第13話
禊という名の入浴を終え、丞玖の祖母に案内されて奥まった部屋に入ると、何人かの大人たちが待ち構えていた。着ていた服を脱がされ白い単衣を着せられる。鏡に映った着物の襟は左前。死装束のように見えた。
唇に紅を差され、花嫁衣裳のような白打掛と綿帽子を被せられる。鏡の中に、かつて恋焦がれた女性の姿を見た気がして、心臓が音を立てた。
「綺麗やねえ」
着物を着せてくれた女性が、満足そうにそう呟く。
「十時や。そろそろ行くで」
入り口から声が掛かり、丞玖の祖母が頷いて真咲の手を取った。
廊下に用意された屋根のない輿に乗せられ、真咲は旅館の外へ出た。読経のような声に先導され、静々と輿は進む。時間をかけて村を一周する間に、後に続く行列は最後尾が見えないほどに長くなっていた。社へ向かって続く道は薄暗く、村人たちが持つ提灯の灯りだけが足元を照らす。
──金襴緞子の帯締めながら 花嫁御寮は なぜ泣くのだろ
ふと、そんな歌が頭に浮かんだ。真咲が着ているのは煌びやかな衣装ではないのだけれど。
かつて婚姻は家と家とのもので、花嫁は相手の顔も知らずに嫁ぐこともあったという。だから悲しかったのだろうか。だから泣いたのだろうか。
石造りの階段を上がり切ると、ほの暗い灯りの中に小さな社がぼんやりと浮かび上がった。昼間は神楽が催され賑やかであったその場所は今、しんと静まり返り、虫の鳴き声すら聞こえない。人々の息遣いが聞こえる程の静けさだった。
輿が停まったので降りようとした真咲を、誰かの手が止めた。小さな盃を手渡され、暗闇から酒が注がれるのが見えた。
「飲み」
知らない声に飲むよう促され、真咲は盃に口をつけた。酒は滑らかに喉を通り、胃袋へと流れて行く。一拍遅れて喉が熱くなり、身体の内部で熱が発生したように感じた。
「さあ、こっちへ」
手を取られ、輿を降りる。少し足元がふらついた。
木の感触の階段を裸足で踏み、開けられた扉を潜る。一段高くなったところに夜具が設えてあった。打掛と綿帽子を脱がされて横になるように言われ、枕に頭を乗せると、目の上に薄い布が置かれた。
「朝まで目え開けたらあかんよ」
その声を潮に、人の気配が遠ざかった。少し離れたところで祝詞のような声がして、扉が閉まる音がする。閂が掛かる音を聞いて、真咲は思わず起き上がった。
完全な闇が真咲を包んでいた。跫が遠ざかっていく。真咲は諦めて布団に横になり、瞼の上に布を乗せた。




