表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/35

第13話

 みそぎという名の入浴を終え、丞玖の祖母に案内されて奥まった部屋に入ると、何人かの大人たちが待ち構えていた。着ていた服を脱がされ白い単衣ひとえを着せられる。鏡に映った着物のえりは左前。死装束しにしょうぞくのように見えた。

 唇に紅を差され、花嫁衣裳のような白打掛(うちかけ)と綿帽子を被せられる。鏡の中に、かつて恋()がれた女性の姿を見た気がして、心臓が音を立てた。

「綺麗やねえ」

 着物を着せてくれた女性が、満足そうにそう呟く。

「十時や。そろそろ行くで」

 入り口から声が掛かり、丞玖の祖母が頷いて真咲の手を取った。


 廊下に用意された屋根のない輿こしに乗せられ、真咲は旅館の外へ出た。読経のような声に先導され、静々と輿は進む。時間をかけて村を一周する間に、後に続く行列は最後尾が見えないほどに長くなっていた。やしろへ向かって続く道は薄暗く、村人たちが持つ提灯の灯りだけが足元を照らす。

──金襴緞子きんらんどんすの帯締めながら 花嫁御寮はなよめごりょうは なぜ泣くのだろ

 ふと、そんな歌が頭に浮かんだ。真咲が着ているのはきらびやかな衣装ではないのだけれど。

 かつて婚姻は家と家とのもので、花嫁は相手の顔も知らずにとつぐこともあったという。だから悲しかったのだろうか。だから泣いたのだろうか。

 石造りの階段を上がり切ると、ほの暗い灯りの中に小さな社がぼんやりと浮かび上がった。昼間は神楽が催され賑やかであったその場所は今、しんと静まり返り、虫の鳴き声すら聞こえない。人々の息遣いが聞こえる程の静けさだった。

 輿が停まったので降りようとした真咲を、誰かの手が止めた。小さなさかずきを手渡され、暗闇から酒が注がれるのが見えた。

「飲み」

 知らない声に飲むよう促され、真咲は盃に口をつけた。酒は滑らかに喉を通り、胃袋へと流れて行く。一拍遅れて喉が熱くなり、身体の内部で熱が発生したように感じた。

「さあ、こっちへ」

 手を取られ、輿を降りる。少し足元がふらついた。

 木の感触の階段を裸足で踏み、開けられた扉を潜る。一段高くなったところに夜具やぐが設えてあった。打掛と綿帽子を脱がされて横になるように言われ、枕に頭を乗せると、目の上に薄い布が置かれた。

「朝まで目え開けたらあかんよ」

 その声を潮に、人の気配が遠ざかった。少し離れたところで祝詞のりとのような声がして、扉が閉まる音がする。かんぬきが掛かる音を聞いて、真咲は思わず起き上がった。

 完全な闇が真咲を包んでいた。あしおとが遠ざかっていく。真咲はあきらめて布団に横になり、まぶたの上に布を乗せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ