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公爵様は見る目がない!  作者: 猫森まりも
第一部 雇用契約?公爵夫人、始めます
19/44

ほんの少しの身の上話

今回は少し短めです

「私と公爵様で結んだ契約には、婚姻後の生活についての項目がありませんでしたよね?なので、新しく契約を結びたいのです」



公爵様に人払いを頼み、サロンに二人きりになる。正直なところ、ここまであっさりと人払いを認めてもらえるとは思っていなかったが、相手が聞き入れる気になっているのならこのままの流れで話してしまわなければ。


公爵様はこちらへの返事としての言葉は発さない。険しい表情ではあるものの、私から発せられる言葉を聞き取ろうとしているのは分かる。だから、私も言葉を続けることができる。



「…少し、私の話を聞いていただけますか。今の、私のことを」



エリーナ・マクワイア・ローゼンベルク。これが今の私の名前。肩書としては、一般的には公爵夫人になるだろう。けれど、私がマクワイアの姓を名乗り続けることには理由がある。



「公爵様は、婚姻条件として、伯爵以上の家門で、その嫡子であることとしましたね。私はその条件に当てはまります。マクワイア伯爵家でその条件を満たすのは私だけ。父も義妹もマクワイアの姓を名乗る資格はありません」


「…父親も?」



公爵様は目を見開いて小さく息を飲み、驚きも隠せずに思わずと言った風に呟きが漏れた。当然のことだろう、最初の契約を結んだ相手なのだから。



「マクワイア伯爵家は、建国の前より続く家門。古くからの血統を守り続ける、今や数少ない由緒正しい家系。王家から、嫡子相続の為に女性が継承することを認められている稀有な家門でして、正当な継承者は私の母。父は入り婿です。母が亡くなった時、嫡子である私はまだ子供で、当主を継ぐことができなかったので父が代理として伯爵を名乗っていたのです」


「…成程、そうか。『血継貴族』だったな」



失念していた、と片手で頭を抱えて、公爵様は少し俯いて溜息を吐く。


『血継貴族』というのはこの国にだけある言葉で、建国の頃からの血筋を確実に繋いできている貴族の家門のこと。王家への絶対の忠誠の代わりにいくつか優遇されることが約束されている。


マクワイア伯爵家は血を確実に繋ぐため、女性であっても爵位を継ぐことが認められている。



「私が伯爵位を継ぐには、二十歳になるか婚姻することが条件となりますので、私は二十歳まで待つつもりでした。ですが、思いがけず婚姻の話を頂けまして、先日申請も済ませ、無事爵位を継承致しました。公爵様のお陰ですわ」



感謝しています、と。立ち上がって恭しくお辞儀をして見せる。母が亡くなったのが八歳の時。十二歳の時から領地にずっと閉じ込められていた。自由だけど不自由。不満が合ったかというとそれ程でもないが、失ったものと奪われたものの大きさが、存在感が、ずっと私を苛んでいた。取り返す為には、歪みを正すためには当主の座が必要だった。ずっとずっと、その時を待っていたんだ。


鼻がつんとするのを誤魔化して、小さく息を吐いて口を引き結び、もう一度笑みの形に変えて、頭を上げて相手を見据える。


事実を飲み込んでいる最中の相手の顔は、困惑の色が強かった。でもその中で対のアメジストは、どこか憂いを帯びているように見えた。



「…私の話を知って頂いた上で、やっと、契約の話となりますが」



椅子に座り直して、すっかり冷めてしまった紅茶を飲み干す。いつの間にか喉がカラカラになっていた。


この程度話すだけでこうなってしまっては、これ以上に複雑な事情なんて話せるわけがない。


向かい合った相手を見ると、あちらも既に冷めきった紅茶を口にしている。顔色は既に平常時のものに戻っているが、目が伏せられているのでアメジストの輝きは見えない。



彼のアメジストは不思議な色をしている。よく、瞳に吸い込まれるだなんて比喩があるけれど、それとは違う。寧ろこちらに入り込んでくるようなものだと思う。萎縮させられたり、魅了されたり。相手の思考や心を捉えて、自由を奪うものだ。メドゥーサと評した私は天才かもしれない。


マナー違反にならない程度に、かちゃりと音を立ててティーカップをソーサーへ戻す。空のカップは高い音を響かせた。



「簡単な話ですわ。貴方にも私にも、後継ぎが必要になるということ。それを解決するための契約です」


「…というと?」



公爵様はまだ口元にカップを持っていたが、冷静な光を湛えた射抜くような視線を向けてくる。だが、もう怯まない。馬鹿正直に視線を受け止めさえしなければ。



「子供は最低でも二人以上欲しいので、ご協力いただきたいということです」


「ごふっ?!」




途端、公爵様は噴き出した。紅茶、まだ飲み干してなかったんですね。





頭が悪いわけじゃないんだけど、ちょっとポンコツなんだよねってやつ。

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