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公爵様は見る目がない!  作者: 猫森まりも
第二部 夫婦、初心者から始めます
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それぞれの答え

「…エリーナ、どうしてそんな顔をしてるんだ」




言葉と共に手が伸びてきて、頬にかかっていた一房の髪が掬われて耳にかけられた。私はと言えば、その間動くこともできずに自然と落ちていた視界の中で旦那様の綺麗に磨かれている靴を見ていた。




「…すまない。私には、君がどうしてそんなに辛そうな顔をするのか、その理由が分からない。ただ、私が悪いのだろうということしか分からない」




貴方こそどうして、そんな辛そうな声をしてるんですか。


あまり滑らかとは言えない動きで何とか顔を上げた先には、本気でわたしを心配してくれてると分かるアメジストの眼差し。


言わないと。押し付けたりしないからって。何も望まないからって。こんなワガママは最後にするからって。




「…ち、違うんです、私…。あの…。た、ただ、気持ちを伝えたかっただけで…。な、何も望みませんから…。ご、ごめんなさい…。忘れて、ください…」




何だか悲しくなって虚しくなって、瞳が潤んで視界が歪んでも零すまいと何とか堪えたせいで、声が震えた。それでもちゃんと言いきった。辛くないと言ったら嘘です。でも、貴方を悩ませるくらいなら、煩わせるくらいなら、私が辛い方がいい。




「…君は本当に何も望まないのか?伝えるだけで良いのか?…それなら何故泣いているんだ?」




旦那様の大きな手が私の頬に触れて、そっと撫でていく。親指が目元を滑り、目尻からこめかみの間を擦るように撫でる。エスコートとダンス以外で触れられるのは初めてだった。


いつの間にか零れた雫が優しい指先に掬われて拭われて。こんなに優しいのに。期待させるようなことしてるのに。




いつも、この瞬間でさえ、彼の瞳には強い熱を感じない。




「私…、気付いてました。貴方は優しくて、私の甘えやワガママを許してくれて、誠実に接してくれていましたけど、愛してくれているわけではないこと…。だから、私の気持ちを押し付けたら困らせてしまうって…」




この人は自分の言った言葉の通り、『対等な立場の契約を結んだ夫婦』であろうとしているだけで。それだけなのに優しく誠実に接してくれていた。それ以上を求めてはいけない。




「…君は勘違いをしている。私は君の想いを嬉しく感じている。だが、君の言うことが間違っているわけでもない。私は君に対してだけでなく、誰に対しても何に対しても、愛情を抱いたことがない。だから、君に向けている自分の感情が何なのか分からないんだ」




そっと離れていく手に引かれるように視線が動いて、改めて見たアメジストの瞳には微かな翳りが見える。


悲しみか、苦しみか、戸惑いか。全てを推し量ることは出来ないけれど、見つめていると胸が締めつけられるようだった。




ーー愛情を抱いたことがない、だなんて。




私はこの人のことを、まだまだ、何も知らない。もちろん知りたいけれど、知りたいとか教えてほしいだなんて言えるわけがない。


私は何も知らないクセに、一体何を好きだと、愛していると言っているのだろうか。




「…もう少し時間をくれないか。君の想いに対して…、自分の感情に対して。自分なりの答えを出したい」




ーーありがとうございます。貴方のその言葉だけで、報われた気がします。




自然と口角が上がる。落としどころが見つかった、と思った。




「…私も、もう一度考えてみることにします。貴方の事をまだ何も知らないって気が付きましたから。考え直して、見つめ直して。私も答えを出してみようと思います」




上がった口角はそのままに。社交の鉄板である淑女の微笑みで言葉を返すと、旦那様は困ったように眉を寄せてうっと引きつった声を漏らした。


告白の返事を保留にされたのでそれならこちらも告白そのものを保留にしますね。と、つまりはそういったことを言ったのだ。何と言うことはない、ちょっとした意趣返しだ。でも思った以上に狼狽えている様子を見ると、溜飲が下がるというか、少しばかりくすぐったくもある。




「さぁ、旦那様。そろそろ戻りましょう?私、少し寒いです」


「…わかった」




すっと隣へ移動して、旦那様の顔を見上げながら腕に手を添え、首を傾げて強請るように言うと、旦那様からは眉を寄せたまま何か言いたげな視線を寄越された。だがすぐに小さく溜息を吐いて私の手を取ってエスコートの形に添え直させて、邸へと歩を進めて行った。



消化不良気味。。。

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