前夜
突然の訪問者が帰った後、父と母は居間のテーブルで向かい合って話し合いをしていた。
「まったく此処の領主はよっぽど用意周到な性格をしているね。
周りにちゃんと見張りを付けているようだ。
しかも、結構腕が立ちそうな感じの...。
君の家族は余程脅しをかけたんじゃないかなあ。
あっでも、友人と言ってたんだっけ?
こんな辺境まで伝手があるアルバートは本当に有能な若者だなあ。」
「愚弟に感心してる場合じゃないのよ。
まったく、いい加減あきらめて欲しいわ。
私はただ平凡に静かに暮らしたいだけなのに。」
「まあ、君がまず非凡だから無理だと思うけど、
君が頑なに連絡を取らないから、追ってしまうんだよ。
こまめに連絡とればここまで執着しないんじゃないか?。」
「何言ってるの連絡とったからって、次に待ち受けるのは
こと細かく日常報告する羽目になるのよ。
あなたは私の家族と暮らした事が無いから分からないから
お気楽に考えられるんだわ。
四六時中私の周りに居座り面倒くさいのよ。
言葉にしなくても私に妙な空気を醸し出されたり
ネチネチネチネチ説教されたり
スキンシップされまくり
監視されまくり私がどれだけ苦労してあなたと一緒になったと思うの!」
「まあ、大人しく行くのが無難みたいだね。
いい加減覚悟を決めたらどうだい。
私としても、旅をしながら生活するのは構わないが
教育上もうそろそろ本格的にルークに学ぶ機会をあげたいし
レイも体が弱いから心配だ。
それに、いつまでも人探しの旅で転々として
君や家族に苦労を掛け続けても....。」
「だから、あなたと一緒になる時にも言ったでしょ。
どこまでも付いて行くし、
各地を回っても手掛かりも無いけど...一生かかってもあきらめない。
あなたは父親を探すのをあきらめるの?」
「探すのはどうにでもなる、それに平民街の街や都市に手掛かりが無いとしたら
あとは、貴族...だったら分かるかもしれないしね」
両親が何やら話し込んで、とても声をかける雰囲気ではないのは十分わかるが
私はもう、限界だ。
カミル・カイ・セシルが誇りある狼だろうが何だろうが構わない!
誰もがほれ込みそうな美形でイケメンだろうがこの際関係ない!
この.......バッッッカ犬っころども...。
この......バッッッカ兄。
私のこの恨み..バカの小っちゃい”ッ”が多いのは
私の我慢してる大きさだと、皆さんに、分かってもらいたい!切実に!
だれか私のこの不機嫌気まわりない状況を理解して欲しい。
そう、.....正月の、もち二つとみかんが三段のせてある鏡餅みたいに。
2番目に大きいカミルが一番下に寝そべり、
その上に乗せられている.........わ・た・し。
私の上に載っているのは一番小さいセシル。
右側には兄ルークが、左側は一番大きいカイが、
挟むようにそれぞれ寝そべって圧ぐるしい上に熱い狭い重い苦しいうえに、
何よりも能天気に私以外はルンルンとご機嫌がよろしいようで、みんな笑顔である。
そんな中私一人が、目が吊り上がり、口も不貞腐れたように般若のように
到底子供がしないような顔をしていた。
そして、
「うーーーーー」
私はまるで犬が怒って唸ってるように、最後の気力を振り絞って声を出し、
私の最大の理解者である人に助けを求めた。
「レイなの?.....って何て酷い。」
「レイか?......って何て完璧な共存だ。」
「.............。」
母クリスと、父ラルフのそれぞれ全く違う
言葉が飛び交いお互いに妙な間ができた.........かとおもったら、
母は無言で軽やかに歩いてこちらに来て
間の私をすばやく救出し、汗ばんでいる私を見た後、
回れ右といわれたようにすばやく、父に向き一言。
「何が、”完璧な共存”なのかしら?」
まるで、凍えるような微笑を突きつけながら父に言った。
「いっ、や...あ...のだで...」
父もあまりの動揺で何を言ってるかわからない。
無言でまた催促するかのように母の笑みが深まった。
「あのだなあ、4人全員無駄なく、完璧レイと触れ合うことが出来
かつ!寒い中温まることが出来、どんな状況にでもレイを
四方から守ることが出来、何よりもレイとのふれあいを最小限漏らすことなく味わえる
最上の方法じゃないか。4人全員が余す事無く幸せになる方法じゃないか!
いや待てよ!私が抜けてる!クリスすまない間違っていた。
完璧ではないな。何より私が抜けているではないか!
間違っていたよ完璧ではないね、まあ共存ではあるけどっつ....」
父も相当あわてていたのであろう、緊張のあまりまくし立てるように早口で
一人で一方的にしゃべっていた。
「それで終わりかしら?
”レイ抜きで”5人がよろしいのでしょう?」
そう言うとポンと父を兄達の所へ押して
「これで完璧でしょう。仲良く寝てくださいませ。
ルーク、カイ、カミル、セシル、レイが苦しんでるのに気づきませんの?
紳士ではございませんね。気をつけてくださいませ。
ああ、言い忘れました。本日十分に幸せにお過ごしでしょう。
しばらく、皆様全員レイと接触禁止でございますわ。
いい夢を見てくださいませ。それでは皆様、お休みなさいませ。」
母は丁寧に、ゆっくり皆に言うと私を連れて静かに寝室へ歩き出した。
この日の、優雅に笑顔で丁寧に話す母が生まれて初めて一番怖かった。
もちろん、この日は全員誰もこれ以上言い訳する事無くただ、黙っていた。
そして、しばらく私の安心安眠快適な生活が続くのであった。




