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あゝ憎むべき紅炎の騎士  作者: 和泉キョーカ
フォースナイト襲来編
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22/24

越境の風

 ショッピングセンターにおいて発生したテロ事件を鎮圧した忍たち。その様子を、静かに見守る中国語を話す青年たち。彼らは一体、何者なのか。

 巴桜の五王会会議室で、少年――真坂直雪はひとり書類作成の手は止めずに、溜息を連発していた。

「大変そうですね。」

 そんな直雪の背後から、高く澄んだ声がする。直雪の座るテーブルに緑茶を置くと、その声の主は直雪の手元にあった空間液晶を覗き込んだ。

「あ、葛城さん。」

「どうも。これは……先日のショッピングモールの。」

「はい。始末書ですよ。案の定指宿さんがやってくれないもので。」

 それは、少女と言われても疑わないほど整った顔を持った美少年、葛城昴星かつらぎこうせいだった。巴桜の実質的ナンバーツーで、『エンプレス』の駒の保持者。高校三年生にしては身体の線も細く、声色も高く澄んでいて、そしてこの顔をして、エンプレスとなる前は『蠱毒の仙女』とまで言われていた程だ。

「えぇ……まぁ、大変なのはよぉくわかりました。……それを踏まえた上で、これ、よろしくお願いしますね!」

 また、巴桜きってのドS王子でもあった。返事も待たず昴星が直雪の生徒個別アカウントに送った大量の書類データに目を通した直雪は、その目を丸くした。

「こ、これって……いや、で、でもどうして!?」

「さぁ……なんでも火付け役は鳳宮の生徒会長だったようですが、見ての通り他三校含め、四校揃ってうちに殴り込もうとしてますよ。面倒なことに。」

「……顔がにやけていますよ。」

「おや、これは失礼……ふふっ。」

 直雪は、この日何十度目かの嘆息を、それはそれは長く深くついた。


 洋上独立国家学園『フォースナイト』とは、その名の通り太平洋上に浮かぶ、世界最大の学園国家である。国際連合が、巴桜開校に対抗して設立した、世界規模の能力者育成学校だ。ほぼ正方形の人工島は地域によって四つのエリアに分かれており、それぞれにひとつの能力者育成学校がある。

 騎士道を尊ぶ教育法を取っている、ヨーロッパ地域の少年少女の学び舎、『ユーロ・パンプ学園』、集団としての力よりも個々人の力を伸ばす南北アメリカの『アメリカ総合異能者育成学校』、武術の流派によって校内でもいくつかのグループが成り立っている広範囲アジアエリアの『鳳宮フェンゴン大学』、ロシアエリアに存在する何かと黒い噂の絶えない『シュコラ・カンプォス』。

 この四校が、毎年覇権をかけて行われる決闘大会を通して、少年少女の能力者としての成長を促している。

 巴桜に比べて教育内容の充実度は劣るが、日本人と比べて競争意識の高い生徒たちが集う人工島であるが故に、個人の実力は未知数とされている。


 そのヨーロッパエリアの西欧風の街並みの中を、一組の男女が並んで歩いていた。

「会長、お言葉ではありますが、やはり鳳宮などと行動を共にするのは……。」

 年齢十七、八歳といった少女が、横を歩く青年に進言する。

「僕は別に、鳳宮どうこうを問題にしてはいないさ。ただタイミングよく鳳宮が『暇つぶし』を提案してくれたから乗ったまで。」

「とは言えど……!」

「ミラ、君も知っているだろう。海の向こうにいるあの島国にも、『騎士王』の名を持つ剣聖がいるということを。……見てみたくはないかい? ふたつの巨星の衝突の瞬間を。」

 ミラと呼ばれた毛先を青く染めた少女は、戸惑いつつも青年、『ユーロ・パンプ学園』生徒会長、エドワード・モントローズに肯定の意を示した。

「……見たい……です。」


 時は少し遡り、アジアエリアの八割を占める人工湖の中央、水面上に建てられた鳳宮大学生徒会室。

「ほ、ほんとうにツァオせんぱい、トモエザクラにいくんですかっ!?」

 まだ十超えたか否かという外見の、ヒジャブを頭に巻いた明るい茶色の髪の少女は、机に茶を置きながら、素っ頓狂な声を上げた。その机の上に足を組み乗せるへらへらとした青年は、手を振りながら弁明する。

「いやぁ、ぼくも最初は冗談のつもりだったんだけどさ。他の三校に話したら思いのほか食いついちゃって。ねぇフェイウン?」

「まったく。この頃フォースナイト中央決闘場の老朽化に伴う工事で決闘大会が中止されてからというもの、あの餓えた虎どもは闘争を待ち望んでいたんだ。こうなることくらい予想できただろう。」

「まぁまぁフェイウンさん。結果的に僕らだってそう悪い思いをすることはなかったんです、結果オーライってやつですよ。」

「フータオ……お前はもっと緊張感を持て。奴らは我々よりもはるかに充実した異能力教育を受けているんだぞ。そう簡単に行くと思うな。」

「それは……どうだろうねぇ……?」

 そう不敵に笑う、鳳宮大学生徒会長、ツァオ・ヤンは、腰掛けた椅子から立ち上がり、世界地図の前を通り過ぎる際、一瞥もせずに、ポケットから目でも追えぬ速度で何かを飛ばした。

 生徒会メンバーが立ち去ったあとで先程の少女が世界地図を見ると、そこには噛み終えたガムが突き刺さっていた・・・・・・・・


「サムライの国ニポン! 行くのを心待ちにしていたぞ!」

「ニッポンな。ニッポンオタクの名が廃るぞ。」

 アメリカエリア某所、公園の噴水前に設けられたベンチで、サンドイッチを食べるふたりの青年。

「スカウトからの伝達は?」

「トモエザクラは今『騎兵祭』なる決闘祭の最中らしい。それはあと二日で終わるらしいから、もしそいつに参加するとしても最終日の決勝戦でぶつかるふたりのうちどちらかをつぶし、オレたちが決闘権を得ることになるらしいぞ。……まぁ。」

「そういうのは大抵鳳宮が取ってくよな……。」

「あぁ……。」

 ぼんやりと青空を眺める黒人の青年と、無言でサンドイッチを頬張る白人の青年。ざっと風が過ぎ去ってから、黒人の青年は端末を取り出し、白人の青年に動画を見せた。

「見ろよ、このニポンのサムライガール。身の丈よりも大きな大剣をこんなにも軽々と振るっているぞ。」

「昨日からその子のことばかりだな……。お前、その子に会っても絶対襲うなよ?」

「俺が肉欲だけでできているみたいな言い方やめろよ。」

「そうだろ。」

「そうだけど。」

「ロリコンか。」

「いや、彼女は高校二年生だぞ。」

「これが?」

「これが。」

「ふーん。」

 そう言って、またサンドイッチを口に含む白人青年。しばらくの沈黙の後、黒人青年が吼えた。

「いやもっと食いつけよォ!」

「うわっ、ツバ飛ばすんじゃねぇ!」

「こんなにかっこよくて強くてかわいいじゃないか!」

「お前は人生の構成要素がはっきりしていてホントうらやましいよな……。」

 強い。格好いい。それはこの黒人青年が常に追い求めるものであり、青年の人生そのものだった。

「待ってろサムライガール……マレ・カゲイ! 俺は絶対にお前を越えてみせるぞ!」

 そう、アメリカ総合異能者育成学校の生徒会長、マックドレー・ルテスは、蒼穹に腕を振り上げた。


 太平洋の上だというのに、人為的な大雪が降るロシアエリアの、凍結した道路をひとり走る青年。青年は鉄格子で仕切られた大きな施設に入り、階段を駆け上がっていく。そして目的の階に着くと、廊下を小走りで突き当りまで移動し、そこにあった重々しい樫づくりのドアをノックし、名を名乗った。

「ドナート・アレクセーエヴィチ・バザロフ、入室します!」

 そうしてドアを開け、目の前に崩しに崩した座り方で椅子に腰かける少女に、封筒を手渡した。

「ヤスクノヴァ殿、意見書を提出しに……。」

 少女は封筒を受け取ると、開封もせずにゆらゆらと炎揺れる暖炉にそれを放り込んだ。

「な、なにを!」

「口頭で言いな。どうせ承諾しないけど。」

「は、ハッ! 我々『夜梟フィィレン派』はトモエザクラへの遠征には反対であります! 理由といたしましては……!」

「却下。」

「……。」

 冷たく言い切り、目つきの悪い少女は、軍服のようなデザインの制服のコートを脱ぎ捨て、立ち上がり、青年の真横に立った。濁った青色の瞳で、直立する青年の横顔を睨み、質問する。

「あのな。アタシらカンプォスのストディエントがくせいってな、どういうヤツらだ?」

「は……勝利を欲し、戦争に餓えた狼であります。」

「じゃあ、お前ら『夜梟派』は牙を抜き、爪を丸めた飼い犬だって、ことかい?」

「そ、そのようなことは……!」

「だったらグダグダ抜かしてねぇでさっさとトランクにお人形詰め込んでろタコ。」

「し、しかし!」

 その瞬間、少女の袖の中からナイフが飛び出した。少女はそれを掴むと、青年の首筋にそれをぴたりと当てる。

「『しかし』、なんだ。言ってみろ。」

「……し、失礼いたします。」

 青年は、すごすごとその部屋を去っていった。

「……腰抜けめ。アタシが本当に人殺しをするように見えるのかよ。」

 少女、シュコラ・カンプォスの生徒最高総統、エレオノーラ・マルティノヴィチ・ヤスクノヴァは、ナイフを乱雑に机に突き立て、窓の外の大雪と、その向こうにかすかに見える太平洋を望んだ。その濁った目には、たしかに野望の炎が、暖炉のそれのように揺れていた。


 合わせたわけではない。そもそも場所が離れすぎている。しかし、四人の生徒間トップの少年少女たちは、そろって似たようなことを口にした。

「さて……トモエザクラの諸君。」

 ヨーロッパエリアで。

「ぼくらをがっかりさせないでねぇ?」

 アジアエリアで。

「サムライの身に秘めしその実力!」

 アメリカエリアで。

「アタシらに余すとこなく見せてくれよぉ……!」

 ロシアエリアで。


今ここに、新たな波乱の風が吹き始めていた。


「「「我々を相手にして、果たしてどこまで足掻けるかな!!!」」」

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