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魔石クラフター2~ダンジョンのおくすり屋さん  作者: 高瀬あずみ


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3/5

3.高邑家の団欒


 帰宅して、夕ご飯の途中で、うっかり寝そうになってしまった。


「いや、おまえ、一層で草むしりしてただけだろ? なんでそんな疲れてるわけ?」


 兄の天良(たから)が呆れたような顔で見て来る。ハイブリッド「戦士職(ウォリアー)」には、この私の繊細さが分からないらしい。


「脳筋のお(にぃ)には理解できないかもだけど、はじめてのソロで、はじめて行く知らないダンジョンで緊張してたの!」

「でも藤川の一層って、スライムとラビットくらいしか出ないじゃん。あそこ、ようやく骨のある魔物が出てきたと思ったら攻略完了してて、あんまり覚えてないけど」



 天良(たから)は「戦士職」を得て、双剣のスキル持ちになった生粋の戦闘馬鹿だ。高校時代は、すべての休日と放課後をダンジョンに捧げて、今やCランクダンジョンの最下層に大手をかけているそうだ。ちなみにこの春から大学生になる。勉強していたようには見えなかったが、魔物と命がけで対戦する時の集中力で受験を乗り切ったらしい。てっきり高校卒業したら専業DDになるかと予想していたのに。



「懐かしいわね、藤川ダンジョン。洞窟型には飽きてたから、ピクニックがてらよく通ったわ」

「そうだな。あそこのたしか八層だったかに出るトカゲのドロップが旨くて、しばらく通い詰めたのを思い出すな」



 両親、ほのぼの語ってるわりに内容が酷い。二人共にダンジョンが出来て、一般でも挑める制度が整った途端に飛び込んだ過去持ちだ。ちなみに八層に出るトカゲって、火蜥蜴のことですよね、父よ? 結構厄介な魔物なのに、それ周回してたってどれだけ。



「璃乃、お前も藤川くらい攻略してみせろ。いけるいける。あそこの下層には中級ポーションの材料になる薬草もあるし、早く俺に中級作ってくれ」

「まだ低級作り始めた初日だっていうの。当分、こつこつ低級作ってくしかないでしょ。後、戦闘用のスキルも、元からの運動神経もないから、藤川でも三層以上には行くつもりないよ」


 高校よりも時間の融通のきく大学生になっても、どうやらこの兄はダンジョン通いをやめるつもりはないようだ。まあ個人レベルもそれなりに高いようだし、そうなると魔物を倒してのドロップの買い取り額も美味しいらしく、実は小金持ちの兄である。



 ちなみに、二十歳未満の()()がダンジョンで稼いだ分に関しては非課税。ただし扶養控除の範疇を越えなければ、という注釈がつく。まあ、うちの兄は控除余裕で超えて、申告して専業同様の扱いになっている。二十歳未満でも専業DDだと税金が買取金額から自動的に引かれる仕組み。ドロップ品を買い取りに出さずに自分で持っている分に関しては自用品ということで何もない。ただし、協会以外で売買すると罰則があるとか。協会の運営するオークションに出品するのは大丈夫。ただし買い手が付くと出品手数料が取られる。一定以上の高額がつくと一割の税金が引かれるそうだ。オークションには中学生は入札できないからよく知らない。あ、もうすぐ参加できるんだ。



「お兄、お兄はオクって使ってる?」

「気に入ってる職人が作ったナイフだったら中古でも入札するな」



「創造職」には、武器や防具を作る職人もいて、ダンジョン産の特殊金属を加工するそうだ。そういう人は大手クランの専属になっていることが多い。何故なら素材を融通して貰いやすいから。なんでも、外の金属で作るより良い物ができるんだって。クランに所属していない人は、協会の運営するネット通販ショップやオークションに出品するとか。実店舗を持つ人はあまりいないらしい。従姉の砂耶のアクセサリーも協会のネットショップで売ってるそうだ。今度見てみよう。



「お兄だったら、ポーションはどこで買う?」

「低級なら協会の売店だな。確実に手に入るから。当たり外れもあるけど」


「どういうこと?」

「さっきお前から貰ったこれ、低級にしてもクラスが最低じゃん。でも協会で扱うのなら購入金額は低級で一律。最低クラスでも最高クラスでも。買い手には選べない」


「クラスってどこで見るの?」

「ポーション鑑定、持ってんだろ。よく見てみろ」



 言われて改めて自分作のポーションを鑑定してみる。


『低級ポーション。軽い外傷、微熱、頭痛、筋肉痛、低度の疲労回復効果。製作者:りののん』



「どこにもクラスなんてないよ?」

「『低級ポーション』ってとこ、凝視してみろ」


『低級ポーション。クラス1』


「あ、なんか出た」

「それがお前のポーションの値打ち。熟練のクラフター作だと低級でもクラス10までなって、中級のクラス1に匹敵する効果があったりする」



 ほら、と天良が自分のバッグから取り出したポーションを寄越した。青汁みたいに不透明な私のポーションと違って、なんか透明感のある緑色だ。


『低級ポーション。クラス10』


 そして。


『主な外傷、発熱、頭痛、筋肉痛、疲労回復効果。製作者:あんじゅ』


「本当だ。クラス10ってある。内容も違ってるんだ」

「そりゃ効果が違うんだから、内容だって変わって当然だろ」

「うん。何がこんなに違うんだろう?」

「聞くところによると熟練度。ひたすら作り続けてたら上がるってよ」

「そっかー。やっぱり作るしかないよね」


 クラス10の輝きは私には遠い。今日作り始めたばかりの私がここまで到達するのにはどれくらいかかるんだろう。

 ちなみに、ポーション鑑定のスキルはたいていのDDは持っている。対象の制限のない『鑑定』は持っている人が限られるらしいけれど。



「味は? 味も違ってくる?」

「いや、味はあんまり変わらん。まずい。鼻つまんで一気すんのは同じ」

「そうなんだ。残念」

「まったくな!」


 あんじゅさん? 作のこのきれいな奴でも不味いってのはショックだ。ぺパミントゼリーみたいな色なのに。あ、私、ミントも苦手。


「何? お前、自分で試してねえの?」

「だって怪我とかしてないもん。飲む必要ないでしょ?」

「ガキみたいに皿に顔面ダイブするくらい疲れてるんなら使えよ。作成者の製造責任だろ、自ら確認すんのって」

「え、不味いの、ヤダ」



 兄妹でそう言い合っていると、のんびり父が口を挟んできた。

「まあまあ。せめて食後にしてやれ。ポーションを途中で飲むと、食べてる最中の食事の味までおかしくなるからな」


 この父、普段は穏やかなくせに、一旦ダンジョンに入ると表情や雰囲気はそのままで、狂戦士(バーサーカー)になると、以前天良が言ってたんだよね。もう二度と一緒に潜らないとも。両親は今でも時々ダンジョンには潜っている。学生時代のパーティは解散してしまっているので、母と二人で。そんな母は盾持ちのタンクなんだそうだ。


「そうよ。せっかく作ったご飯、不味くしないでちょうだい。まあ、璃乃はちゃっちゃと食べちゃって。皆もう食べ終わってるんだから」

「はあい」

「父さんは璃乃のくれたこれ、記念品として大事に飾っておくよ」


 正直、両親も兄も、個人のレベルが高くて身体が頑強になっているから、私の作る程度のポーションが必要な場面なんてないだろうとは思う。だから記念品扱いでも仕方ない。



「にしてもさ? 『りののん』って何だよ」


 兄に指摘されるまで、私は制作者名を“りののん”ままにしていることをすっかり忘れていた。


「それ、本名出るの嫌だから、仮でいれてたやつ!」

「一旦手放したらもう名前変更できないんだろ?」

「名前、ちゃんと変えた奴、渡し直す!」


「あら、いいじゃない。“りののん”って響き、可愛いわ。お母さんのはこのまま貰っておくわね」

「先程、天良が持っていたポーションの製作者名も本名ではないのだし、名前を出したくないのなら、これで良いのではないかい?」


 咄嗟につけた“りののん”には不満がある。だからと言って、すぐに丁度良い名前とか浮かばない。好きなアニメのキャラ名とか……は駄目かな、やっぱり。


「カッコつけて、後でのたうち回るような黒歴史な名前よりはマシじゃね? 家族にはお前が作ったって分かりやすいし」


 いつか、自分で納得する名前を思いつくまで、“りののん”で行くことにした。派手過ぎず、でも気に入る名前って案外難しいことを知る。



 ずいぶんと後になって。“りののん”の名前が独り歩きしていくのを、この時の私はまだ予想もしていなかった。


割と仲の良い家族。兄も色々をダンジョンにぶつけたせいか、家では大人しい。父の名前はジンで、母の名前は瑠美ルミです。

前作に出て来た矢彦よりも天良の方が個人レベルは上。ただし、クランには所属していない。専任になるつもりが今の所ないせい。パーティは中学の同級生とずっと組んでいるまま。学生DDは、中学や高校の同級生と組むことが多い。レベルに差がないのも大きい。

息子と娘が同時進学って、親は大変だね。でもこの両親、本職以外にダンジョンでも稼いでいるから、金銭的には余裕?

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