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第十三話 丸根・鷲津砦の戦い(その1)


丸根砦と鷲津砦は、着工からおよそ半年ほどでその姿を現した。


かつてはなだらかだった丘陵は、おれのアイデアと力技によって、原型を留めないほどにその姿を大きく変えていた。


尾根の片側は削り落とされ、這い上がることすら不可能な急峻な崖となっている。敵が唯一登ることのできる場所には、わざと折れ曲がった九十九折りの細道を設け、曲がり角ごとに頑丈な木柵と矢倉をこれでもかと築いた。


さらに、丸根砦と鷲津砦を結ぶ尾根道は幅を狭く整え、両砦が互いに矢を放って支援できるようになっている。


地形そのものを利用した、「天然の要害」へと生まれ変わっていた。


「佐久間様、砦が完成いたしました」


「ほう……、これが、あの『あとひとつ』を重ねた完成の姿か」


「はっ! 木下藤吉郎殿の凄まじい尽力により、無事に完成した次第にございます」


あの清洲城のコンクリ壁の時と全く同じく、藤吉郎はおれの無茶振りの仕様変更に完璧に応えてみせた。


かつておれの作った訓練場で地獄『SASU◯E』を耐え抜いた足軽たち、そして鉄製スコップを手に入れた大工や川並衆の土木パワーを極限まで使いこなし、この地獄のような過密作業工程を完遂させたのだ。


……当の藤吉郎は、いま、おれの足元で完全に白目を剥いて、泥のように寝ているが。


守将の佐久間盛重様は、しばらく無言のまま、圧倒的な威容を誇る丘陵を見渡していた。


「……工事の最中から、何をしておるのか分からぬことばかりであったが……」


盛重様は呆れたようにガハハと笑い、おれの頭をくしゃくしゃに撫で回した。


「砦なのか、山城なのか、なんじゃこれは! このようなへんてこな作り、儂の長い戦人生でも見たことがないわ!」


地形そのものを、敵をハメる防壁へと変える。それこそが、普通の現代人だったおれが前世の記憶を頼りにひねり出した、籠城のための策であった。


「しかし時泰、これ……信長様への完成報告はどうすればよいのじゃ。儂の頭では、この仕組みを上手く説明できる気がせんぞ」


「ははっ!普請の現場を直々に指揮したのは、そこに転がっている藤吉郎にございます」


「なるほど!」


盛重様は手をポンと叩き、悪い笑顔を浮かべた。


「ならば、こやつに全部説明させるしかあるまいな!」


(藤吉郎、また地獄の言い訳タイムを押し付けてすまんな。組頭なんだから頑張れ)





この半年間の工事の間、おれは佐久間様と本当に多くの時間を過ごした。


これまでに潜り抜けてきた数々の戦の話、若き日の信長様の破天荒なエピソード、武将としての心構えなど、たくさんの貴重な話を、まるでおれを実の息子のように可愛がりながら聞かせてくれた。


また、おれのたっての希望で、槍の稽古にも何度も付き合ってもらった。


ある日、試しにおれの秘策であるあの『漫画パクリの螺旋突き』を少し手加減して披露したところ、佐久間様は目を丸くして驚愕した。


そして大笑いしながらおれの肩を抱き寄せた。


「おい時泰! どうだ、横井の家を飛び出して、儂の養子にならぬか! 儂の跡を継げ!」


もちろん、一緒に見学していた父上がそれを黙って聞いているはずもなく。


「何をぬかすかこの泥棒佐久間めがぁ!!」


と、次の瞬間には父上が佐久間様を殴り飛ばし、周囲の家臣たちが止めるのも無視して、二人はいい歳して子供のような大喧嘩を始めていた。



ほんのわずかな時間だったけど、結構楽しかった。おれは、この気のいい佐久間のおっさんのことが、大好きになった。


(戦が終わったら、俺のスペシャルアドバイザーとして、色んな事を相談しよう。逃さないぞ。ふふふ。)

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