第五話 たこ焼きが食べたい(前半)
転生して十三年。
六歳頃から、父上と母上にお願いし
牛乳、鶏肉を食べさせてもらっているおかげで
メキメキと身長が伸びて、今では170cmはある。
裕福ではない家でわがままを聞いてもらい、
父上と母上には感謝している。
だが、しかし!
欲求が抑えられなくなってきた。
ごはん。
不味いわけではない。むしろ美味い。
米も魚もある(コッソリ肉も)。
城の料理も美味しくて、文句のつけようがない。
それでも足りない。
何かが決定的に足りない。
食べた瞬間は幸福で、翌日には少し後悔するあの感じ。
それがない。
◇
ある日の昼。おれは縁側に腰掛け、おやつに団子を食べていた。甘い。
確かに美味い。……ん? 待てよ。
団子を転がしながら食っていたら、ふと閃いた。
たこ焼きだ! たこ焼きが食いたい!!
現代のソースの詳しい作り方なんておれにはよく分からんが、生地のベースになる小麦粉と卵、それに牛乳があれば、とりあえずそれっぽいものは作れるはずだ!
よし、そうと決まれば、まずはたこ焼きを作るために絶対に欠かせない『穴の凹んだ鉄板』を手に入れなきゃ始まらない。
翌日。おれはさっそく、必要なアイテムを発注するために清洲へと向かった。
「時泰様! お久しぶりでございます!」
城下の足軽長屋から、おれは藤吉郎を呼び出した。
相変わらず忙しそうで、相変わらず無駄に元気な男だった。
「藤吉郎、いま暇か?」
「暇ではございませぬ! 儂もこう見えて足軽組頭になりまして、百名もの部下を抱える身。日々の訓練で大忙しですぞ!」
「そうか……」
ハキハキとした張りのある落ち着いた声は、ちょっとだけ足軽組頭としての威厳を感じさせた。
おれとしては、気軽に地元の鍛冶職人を紹介してもらって、たこ焼き用の鉄板を特注しつつ、「完成したら一緒にタコパでもしようぜ」
くらいの軽い気持ちだったのだが……なんだか悪いことをしてしまったな。
「いや、ちょっと作りたいものがあったから手伝ってほしかったんだが、忙しいならすまなかったな」
おれが諦めて帰ろうとすると、藤吉郎の目がギラリと光った。
(時泰様が個人的に作りたい物!? 待てよ、あの清洲城の白いデカい壁を思いついたお方がわざわざ儂を頼ってきたのだぞ。ここで断ったら、絶対に何かしら特大の出世の機会が逃げていく気がする……!)
「はっはっは! いやぁ、いま丁度よく訓練が一段落しまして、奇跡的に暇になりました! もちろん、喜んでご一緒させていただきます!!」
藤吉郎は恐ろしいほどの超高速手のひら返しをキメて、満面の笑みで深く頷いたのだった。
◇
おれと藤吉郎は、城下にある鍛冶屋へと向かった。
おれが欲しいのは鉄板だ。それも、ただの板ではなく、丸いくぼみがいくつも並んでいる特殊なやつである。
「こういうのを作ってほしいんだ」
おれは地面に枝で器用に絵を描いて、職人に説明した。長方形の鉄板の中に、半球状の丸いくぼみが規則正しく整列している図だ。
「……」
職人は無言でその絵を見つめ、腕を組んで深く考え込んでしまった。
「あの、時泰様……」
横からその絵を覗き込んでいた藤吉郎が、恐る恐る口を開く。
「これは……いったい、どのような新種の『武器』でございますか?」
こいつは一体、何を物騒なことばかり考えているんだ。
「違う。これは美味い食い物を作るための調理器具だ」
「なるほど、表向きは調理器具……。つまり、大型鉄砲の丸い弾を一度に大量生産するための『鋳型』でございますな!」
違うってば!
この筋金入りの戦国脳め!!!
◇
数日後。さっそく試作品が完成したというので、引き取りにいった。
それにしても、戦国時代の職人の技術力は本当に凄い。おれのうろ覚えで曖昧な説明だったのにもかかわらず、見事に注文通りの形に仕上げてのけた。
ただ、想定していたものよりも、はるかに頑丈に作られていた。
「……なぁ、これ、やけに重くないか?」
おれはズシリと両手に伝わる鉄の重量感に顔を引きつらせた。
「はっ! 少々の衝撃や、敵の攻撃を受けても決して壊れぬよう、厚みを持たせて鍛え上げました!」
職人は自慢げに胸を張る。
「……おれ、これ食い物用だって言ったよな?」
「……ハッ、重々承知しております」
絶対に承知してないな、これ。完全に盾か何かに使えるレベルの防弾鉄板だ。
◇
まあ、道具は揃った。おれはさっそく、屋敷の庭に材料をズラリと並べた。
小麦粉。卵。牛乳。ぶつ切りにしたタコ。あとは隠し味の出汁と刻んだねぎ。
よし、完璧だ。
だが、手伝いとして横に立つ藤吉郎は、未だに少し不安そうな顔で鉄板を見つめていた。
「時泰様。しつこいようですが、これは本当に食べ物を作るのですね?」
「食べ物だって言ってるだろ」
「新型の爆裂兵器の実験ではなく?」
「だから、ただのおやつ(食べ物)だ」
「……ハッ、承知いたしました」
うん、まだ全然承知していないな、こいつ。
おれは苦笑しながら、熱した重厚な鉄板に油を引き、よく溶いた生地を流し込んだ。
そして、手際よくタコと葱を落としていく。
ジューーーッ!!!その瞬間、香ばしい出汁と油の焼ける、たまらなく美味そうな匂いが周囲一帯へと一気に広がった。




