第24話
真咲は寝室に案内された。十二畳の和室には、入り口とは反対側に、もう一つ襖がある。間の襖を取り払えば宴会が出来る広さになるのだろう。床の間には花が生けられ、水墨画の掛け軸が掛けられている。畳は年季が入っているが、畳縁は濃い緑色の地に金の模様が入っていた。
広い和室の中央に、ポツンと床が延べられていた。
「こんな立派な部屋じゃなくてもいいのに」
来客用の部屋なのだろう。広すぎて落ち着かなかった。
「ここしか開いとらんのじゃよ」
遠慮したと思われたのだろう。祖父はそう言って、なぜか祖母と顔を見合わせて頷き合った。
「疲れたじゃろう。ゆっくり寝んさい」
客用の布団に真新しいシーツ。あまりに大事にされすぎて、真咲はくすぐったい気持ちのまま、柔らかな布団に入った。
枕元に座り、慈しむように真咲を見詰めて、祖父母は微笑む。
「お祖父ちゃん」
真咲は小さな声で、そう呼んでみた。
「何じゃ?」
さっき見せた険しい眼差しは何処へ行ったのかと思う程に優しい顔で、祖父が答える。
「おやすみなさい」
「はい。お休み」
「お祖母ちゃんにも言っておくれ」
そう言われて、鼻の奥がツンと痛くなった。
明日、麻美さんに全部話して、ちゃんと謝ろう。叱られても、また祖父母に会いに来させて貰えるよう頼もう。そう思った。
「おやすみなさい、お祖母ちゃん」
祖母に向かって、そう言った時だった。どこかで風の音が聞こえた気がした。襖を隔てた庭の方からだ。何かが揺れるバタバタという音も小さく聞こえる。何気なく祖父の顔を見た真咲は驚いて息を呑んだ。柔和だった祖父の顔には、先程玄関で見た時のような険しさが戻っていた。
「ええか、真咲」
低い声で祖父は言った。
「明日の朝、儂らが起こしに来るまで、絶対に起きちゃなんねえ」
丞玖の田舎で言われたような言葉に、真咲は返事も出来ずに祖父を見詰めた。祖父は広間を仕切る襖に顔を向けたまま動かない。睨んでいるようにも見えた。
「便所は内廊下を通って行きゃあええが、縁側に出ちゃなんねえ。いや、この襖を開けちゃなんねえ」
疑問を差し挟む余地もない、厳しい声だった。振り向いた祖父の眼が怖かった。
真咲が黙って頷くと、祖父は、また優しい顔で笑った。
「怖がらんでもええ。言うとおりにすりゃ、何も起こらん」
祖父は立ち上がり、四枚立ての襖の中央に小さな紙を貼った。何だろう。筆書きで梵字のようなものが書いてある。御札のように見えた。
不安気な真咲を宥めるように、念のためのおまじないだと祖父は言った。
「儂らは隣の部屋に居るけえ、何かあったら呼びんさい」
そう言って、祖父は部屋の灯りを消した。やはり疲れていたのか、それを合図にしたように、真咲の意識も、すとんと闇に落ちた。




