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第8話

「嬢ちゃん!大丈夫か!聞こえてるか!」


私は少女のもとに駆け寄り、安否を確認する。

声をかけるが反応はない。

目立った外傷は見られない。

だか………………息がない。

しかし、喰魔を通じて本当に、本当にわずかに魔力を感じる。

……?喰魔が反応する魔力は悪魔由来のはずだが。

いやこの際どうでも良い、魔力があるなら助かる可能性がある。

急いで小さな彼女を抱き抱えて救護部隊のところへ連れて行こう。

その時であった。

それを許さないと言わんばかりに地が揺れた。

轟音を伴った地響きとなり、段々と大きくなってこちらに向かって来る。

このタイミングで動くか!

王のものとは違う、正気を失いそうな魔力に辺りが再度包まれる。


「今だ!魔術部隊、放て!」


ベルーの掛け声と共に大量の攻撃魔法が多喰らいが吹き飛ばされた方へ放たれる。

もう喰魔も限界だ。

彼らが牽制してくれている内に少女を抱き上げ、急いでその場から離れる。

しかし、闇の中光る二つの目はそれを見逃さない。

魔力が私の方に向かってくるのがわかった。

いやこの魔力の流れは……私にもわかる、これは魔術にとても似ている。

悪魔になったのなら行使出来て当然か。

いやしかし関心している場合ではない。

その黒い紐の様な魔術は走っている私の脚に蛇の様に絡みついてきた。


「……っ!しまった!」


魔力に脚を急に引っ張られ、体勢を崩して転んでしまった。

咄嗟に少女を下敷きにしないようにしたため、肩から地面に打ち付けられる。

すぐに立ち上がって走り出そうにも、既に魔術に全身を縛られて身動きが取れない。

その上、力が吸い取られてますます解き切るのが難しい。

このままでは少女ごと抜け殻にされてしまう!


「……ああ。やめて……やめてくれ……!」


あの魔術は王にも巻きついていた。

彼もまた、もがいて抵抗するも段々と動きが封じられていく。

あの時の力はもう残っていないのだろうか。

そうこうしている内に地響きはさらに大きくなり、魔力の淀みも酷くなる。

すぐそこまで、本体が来ている!


「このっ、離せっ!」


最後の力を振り絞るも、抵抗虚しくそれ以上の力で締め付けられる。


「団長!私は団長の援護に行く。先生、ベルー後は頼んだ!」


「元のロックボアと同じならアレの弱点は牙の根本です!暗闇の中難しいと思いますがそこを狙ってください!折れている方ならなお良しです!」


「ありがとうございますマーレ先生。魔術部隊、折れた牙の根本を狙え!前衛は動ける者から固めていく!」


「フレイムストライク!」


「ライトニングインパクト!」


「ハイドロスラッシュ!」


魔術部隊による上位魔術が多喰らいに容赦なく浴びせられる。

しかし地響きは鳴り止まない。

悪魔の魔力に満ちた環境では、魔術の威力が十分に出ないからだろう。

何事もないように闇の中からゆっくりと、ヤツは我々の前に再び姿を現した。

その禍々しく黒ずみ変わった巨体にのあの時の光景が浮かぶ。

10年前、私の部隊を貪り喰っていた姿。

感情が恐怖に支配されていく。

多喰らいは私をじっと見つめる。

いや正確には私が大事そうに守っているこの少女だろう。

その視線に呼応するように、魔術の締め付けがより強まる。

このままでは少女が……


「黒式─速刃風!」


一閃の魔力の刃が私の束縛を断ち切る。


「団長!今の内に!」


「ヤルファ!すまない!」


私はすぐに立ち上がり少女を抱えて走り出そうとする。

しかし、私は王も見捨てることは出来なかった。


「ヤルファ、この子頼んだ!私は彼を助けに行く。」


「わ、わかりました。」


俊敏なヤルファならば、いち早く安全な場所に避難できるだろう。


「黒式─速刃風!」


私は王に元に駆け寄り、拘束を解こうと黒式を用いて攻撃する。

しかし彼の拘束は私の何倍も頑丈であり、速刃風では断ち切れず、傷つけることしか敵わない。


「ああ……ああ……。」


今だに王は声にならない苦痛の叫びを上げていた。

ならばただひたすら速刃風を打ち込むのみ。

しかし、現実は甘くなかった。


王が苦しむ姿を見たからか、多喰らいは地響きの様な唸り声を高らかに上げた。

それは勝利を宣言しているように思えた。

その轟音と膨大な魔力にとうとう喰魔の陣が破壊される。

途端に全身の力が抜け、立つこともままならずもその場に倒れ込んでしまう。

多喰らいに降り掛かっていた上位魔術をピタリと止む。

ベルー達もどうやらやられたようだ。

このままではあの時の様に部隊が……。

そう覚悟したが、多喰らいはこちらとは別の何かを目指して、なんとも余裕そうにゆっくりと動き出した。

歩いていく先には横たわった少女とヤルファの姿があった。


「くっ……やめろ、来るな……。」


彼女は何とか立ち上がろうとするもそれも敵わない。

私もすぐに向かいたいが、予備の小刀どころかもう指一本動かせない。

多喰らいは少女の前で止まる。

すると先程私に巻きついていた正体不明の魔術が少女に巻き付き、ヤツの口の高さまで持ち上げる。


寄せ、やめろ。

そう叫ぼうとするもかすれた声しか出ない。

たとえ出来たとしてもヤツには届かないだろう。

……私は最期に少女一人も守れないのか。

そう自分への失望と、これから起こりうるであろう絶望を受け入れるしかなかった。

多喰らいは大きな口を開ける。

やめろ、やめてくれ……


「……やめろ、離せ……。」


あれ程の力を見せた王も今はもう完全に巻き付かれて、弱々しい声でもがいているだけだ。


「……離せ……。彼女に触れるな……!」


彼女……?まさか!

そう思った次の瞬間、突如として白い光が王を包み、魔術の拘束を取り払う。

多喰らいが何事かと口を開けたまま後ろを振り向く。

そこには王の凛々しく立った姿があった。

しかし今回は首飾りが王を照らすように白く光り輝いていた。

森中を満たしていた多喰らいの魔力が王の力に塗り替えられていく。


「彼女に、触れるなァ!!!」


先程とは明らかに迫力が違う。

彼は私と小刀を拾うと、そのまま多喰らいに向かった。

その駆け寄る1歩1歩の動作にすら畏敬の念を感じる。

多喰らいも例の詳細不明の魔術で王を捕らえようとするも、そこには圧倒的な力の差があった。

決着は一瞬であった。

おそらくは魔神に匹敵するであろう強大な悪魔の力が、神器級、或いはそれ以上の力によってねじ伏せられていた。

詳細なことは分からない。

ただ分かったのは彼が小刀1本であの巨大な多喰らいの首をはねたことだ。


多喰らいの胴体がどさりと倒れ込む。

それと同時に悪魔の魔力は消え、全身の脱力感も無くなる。

ヤルファは既に少女を抱き上げ、部隊の方へ合流しに行った。

私も立ち上がり、多喰らいの頭の前に立ち尽くす王に声をかける。


「この度は我々の危機を救っていただきありがとうございました。本当に貴方様になんとお礼をして良いのやら……。あれ程の力を使ってきっとお疲れでしょう。差し支え無ければ私達の村まで戻りませんか?おもてなしさせていただきますので」


まだ彼の素性は分からない。

印象としては普通の青年で近くで見ると思っていたより身長が高い。

勇者の仲間か、とある地方の王族か、はたまた悪魔ではない人間に仇なす別の勢力か。

それでもとにかくここは穏便に腰を低くしてこちらに敵意がないことを示す。

何より今の彼は紛れもない、多喰らいを討伐したウルバルの英雄だ。

誰であろうとこの言葉だけでは表せない感謝の思いは伝えなければ。


「…………」


彼は振り向きもせずただ立ち尽くしていた。

反応がない。

もしや何が無礼を働いたか?

私が凍りついていると彼は小さく呟いた。


「……彼女を守らないと……。」


途端、首飾りの光が消えると王はふらつき、今にも倒れそうになる。


「大丈夫ですか!」


すぐに彼の大きな体を支える。

ぐったりと私に寄りかかってくる。

呼吸は安定しており、顔色も良さそうだか詳しいことは私には分からないため、急いで部隊に戻る。

崖上からは部隊員の声が聞こえる。

皆無事そうでひとまずは安心だ。


「団長、そちらは大丈夫ですか!」


「ベルー、大丈夫だ!だけど少し人手が欲しい!誰かこちらに来てくれないか?彼の手当てをしたい!あと少女のことは何よりも優先しろ!これは王の命令だ!」


「わかりました!」


まだ森は夜の闇に包まれていたが、私達には希望の日差しが差し込んでいた。


─────────────────────────────


オオ、ナント素晴ラシイ!

コレホドノ力(ちから)ガ引キ出セルトハ、ヤハリ人間ニトッテ『心』トハ特別ナモノデアルナ

モット、モット『心』ニツイテ…………ナルホド

コレガ『面白イ』ト云ウ感情ナノカ

アノ神ハコレニ魅入ラレタノダナ

今デハ理解出来ナクモナイゾ

デハ彼ノコトハ"アレ"ニ任セヨウ

……アルタスヨ、我ヲ失望サセテクレルナヨ?


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