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第十話 SASU〇E(その2)

それから、一年が経った。


横井領内にあるあの小山からは、今日も今日とて、野太い漢たちの熱い叫び声が響き渡っている。


この一年の血の滲むような特訓の末、藤吉郎はなんと『セカンドステージ』の最終エリアである『ウォールリフティング(持ち上げる壁)』までたどり着いていた。


ギミックの作りは至ってシンプルで、丸太を重ねて作った落とし壁の裏側に、石を詰めた麻袋を仕込んで全体の重量を調整したものだ。だが、その総重量は前世の一般成人男性の限界を遥かに超えている。


残り三十秒。


「これで最後の障害じゃあぁぁ!! 1枚目、ぬぉっ!  2枚目、こ、これしきぃ! ぬぉぉぉっ!! ――残り十五秒。 3枚目、これでラストじゃ! お、重い! 上がらん……っ! 腕が限界だ、もう無理か……。 否! みんなが見ている前で……ここで不甲斐なく負けてたまるかぁぁぁ!! うがぁぁあぁぁぁ!!」


ガシャン、と丸太が最上部で固定される。


あと五秒。


利家、成正「あと五秒だ走れぇぇ!」


藤吉郎は足をもつらせながらも、転がるようにゴールに駆け込んだ。


セカンドステージ、クリア!!!


藤吉郎は、完全に力を使い果たした状態で大の字に仰向けになり、両腕を空に突き上げた。



一方、成政は最凶の『サードステージ』、あの『クリフハンガー』までたどり着いていた。


「たしか、あの壁の細い突起に指先をかけて、横に進んでいくんじゃよな……。


これまでのステージと違い、この剛腕がフルで活かせるクリフハンガーとやらなど楽勝よ!


「成政、いきま~~~す! 」


(ふんっ!! ――あ、スルッ、あ……)


ドボォォォン。


成政、アウト~~~。


そう、ただの「握力勝負」だと勘違いした初心者は、例外なくこうやって初手で池に落ちるのだ。


指先だけじゃなく、肩、背筋、そして体幹全体を使って己の体重を分散させ、絶妙に支えなければいけない。


一歩も進めずに秒殺された成政は、池から這い上がり、絵に描いたような涙目でうつむいていた。


大丈夫だ秋田犬(成正)、みんな最初はそこから始まる。



そして最後は、前田利家だ。


彼も同じく『クリフハンガー』の前へ立っていた。これまで実に二十回目の挑戦になる。


「今日こそ、今日こそ絶対にクリアしてみせる! 肩と腕で体重を支え、体幹を極限まで締める……! ふんっ!!」


利家は凄まじい集中力で突起に指をかけると、鍛え抜かれた肉体で横へとスライドして進んでいく。


上下に変則的な段差がある難所コースをじわじわと越えていく。


流石に後半、その腕には強烈な乳酸が溜まり始めていた。


そして、ついにやってきた。突起から手を離し、身体を反転させて後ろの壁の突起へと飛び移る、このエリア最大の難所だ。


「足を振って反動をつけて……おらぁぁぁ!!」


利家は空へと飛び出した。反転。ガシッ!!


「あ、離れる、指がっ……!」


右手が突起から外れる。だが、利家は諦めなかった。


「この左手だけは、絶対に離さん!! ぬぉぉぉっ!! 絶対に離さんぞっ!!」


驚異的な執念で左手一本で自重を支えきり、利家はそのままゴールへとたどり着いた。



サードステージ、完全クリア!!!



「やったぁぁぁぁ!!」とおれたちは歓喜の声を上げ、利家、時泰、成政、藤吉郎の四人で泥まみれのまま固く抱き合って喜んだ。



ちなみに、彼らの熱量に引っ張られるように、藤吉郎が率いる百人の足軽隊(藤吉郎隊)や、横井領の家臣たちまでもが次々と特訓に参加し、今では全員がなんとか『ファーストステージ』をクリアできるレベルにまでフィジカルが底上げされていた。


おれは泥を拭いながら、遠くでラダーに励む足軽たちを眺める。

(よし、これだけ強靭な足腰と基礎体力が身につけば、この先、何かしらの大きな戦に巻き込まれたとしても、全員の生存率は格段に跳ね上がるはずだ)




『SASU◯E』のおかげで、利家、成政、藤吉郎の三人の結束が、史実を遥かに超えて強固なものになったのは言うまでもない。


このままおれの作ったこのおバカな訓練場で培った絆が、彼らの未来の運命を少しだけ変えて、後々お互いに敵対し合ったりしない平和な世界線へと繋がっていけばいいのだがな。おれはそんな淡い期待を、胸に抱くのだった。

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