使うんです。それで利益率が低い。良い商品なのに、拡げられない」
と弟子は言った。
「バカヤロー。素材は命だ」
と師匠は言った。
「どっちも正論だなぁ……。
だったら、お互いに同じメニューを作る動画を撮って、師弟対決の動画を発信してみたらどうだ?
そしてお互いの良さを認めあって握手する。
そしたら、お互いの店の宣伝になるんじゃねぇか?」
と俺は言った。
「やりましょう」
と弟子は言った。
「しゃあねぇな」
と師匠は言った。
それから2人は握手をしあい、のんびり酒と美味い鍋をつつきながら、一時を過ごした。
後日、2人が師弟対決の動画と菓子を持参して、うちにやってきた。
師弟対決の動画が受け、2人共の店は過去最高収益をあげたそうだ。
菓子は両方共美味かった。
師匠はお礼にとザラメを、弟子はケシつきのあんばんを持ってきてくれた。
今度は2人でコラボメニューに挑戦するんだと。




