第2話
「単刀直入に言うわ。アナタ、ワタシと一緒に勇者を裏切らない?」
勇者を裏切る……?生憎僕は記憶喪失中で、勇者に関しての記憶なんてあったとしてもこれっぽっちも残ってない……はずなんだが、「勇者」という言葉がヤケに引っかかる。
もしかして記憶を無くす前に僕は勇者に関して特別な思いがあったのかもしれない。だとしたらこの少女(仮)は何者なんだろう?仲間?勇者に恨みを持った敵?それとも……
「どうして勇者を裏切るんだ?」
僕は子どもに話しかけるように少女(仮)に問い返した。ただのごっこ遊びをしてるかもしれないからな。いやたとえ違ってもそうだと信じたいものだ。
「それは勇者が魔神を討伐するからよ。アナタならきっとワタシを理解できるわ。」
彼女は少し微笑みながら答えた。そしてこちらの目をじっと見つめる。こちらの出方を探っているようだ。今の返答で彼女の正体が何か自分の中で答えが出た。魔神……それはこの世界に魔物や悪魔を生み出した諸悪の根源。勇者が魔神討伐するからこちらに付けってことは、少女はやはり(仮)なようだ。どうやらあの衝撃で、都合よく悪魔に関しての記憶は戻ってきてくれたのは幸運だったかもしれない。ならこの話に乗る訳にいかない。しかし僕なら理解できるってどういうことだろうか?向こうが考えていることがイマイチ分からない。
「アナタ本当に勇者の仲間?」
考え込んでいて反応が微妙だったからか、確認するように切り込んで質問してきた。そして変わらずこちらを強く見つめる。適当に話を合わせてこの場を乗り切る?ダメだ。そんなことしたらバレた時にどんな目に合わせられるか。考えるだけで体が震える。じゃあいっそのこと逃げる?それが出来ないから今この状況に置かれてるんじゃないか。なら一体、どう答えるのが正解なんだ!
「ちょっと、聞いてるの!」
「……実は僕、記憶喪失で勇者のことどころか自分の名前すらも思い出せないんだ。あはは……。」
……勢いあまって本当のことを言ってしまった。僕は悪魔の非情さを思い出している。こんなことを言ったら利用価値がないとバレてすぐに殺されるだろう。だからこれだけは1番避けたかったのに……。
「記憶、喪失……?」
少女(仮)はどうしようと呟く。やはりまずかったようだ。
予想外のことだったのか、彼女は顎に手をあて考え込む。
一瞬の静寂があまりにに長く感じた。
どれくらいの時が経ったか、少女(仮)は口を開いた。
その瞬間息を呑む。
「アナタ頼るアテはあるの?」
頼るアテ……?どういうことだ?こちらの心配をしてくれている?
何故?てっきりどう殺されるか、それを告げてこちらの絶望する顔を笑って楽しむものと思っていた。
「い、いいやないよ。この森から抜けだせたらいいなと思って、ただ歩き回ってただけだよ。」
向こうの意図が見えない。どう答えるべきか分からないため正直に告げる。
「なら尚更ワタシと組むべきだわ。このまま夜を迎えたら間違いなく死ぬわよ。」
「心配してくれるのは嬉しい。でもだからと言って勇者を殺すことに手を貸せない。」
この際余計な詮索などせず、正直に話し合った方が良いかもしれない。
「誰が勇者を殺すだなんて言ったかしら?」
「えっ?でも勇者が魔神を討伐するから裏切れってそういう……」
「まあそう理解するのも無理もないか……。裏切るっていうのは勇者より先にワタシたちによって魔神を討伐するってことよ。」
「で、でも君は……」
「キミは悪魔なのに、って言いたいのね。そうよ、確かにワタシは悪魔。それは間違いないわ。」
「でも、全くの他人に倒されるのはダメ。ワタシが、ワタシがやらなくちゃいけないの……。」
少女(仮)は途端に今にも泣きそうな声になる。
こうやって人の心につけ込むのか、そんな考えもあった。
けど、僕にはそれが偽物にはとても見えなかった。
どうしてだろう、特に根拠はない。
だけど僕は言った。
「……わかった。君の魔神討伐手伝うよ。」
「ホントに!?」
少女(仮)はただ驚いてた。驚いたフリをしてまたしても同情を誘う演技かもしれない……。
しかし、やはりそうには見えなかった。
「魔神の脅威は無視できないし、もしかしたらその道中で僕の手がかりが見つかるかもしれない。だけどひとつ約束して欲しい。人々に、危害を加えないでくれ。もしそんなことあったら、僕は君のことを討つ。」
完全に心を許してはならない。
腐っても相手は悪魔だ、隙を見せるな。
戻った記憶がそう語りかけてくるような気がしたため、思わず咄嗟に条件をつけた。
「そんな節操がないことはしないわ。約束する。」
彼女はそれをすんなりと了承する。
記憶にある悪魔のイメージとは随分と違うようだ。
「これからよろしく、ええっと……」
「ワタシはリシア。とりあえずなんて呼べばいいかしら?」
「そうだね……」
「この際なんでもいいわよ。思い出したら使わないんだから。なんか覚えてる言葉とかない?」
言われた通り、適当な単語を思い浮かべてみる。
朧げながらひとつの景色が脳裏に現れる。
辺り一面に咲き誇る白い花。
その花畑の中、誰かと話している記憶。
そしてひとつの言葉が口から出る。
「……アルタス、かな」
「なんでまたそんな名前なのよ。」
リシアはどこか気に入らなそうに言った。
「ふと頭に浮かんできたのがこの言葉だったんだ。なんでだろう。あ、何か変な意味だったりする?」
「……いいや、白くて綺麗な、花の名前よ。白髪のアナタにお似合いね。」
「ならよかった。じゃあ改めて。これからよろしくリシア。」
「ええ。絶対に魔神を倒しましょうアルタス。」
こちらの差し出した手をリシアは握り返した。この小さくてか弱い手の持ち主が本当に悪魔なんだろうか。
「じゃあ早速、日が暮れる前に出発するわよ。」
「出発するってどこへ?」
「大きな街よ。まずはそこで人や情報を集めるわ。だから……」
リシアは少し溜めて言う。
「大陸一の大都市、要塞都市ゼウランテに向かうわ。」
そう彼女は高々と宣言した。出会った時の淡々とした雰囲気以外にもこんな一面があるんだ。
……もしかしたら悪魔ってのは全員が全員悪いヤツじゃないのかもしれない。




