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第九話 SASU〇E(その1)

翌朝。日課のランニングをしようと屋敷を出ると、大手門の前にまさかの三人の男たちが待ち構えていた。


ただでさえ前田利家という体育会系一人でも持て余しそうなのに、何でメンバーが増殖しているんだ。


利家の隣で、いかにも「デキる男」のオーラを全身から放っているガタイの良い侍を利家に紹介してもらうと、佐々成政だった。


歴史に詳しくないおれでも、さすがにその名前くらいは有名だから知っている。


見た目は絵に描いたような剛直な武士という感じなんだが、なんというか、デカくてお利口そうな秋田犬みたいだ。


そしてもう一人は、頭から爪先まで埃まみれの藤吉郎だった。おおかた、利家と成政の二人に「面白いトレーニングがあるぞ」とでも言われて、朝っぱらから無理やり拉致されて連れてこられたんだろう。


おれは心の中で(平社員、まじで不憫だな)と苦笑いした。軽く挨拶を済ませて四人でランニングへと向かった。


その道中、おれは領内の小山にある、「秘密の特訓場」へとみんなを案内した。




「なんじゃこれは、見たこともない奇妙な木組みばかりじゃな」


目を丸くして驚く利家たちに、おれはそれぞれの「エリア」の遊び方を順番に説明していく。


そもそもこの訓練場は、小さい頃のおれが前世のテレビ番組『SASU◯E』の大ファンだった記憶を頼りに、半紙に描き殴っていた落書きが発端だ。


それを偶然見つけた父上が「おい時泰、これは足腰の鍛錬にめちゃくちゃ良さそうではないか!」と大興奮し、領内の小山を丸ごと一つ使って作らせてしまったものだった。


最初は原始的な丸太とロープだけの細々とした設備だったが、たこ焼きビジネスが爆発的ヒットを記録して横井家がバブル状態になってからは、潤沢な資金を注ぎ込んでかなりの完成度へとリフォームされていた。


戦国時代の技術で再現不可能なギミック(電動の回転系など)は作れていないが、人力の滑車や重りを駆使して、今や『サードステージ』まで完成している。


とりあえず、三人には手始めに『ファーストステージ』に挑戦してもらうことにした。


まずは成政が「ふん、こんなもの簡単よ」と余裕の笑みを浮かべて突撃していったが、最初のエリアである『クワッドステップス(斜めに配置された四つの板)』で飛ぶタイミングを完全に見誤り、二歩目であっけなく泥水の池にドボンと落ちた。



「あ、れ、えーっと……おっかしいな……」



池から這い上がってきた成政は、顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。


そうそう、SASU◯Eで最初のアトラクションで秒殺された人って、みんなテレビでこういう何とも言えない恥ずかしそうな顔をするよね。


続いて、藤吉郎が『ローリング丸太』へと果敢に挑戦する。


利家「藤吉郎ならいけるぞ! 猿のようにしがみつけ!」


成政「そうだ、その丸太を敵の首級だと思え! 絶対に手を離すなよ!」


藤吉郎「ふんぬぅぅ! 回転が上がってまいりましたが、この程度なら……ぬぉっ、ま、丸太の、か・い・て・んがぁぁぁぁ……! ぬ、おぉ、おわぁぁぁ!!」


利家・成政「耐えろ、耐えるんじゃ藤吉郎ーーっ!!」


藤吉郎「む、無理じゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」


絶叫と共に藤吉郎の手が引き剥がされ、彼は綺麗なひねりを加えながら空中を回転し、盛大な水飛沫を上げて池へと落下していった。


そんな中、流石は槍の又左と言うべきか、前田利家はなんと初挑戦にして、ファストステージの最終関門である『そり立つ壁』まで一気にたどり着いてみせた。


一回目「ぬぉぉぉぉぉぉぉ!!」(あと数センチ届かず滑り落ちる)


二回目「ぬ、ぬぉぉぉぉぉぉぉ!!」(壁に激突して跳ね返される)


三回目「ぬ、ぬ、ぬぉぉぉぉぉぉぉ!!」(全力で地を蹴るが、無情にも指は届かない)


無念の時間切れ。


ちなみに、おれ自身は今、サードステージの最凶エリアである『クリフハンガー(指先だけで突起にぶら下がって進む壁)』を絶賛攻略中だ。


三人は、おれが汗でびしょ濡れになりながら極限のコースをじわじわと攻略していく様子を見て、完全に一観客として「時泰! いけえええ!」「落ちるな!」と喉を枯らしてめちゃくちゃ応援してくれた。


そしておれが最後の突起を掴み、クリフハンガーの完全攻略に成功した瞬間、池に落ちてビショビショの藤吉郎や、成政、利家の三人が、なぜかボロ泣きしながらおれに全力で抱きついてきた。


「時泰様、感動いたしましたぁぁ!!」


「見事じゃ時泰! 漢の意地を見せてもらったぞ!」


いや、何この熱い感動ドキュメンタリー番組。


おれは涙を拭う彼らに、「ファーストステージをクリアするためには、まずは基礎的なラダー(縄梯子)のステップや、バトルロープ、そして高低差のある階段ダッシュで徹底的にフィジカルを鍛え直す必要がある」と、テレビの解説者気取りで教えてやった。


すると三人とも、目の色が一瞬で変わり、まるで獲物を見つけた飢えた猛獣のような眼光でトレーニング用具に飛びついていった。


藤吉郎「なんじゃあの回転丸太は! 狂った馬の背中どころの騒ぎではない! あれにしがみつくなど、本当に人間にできるのですか!?」


利家「あと少し……あと少しなんじゃ! 指先さえあの壁の天辺にかかれば……! 登りたい、なぜかは自分でも分からんが、儂はあの『そり立つ壁』をどうしても上りきりたいんじゃぁぁ!!」


成政「なんじゃあの斜めの飛びクワッドステップスは……! 悔しい、まったく飛ぶタイミングが掴めん! もう一回、もう一回走らせろ!」(※それ、まだ最初の障害物です)



彼らの凄まじいハマりっぷりを見て、せっかくだから、今度は藤吉郎が抱えている百人の足軽隊(藤吉郎隊)も、全員この訓練場へ強制入隊させてみようか。

みんなで黒いお揃いの法被でも着て、戦国版の『横井黒虎軍団』とか結成したら、面白いかもしれない。



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