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第六話 たこ焼きが食べたい(後半)

熱した鉄板に油を引き、よく溶いた生地を流し込む。


とぽ、とぽ、と、穴が埋まっていく。


「なぜ、わざわざ丸い形にする必要があるのでございますか?」


おれの横で、試作品を届けにきた鍛冶屋のオヤジが聞いてきた。


「いや、知らん」

たこ焼きがなぜ丸いかなんて、普通の現代人だったおれに聞かれても知るわけがない。


「丸いから美味い。それ以上でも以下でもないんだよ」


おれが串をを両手に持ってクルクルと生地を回そうとした、その時だった。背後の空気が、にわかに一段と冷え込む。


おれは前世で読んだ「なろう小説」の記憶を総動員した。


こういう美味そうな匂いをさせている時に、背後から音もなく現れるキャラクターは、世界線が変わろうとも一人しかいない。


「面白いことをしているな」


振り返れば、そこに立っていたのは織田信長様だった。説明不要の圧倒的なオーラ。


おれと藤吉郎、そして鍛冶屋の職人は、引っくり返るような勢いでその場に平伏した。


「これは、何をしている?」


信長様がジロリとおれの鉄板を睨みつける。


おれは額を地面に擦りつけたまま、素直に答えた。


「はっ! 新しい食べ物を作っております!」


「ふむ」


「信長様! これは、こちらの時泰殿が開発された、新型の丸い『兵糧』にございます!!」


はぁ!? おれは心の中で叫んだ。


(藤吉郎のやつ、出世を焦るあまりに、お得意のハッタリで勝手に嘘八百の補足を付け足しやがった! チラチラとこっちを見ながら、あのやたら白い歯を輝かせてウィンクをバチコンとキメてやがる。トレンディドラマみたいな顔でこっちを見んな!)



「ほう。これが新しい兵糧か」



信長様が鉄板に顔を近づける。


「だが、兵糧にしては随分と柔らかそうだな。これでは行軍の際の持ち運びの衝撃で、潰れてしまうのではないか?」鋭いツッコミが飛ぶ。


非常にめんどくさい事態になってきた。


だが、ここで藤吉郎のハッタリを否定しないと、のちに「早くあの兵糧を千人分量産しろ」などと言われて、地獄を見るのは目に見えている。


ここは未来の天下人のライフを犠牲にしてでも、口車に乗っかるルートは却下だ。


「いえ、信長様。これは兵糧ではございません」


おれの無慈悲な報告に、隣の藤吉郎が一瞬で凍りついた。


「えっ? 時泰様、今、兵糧ではないと?」


「いや、おれ兵糧だなんて最初から一度も言ってないし。焼きたてをその場で食べる陣中食ならいけるかもしれないけど、中のタコがすぐに傷んじゃうから保存は無理かな」


「こんの、猿めがぁぁぁ!!!」


信長様の怒りの雷が落ちた。


「嘘を抜かしおったな!」と刀を振り回して激怒する信長様と、恐怖のあまり本当に小便を漏らしながら「ひえぇぇ!お許しくだされぇぇ!」と地面を転げ回る藤吉郎。


目の前で繰り広げられるバイオレンスなドタバタ劇を、おれは冷めかけたたこ焼きをつつきながら、静かに眺めていた。


(これはトラウマもんだな。まあ、口車だけで周囲をコントロールしようとするあいつの悪い癖を、今のうちに信長様に強制調教してもらえて良かったかな。)


そんな風に、藤吉郎をまるで温かい親戚のような目で見守る時泰であった。





鉄板の中で、流し込んだ生地がふくらむ。


「おお、膨らんだぞ」


「横井の小倅。これは、本当に美味いのか?」


信長様が、まだ命ごいを続ける藤吉郎をスルーし、鋭い眼光のまま鉄板を覗き込んできた。


おれは元気にハキハキと答えた。

ワンマン社長への返事は元気に!が絶対条件だからな。


「はい! 美味にございます!」


おれは竹串を器用に使い、生地をくるりとひっくり返した。


ポン、と軽い音を立ててたこ焼きが弾ける。鉄板の上から立ち上る、出汁と油、そして焼けた小麦が混ざり合った香ばしい匂い。


それはきっと、この薄味だらけの戦国時代には存在してはいけない、現代人にとっての“ギルティな匂い”そのものだった。周囲にいた誰かがゴクリと息を呑み、あの信長様が、ほんの少しだけ鼻をヒクつかせて眉を動かした。


綺麗に焼き上がり、見事な丸い塊となったたこ焼きを皿に並べて、信長様の前へと差し出す。


仕上げに、現代のソースの代わりに『味噌、柿、蜂蜜、生姜』を適当に混ぜ合わせて作っておいた、おれ特製の「なんちゃって濃厚甘辛味噌ダレ」を薄く塗る。


よし、これでおれの戦国たこ焼きが完成だ。


「信長様、どうぞ熱いうちにお召し上がりください」


信長様はたこ焼きに竹串をブスリと刺し、そのまま一口で口へと放り込んだ。


「あ、熱っ!! ……むっ、美味い……美味いぞ、これは!」


信長様はハフハフと息を吐きながら、おれがその場で焼いた分をすべて一人で平らげてしまった。それどころか、「帰ってからも食う」と言い出し、城への土産分まで余分に作らされる羽目になった。


「横井の小倅、見事であった。これほど濃く、脳に響くような美味い料理は初めて食うたわ」


信長様の想像以上の大絶賛と好反応を見て、おれの脳内の平社員センサーがピコンと跳ね上がった。これ、特大の金儲けチャンスじゃないか?


「信長様、恐れながらお願いがございます。こちらの料理を、おれのアイデアとして清洲の城下で売る許可をいただけないでしょうか」


「むぅ、、、、よいぞ」


信長様は少し考えた後、ニヤリと笑って条件を突きつけてきた。


「ただし、商売で得た売り上げの三割を税として儂に納めよ。それと、十日に一度は城へ参り、儂のためにこの料理を作って、この猿に持ってこさせろ。」


「ははっ! ありがたき幸せにございます!」


「満足した、ではな!ったく、この猿が!!!」


帰り際に、信長様の投げつけた竹串が藤吉郎の頭に見事に突き刺さった。


藤吉郎は「ビクッ!」と身体を震わせたが、そこからは気をつけの姿勢のまま微動だにしない。


頭から竹串を一本生やしたまま、直立不動で固まっている。

なんちゅうシュールな光景だ。前世のネット動画でも、こんな高度な一発芸はお目にかかったことがないぞ。




三割のショバ代はなかなかの高額だが、天下の織田信長公の「公認マーク」が付くと思えば安いものだ。こうして、横井領に前代未聞のB級グルメ、尾張名物「たこ焼き」が爆誕したのだった。

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