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魔石クラフター2~ダンジョンのおくすり屋さん  作者: 高瀬あずみ


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4.藤川ダンジョン 二日目


 昨夜は大変な目に遭った。いざ怪我した時に吐き出したりしないように慣れておけって家族三人から言われて。夕食後、自作ポーションを飲むはめに。

 何あれ。

 ひたすら「草」っぽさに圧倒された。その後に押し寄せてきたのが「えぐみ」である。しばらく舌が変になった気がした。あんまりな味に、誤魔化そうと甘いジュースを飲んだら、ジュースの甘さが口中に残ったえぐみと共演して、更なる味覚の限界へと進化を……。


 涙目の私に、母があっさり言う。

「青汁が飲めるなら、わりと慣れるわよ?」

「下手に味の付いているものよりも、水を飲むのが一番だ」

 何度も飲んで慣れるしかないと父。いや、慣れたくないです。もう飲みたくない。


「好きな奴なんていねーよ。だから怪我なら飲むより皆、振りかける方を選ぶ。ただ頭痛やら腹痛とかの内部の痛みとか、身体に残る疲れを取るには飲むしかないんだよなあ。お前は浅い所しか行かないって言うけどソロだろ? ごく稀にだけど下の階層から魔物が上がって来ることもあるから、自分用を絶対に確保しとけよ? クラスの低い低級ポーションでも、量でなんとかなる場合もあるって言うしな」


 天良(たから)は良い助言をしたって顔していたけれど、怖がらせるのはやめて欲しい。おちおち昼寝もできなくなるじゃないか。まあ、なんとなく疲れは取れた気がするし、夜もぐっすり眠れたけれど。




 そんなこんなの藤川ダンジョン二日目である。

 筋肉痛も前日の疲労もない。自作ポーションの効果? 昨日程には緊張もせずにダンジョンに入った。


 学校の体育館の扉くらいの大きさのダンジョンゲートを抜けた途端に広がる一面の草原は、やはり納得できないものがある。3Dだか、VRだかで映像を見せられているような気にしかならない。でも歩き出すと靴の下に土の感触があるし、草の匂いがする。太陽はないけれど空は明るく青くどこまでも広がっていて、人工物とも思えない不思議よ。



 ダンジョン内にはきちんとした道はない。草を刈ったところですぐに生えて来るからだ。でも獣道のようなものはあって、DDはそこを使う。フィールド型ダンジョンで、ある意味怖いのは迷子だから。マップに描いてある目印を確認しながら、小石交じりの小道を歩く。

 たまに道に、のたりとスライムが出て来るので、一応は退治してみる。スライムは、まあ怖くないしね。獣道の上なら、スライムの小さな魔石も見落とさないで拾えるのだ。スライムだと、数を倒してもレベルが上がらないから、ほとんど経験値はゼロに近いんじゃないかと言われている。私も敢えて道を外れてまで倒そうとは思っていないけれど、道をふさがれたらさすがにね?



 今日は、昨日とは違う場所で作業をする予定だ。前後左右、草ばかりだけれど、所々に高さが1メートルくらいの石柱があって。それが目印。石柱には読めない記号のような文字が彫ってあって、同じ文字がマップに記載されていた。読めないけれど“分かる”から、場所の確認ができる。ダンジョンの謎なんて言い出したらキリがないほどあるけれど、どうせ考えたところで分からないなら、あるがまま受け入れればいいよねって。


 低級ポーションの材料になる薬草は、この第一層のあちこちに生えている。草の海の中にも点々と。でもそれを採取して歩くのは効率が悪すぎるので、マップ記載の群生地を目指すことになる。中級ポーションの材料とかは群生地がないらしい。それは探して歩くのも大変そうだ。強い魔物も出る深い層だし。



 私は目星をつけていた場所に到着すると、アイテムボックスから取り出した鎌でまず草刈り。昨日は土が露出していた場所だったからそのまま居座ったけれど、今度の場所は草原の真っただ中だったから。藤川ダンジョンに行くと言ったら母に持たされたのがこの鎌。どうせアイテムボックスがあるなら、持っていた方が良いからと。ただ問題は、なかなか上手に出来なかったこと。これまで鎌で草刈りをしたことがなかったから。何回か自分の手を切りそうになって冷や冷やした。魔物じゃなくて自分で振るう鎌で怪我するのだけは嫌だったので、気を付けてはいたんだけど。変に力が入り過ぎて右腕がだるいし、あと中腰が辛かった。これが「戦士職」や「魔法職」ならば能力でばっさり――いや、初めて二日目ならどの職でも肉体労働一択か。


 机と椅子を置けるスペースを確保したら、しばらく椅子に座って脱力する。既に疲労困憊。味が壊滅的でさえなかったら、きっとポーションに頼っていたと思う。少し回復したら温かいお茶と甘いお菓子投入。ここまでで午前中の半分が潰れた。自分の不器用さが恨めしい。クラフターになると器用度が上がると聞いたことがあるんだけど、補正入ってこれなら泣く。


 持参したお菓子は、一昨日に焼いたパウンドケーキ。日を置いて寝かせたことでしっとりして美味しい。お菓子作りは私の趣味だ。レシピ通りに作って冒険しないことがポイントで、しっかり計量しなければならないのが理科の実験みたいだなと思う。それなのに女の子らしい感じがするのが面白い。有名パティシエなんか男の人の方が多いのにね? 兄の天良なんかは、「買った方が安上がりで旨い」とか言いつつがっつり食べる。たしかに、お菓子作りを始めた当初は失敗もしたし、味は良くても見た目が悪くなったりもしたけれど、手慣れてきたせいで最近は家族以外にも配ったりする。友人たちの評判は上々。


 テーブルの上を片付けて、まずは土を掘っての容器作成。そのうち土魔法を覚えそうな予感がある。ちょっと楽しみ。ダンジョンにいると、こういう予感というか勘は折々に降って来るらしい。「創造職(クラフター)」と一括りされているけれど、本人の資質や願望で得られるスキルの方向が変わる。だから必要となれば魔法を覚えることだってできるのだ。「魔法職(本職)」でなくとも。「戦士職」でも同様に、多少は魔法が使えるようになるらしいし。



 草刈りした中から目当ての薬草を選り分ける。手順としては昨日と同じで、きれいに洗った葉をボウルに入れて、持ち込んだ浄水を注いでスキル発動。

 その際に、お菓子作りの時と同じように、「おいしくなぁれ」と念を込めてしまった。夕べのポーションの味が酷すぎて。気休めでも、飲む人の負担が減れば。何より、自分が服用する時に少しでもましな味になっていて欲しいという願望が漏れ出たせい。


 昨日と今日では使用した薬草が違う。低級ポーションの材料は、「その時に手に入る薬草で作る」のが基本だから、フィールド型ダンジョンの浅い層で採取できる七種類の薬草のどれを使っても作れるのだ。昨日がリセン、今日がズーナという薬草を使用。できたポーションの色は変わらず、どろどろ濃緑色。二日目ではクラスも変化なし、かな? それは仕方ないね。味の確認はしない。絶対にだ。


 少しは作業に慣れたせいか、お昼までに昨日の午前中と同じ二十本のポーションができた。ここで待望のお昼ご飯!



 今日はパンじゃなくておにぎりにした。具材はかつお節と鮭の二種類。海苔はぱりっとさせたい派なので、袋入りの味海苔は別途持参。おにぎりだけじゃない。おかずもある。だって、冷めないアイテムボックスがあるんだもん! 出来立て収納、最高かも。今日のおかずはチキン南蛮。油淋鶏(ユーリンチー)にするか真剣に悩んだけれど、タルタルソースが勝敗を決めた。千切りキャベツとコーンのサラダもある。どうしても口が脂っぽくなるからね? デザートは市販のプリンで手抜き。まだ自作のパウンドケーキも残っているけど、プリンが、食べたかったから! でも今度、クリームブリュレを作って持ち込んでやる。それにはもう少しダンジョンに慣れたらね。



 食後は少しそのままぼへっとして、やっぱりお昼寝もすることにした。だってMP空だし! お腹いっぱいで眠いし! 天良に脅かされたような怖い魔物なんて、入り口からそう遠くないこの場所に出ないって信じてる!


 初心者DDには、(ホイッスル)が渡されていて、どうしても危なくなったら吹くようにと教えられている。笛を聞いたDDが救助要請を受けて助けると協会からの評価が上がる。ドロップとかの買取金額にも影響するんだとか。義務ではないし、同業のクラフターに助ける力はないし。DDは行動も基本、自己責任だから。


 私だって無策で無防備にお昼寝しているわけではない。親の七光り――はちょっと違うか。でも初期ダンジョン攻略組だったという両親は、貴重なダンジョン産アイテムをいくつも持っていてですね? クラフターで戦闘能力も防御能力もない私がソロ活動をするならば、持って行かないと許さないと押し付けられたあれこれがあるわけで。


 はい、結界装置発動。うっすら色付きの透明の幕が私の周囲2メートル四方を囲った。あまり強い魔物には効果がなくて、駆け出しには強い味方でも、両親には不要なものらしい。兄にも。一層二層で活動予定の私にはすごく重宝するアイテムなのに。しかもスライムの魔石で数時間動くので、ここに来るまでに倒したスライムの分で賄えるのも嬉しい。買ったらそれなりの値段ではあるけれど、売るのも面倒だと持っていたとか。おかげで安心して熟睡できます。プライド? 食べられもしないものはいりません。



 前日同様、一時間くらい眠ったら全回復。無理せず焦らず丁寧に、を心がけて、ついでに「おいしくなぁれ」のおまじない付きを四セット作成して予定終了。昨日よりも早い時間にダンジョンを出た。今日は自作ポーションを飲まずに済むように休憩もこまめに取ったのにね。これなら帰ってから、明日のお弁当の下拵えもできるかなあ?



前作の砂耶よりも、おそらく璃乃の方が稼ぎは上になる。砂耶は半分くらい趣味だから……。


璃乃は駆け出しなので、「らしい」「そうだ」と伝聞が多くなってしまう。ネットでもある程度は情報があるけれど、家族という信頼できる情報提供者がいて、生まれた時から色々聞かされてきた。


高邑家では全員が料理できます。基本的に母が作るけれど、父兄璃乃も、週に一回は夕食を作るローテーションができている。出されたものは完食するのがルール。小学生時代の天良や璃乃の作ったものであっても(ローテーションに加わるのは小学校高学年から)。このルールは、不意の来客にも適用されて、作り手に変更はない。迷惑な押しかけ客も、小学生による水の量を失敗したどろべちゃのりのようなご飯に焦げた卵焼きと水っぽい味噌汁を出されて以来、来なくなったから。用がある場合は実際には交代可能だけれど。祖父母などは逆に子供たちの日に来たがる。天良の日はカレー一択なので、金曜日担当になった。


次回、璃乃、はじめての納品。

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