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第3話

「そのゼウランテって街はここからどうやって行くの?」

「いや知らないわ。」

「えっ?」

「だってしょうがないでしょ!ワタシは悪魔。街なんて行ったら、すぐに討伐対象として人間に追いかけまわされるがオチよ。そんな中情報なんて思うように集められる訳ないじゃない。」

「じゃ、じゃあどうすれば……」

「そこでアナタよ。本当に勇者の仲間だったら悪魔の1人連れてても多少は融通が聞くはず。それでゼウランテへの行き方を聞き出すのよ。」

「まあ確かにそう……なのかな?でもそもそもの話として、近くに人が集まってるようなところはあるの?村とか。」

「さあ?あるんじゃない。人間って結構色んなところにいるし。早く行くわよ。」


そう言うと彼女はなんの迷いもなく進み出した。

……最初からこの調子で大丈夫かな。





「そういえばどうして僕のことを少し知っていたの?もしかして勇者と戦ったとか?」


しばらく森を進んだ後、不意にリシアに聞いてみる。


「いや、他人から聞いただけよ。アナタがこの森に居るってのもね。正直本当に見つかるとは思っていなかったけど。」

「その人って誰?どんな人?なんで僕のことを知ってる?」


僕の正体を知っている人がいることに、思わず立ち止まって食い気味で質問する。


「アナタが期待してるような答えではないから、知る必要はないわ。」


そう軽く返された後に「早く行くわよ。」と少し後ろを歩いていたリシアに抜かされる。

とても気になるけど、とりあえず今は今のために先に進もう。


先程の質問の後特に何も話すこともなく黙々と森中を歩き続ける。

ここは不気味な程に静かで、他の魔物の気配も一切しない。

聞こえるのは2人が吐く息と、たまに吹き抜ける風が揺らす木々の葉音ぐらいだ。

鬱蒼としたこの森は人の手が加わった形跡が見当たらない。

複雑に絡みあった木々の根のせいで歩く場所全て軽く隆起している。

平坦で歩きやすい道なんてものはなく、ただひたすら巨大な木々の根を避けたりよじ登ったり、細い木や蔓は、持っていた黒い剣で切り捨てつつ突き進む。

だから時間のわりにはあまり進めてないような気がする。

とりわけリシアは僕より背が低いから少し行くにも一苦労に見える。

大丈夫?と一足先に進んでいる僕が手を貸すけど、「気にしないで」と払われてしまう。

強がっているようだけど、明らかに彼女は無理をしている。

僕はこの状態で魔物に襲われたらまずいとか、今のまま歩いても効率が悪いとか、そう説得して定期的に休憩をとった。

そしてしばらくしたらまた動き出す、これを繰り返しながら進んだ。


もうどれほど進んだろうか。

どんどん森の奥に来ているような気がする。

立ち並ぶ木々は記憶にないほど、どんどん大きくなってきている。根っこ1本でも人間程の高さがある。

逆にここまでくると下をくぐって進めるため、少しは楽になった。

だけど弊害として、巨大な木々が空を覆い尽くしたせいで、陽の光はほとんど降り注いでこない。

もう太陽の位置で時間を判断出来ない、とリシアは嘆いていた。

いくら歩いても人の気配はおろか生活している雰囲気も感じない。

その事実に身体よりも精神の方がやられる。


「また少し休憩する?」


僕はまたリシアに休憩を提案した。

心が参っていたら進むにも進めないと思ったからだ。


「でもこれ以上止まっていたら森を出る頃には夜になってしまうわ。……なんでこういう時に限って人間はいないの!いつもは鬱陶しいほどそこら中にいるくせに!」


リシアはまだまだ元気そうで良かった。

人間に文句を言っていられるうちは大丈夫そうだ。

しかし、時間が経つことに、彼女は明らかに焦ってきている。


「森の奥も奥の方なのかもね。ありがたいことに魔物とは1度も合わずに済んでる。こうなったらいっそ魔物の少ないここで夜営した方が……」


リシアをなだめるように、ここでの夜営を提案した。

おそらく今日中に森を出るのは無理そうな気がする。

道中、魔物の気配どころか足跡などの痕跡すら見つけられなかった。

ならばいっそ身体を休め、明日に備えた方が良いと考えた。


「だからまずいのよ。魔物がいないってことはアタシたちしか食べるものがないってことよ。」

「えっ?リシアの気配のせいで魔物が出てこないんじゃないの?」

「あの時は適当に返したけど、そうよ。今のワタシにそのまでの力はない。この森にはもっとやばいのが潜んでる。この森中の魔物を食い尽くすほどの暴食の化身がね。」


この森の魔物が全て食べられた……?

その話を聞いて絶句する。

先程から魔物のいない森には違和感を感じていた。

そのあたりの感覚というか知識は、失ったと知らずに勝手に思い出していた。

記憶を失う以前はそれぐらい当たり前だったのかもしれない。

そんな今だからわかる、この森の異常さを。

リシアの嘘かもしれないけど……この森の得体の知れなさが僕にそれの存在を信じさせた。


「……出てこないんじゃなくて一体もいないなんて。もしかして僕たち相当やばい?」

「ええ。出発早々最大の危機よ。やつは夜に動き出すはずだから、とにかく日があるうちに森を出るか村を見つかるかしないと。」

「と、とにかく進まなきゃ。リシア歩ける?」

「元からなんともないわ。急ぎましょう。」


僕たちは再び移動を開始した。

リシアは急いでなんて言っていたけど、それでもやはり木々が邪魔をして簡単にはいかない。

そんな時だった。

前方に、陽が差し込んでいる開けた場所を見つけたのは。


「リシア前!あそこ村があるかも!」

「ホントだ!人間!人間はいる!?」


さっきまで力なく進んでいたリシアがそれを見た瞬間、子どもがはしゃぐように陽の光に元気よく駆け出して行った。


「ああ待って!」


あんな無邪気なところを見ると本当に悪魔なのかと疑ってしまう。

だけどその力は悪魔に変わりない。

出会った人との間に誤解が生まれないようにと、僕も急いで追いかける。


着いてみたらそこは村ではなくただ横に一直線に開けた場所だった。

森を横断するように彼方まで延々と続いていて、果ては見えない。

周囲より窪んでおり、幅も小さな村なら入りそうだ。

僕は滑り降りてリシアの元へ寄る。


「村じゃなかったか……。リシア何してるの?」

「……人が作ったものじゃなさそうね。」


村じゃなかったからか、リシアはしゃがんで地面を触り何かを調べている。

人の痕跡でも探しているのかな。

軽く見渡した感じ、謎の道には立て看板や建物などの人の形跡は見られない。

しかし、路面は地面がむき出しになるほどしっかりと踏み固められており、人が歩き進むにはとても適している。


「どこまで続いてるんだろう。この道を進んだらもしかしたら森の外に抜けられるかも。」


太陽の位置もようやく確認出来た。

だいぶ低い位置にあるが、日暮れまではまだ少し時間がありそうだ。

この際、この道を進もう。

森の中を進むのよりこちらの方がよっぽど早く着きそうだ。


「リシア、どっちの方向に進む方が……」

「急いでここを離れるわよ!」


ずっと黙っていたリシアが、こちらの発言を遮るように叫んだ。


「ど、どうしたの一体?」

「いいから!早く森に戻るわよ!」

「でも、この道を進んだ方が……」

「話はあと!早く!」


リシアは森の方に向かって僕の背中を押す。

その直後だった。

地面がかすかに揺れたのを感じた。

そして遠方の方から重く低い音が聞こえてきた。

その時に気づいた。

周囲よりえぐれた草木が生えていないこの道が何を意味するか。


「来る……!」


察するには少し遅かった。

リシアは身構える。

地面のかすかな揺れは次第に大きな地響きに、音はやがて轟音となってこちらに向かってくる。

そして何か巨大な影が見えてくる。


「あれがリシアの言っていた化け物……」


あれが轟音と地響きの正体。

それは山と見間違えるほどの巨躯のイノシシ。

岩のように頑丈そうな外殻には何本もの剣や槍が突き刺さっている。

口の両側に生えた牙は元からそうだったのかと思うほど赤黒い。

誰に言われずともわかる。

あれがいかに強大な力を持っているか。


「『多喰らい』……。まさか本当に遭遇するなんて……!」


この森には魔物はいない。

貪食なアイツはきっと腹を空かしている。

ならどうしてこちらに向かってくるのか。


ヤツと目があった。

その巨体には似つかない小さな目。

その目を強く睨み返す。

そして僕はリシアを抱き抱えて走り出した。

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