第十二話 砦を作るぞ(その2)
父上と共に、織田家の本拠・清洲城に出かけた。新しく築く砦づくりの打ち合わせのため、守将である佐久間盛重様に会うことになっている。
「盛重殿、こちらがわしの嫡男の時泰にございます」
父上から佐久間様へ紹介してもらう。
なぜか父上は誇らしげで、そのデレデレした顔が隣にいて妙に恥ずかしかった。
「おお、そなたが時泰か! 信長様から色々と聞いておるぞ。清洲城の、あのデカくて白い頑丈な壁を築いたのはそなただそうではないか! あのような城壁、儂の長い戦人生でも見たことがないわ。
さらに、たこ焼きやお好み焼きは儂も城でいただいたが、実に美味であったな!!」
佐久間様はガハハと豪快に笑い、おれの肩をがっしりと掴んだ。
「信長様はな、あのように新しき突飛なことを思いつく者が大好きなのじゃ。儂もそなたには、この度の普請で大いに期待しておるぞ!」
「はっ! 粉骨砕身、お役に立てるよう努めまする!」
おれは最速で定型文の挨拶を返した。
事前に「織田家きっての猛将」と聞いていたのでビビっていたが、目の前にいる佐久間様は、体格がデカくて迫力はあるものの、中身はもの凄く気のいいおっちゃんだった。
挨拶の直後、親愛の情を込めて背中をバシバシと力一杯叩かれ、頭をガシガシと痛いくらいに撫で回された。
期待のハードルが高すぎて、すでに心身ともに粉骨砕身気味のおれを完全に置き去りにして、父上と佐久間様が普請の話を進めていく。
おれはその様子を横で見ながら、有名歴史知識を必死に手繰り寄せていた。
丸根砦・鷲津砦の戦い。
今川側の拠点となった大高城を包囲・監視するために築かれた織田方の最前線の砦が、今川勢の大軍によって攻められ、味方からの援軍もなく、完全に壊滅する『絶望の防衛戦』だ。
そして、その絶望的な防衛戦で、目の前にいるこの気のいい佐久間様は討ち死にする。
(暫く二人の話を聞いていると歴史通りに小規模な小競り合いを前提とした砦構築の話をしている。ああ、まずい、これでは砦は陥落し織田勢は全滅してしまう。おれの二度目の転生人生、わずか十五年で終了まっしぐらだ!)
「ちょっと、待ってください」
おれは意を決して、二人の会話に割り込んだ。
「佐久間様。砦の構築にあたり、前世の……いえ、一つ提案がございます」
「なんじゃ、横井の小倅。申してみよ」
「丸根砦、鷲津砦ともに、水は山頂の井戸より汲み上げる手筈になっておりますが……その井戸へ至る水路を事前に広く整え、いざという時の物資の搬入経路、あるいは『別の用途』としても使えるように地下を掘り進めては如何でしょうか」
「ふむ……、なるほど、良い考えじゃな!」
佐久間様は顎を撫でて深く頷いた。
「この砦は大高城への牽制を目的としておるが、丘の上にあるため、敵に囲まれやすいのが最大の弱点。秘密の運び口がある事は、確かに籠城の際の大きな強みにもなるな。よし、すぐにその設計で取り組んでくれ!」
時泰は佐久間様に褒められて調子に乗った。
ドヤ顔を決めて、提案を重ねる。
「さらに、あとひとつございます! 丸根砦と鷲津砦を結ぶ尾根をあらかじめ深く削り落とし、大軍が一度に通れぬような狭い細道へと作り変えます。そこにいくつも木柵を設ければ、少数でも敵の進軍を足止めしやすくなりましょう。これなら両砦の連絡を保ちながら、防御も固められます」
おれの提案通り、丸根砦と鷲津砦の間の丘陵は、その後の工事で幅三間(約五・四メートル)ほどの狭い連絡路へと削り込まれることになる。
両側は這い上がることもできない急斜面となるよう崖のように整え、敵の大軍が横に広がれぬよう工夫した。
おれの持っている歴史知識だと、この二つの砦はある程度の人数がいれば連携して守りが固いイメージがあるのだが、それはあくまで「小競り合い」レベルの話だ。
今川の四千~五千という大軍に一気に攻めかかられては、本来の設計のままではひとたまりもない。
この時点の織田家の目的はあくまで大高城の監視や兵糧入れの嫌がらせだったから仕方ないんだけど、いかんせん初期状態の防御面が心許なすぎるのだ。
「いい考えだな、時泰! 砦構築でも、その知恵はとどまるところをしらんな!さすがは、わしの自慢の息子よ!」
父上が満面の笑顔で、うんうんと誇らしげに頷いている。
(うちの父上、一歩間違えればバカ息子一直線の育て方をしてるよな。いや、むしろもうおれ、そうなっちゃってる気がする。)
父上の自慢にさらに調子に乗ったバカ息子(時泰)は、さらなる仕掛けを提案するために声を張った。
「さらに、あとひとつございます!」
「う、うむ、言うてみよ」
「ダメ押しの案が、あとひとつございます!」
「…………」
「ここからが本番なのですが、トドメとなる案が、あとひとつございます!」
「…………」
時泰は調子に乗りすぎて我を忘れてしまった。
佐久間盛重様は、あからさまに遠い目で清洲城の天井を見上げて、深く大きな溜息を吐き出した。
「お主……さっきから『ひとつ提案が』と言いながら、これで五つ目ではないか。いつになったら終わるんじゃ。」
優しい佐久間様に、全ての提案を聞いてもらい、ご満悦な時泰であった。




