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あゝ憎むべき紅炎の騎士  作者: 和泉キョーカ
校内大会編
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20/24

掃討戦

 合宿の準備のため訪れたショッピングセンターで、テロに遭遇してしまった忍一行。彼らは、周辺都市の治安自治も任されている巴桜の一生徒として、テロリストの一掃を開始するのだった。

 とうとう、小さな子供が泣き出した。先ほどから「じっとしていろ」「騒ぐな」と言われて鬼の形相で銃を突きつけられていたのだから、今まで泣かなかったこと自体褒めてしかるべきである。謎の武装集団が休日のショッピングモールで来場者を人質に立てこもってはや一時間。忍たちは南ブロックのエントランスホールに固められ、微動だにすることすら許されなかった。そんな中、突如響く幼子の泣き声。

「うっせぇんだよっ!」

 子供のすぐ近くにいた男が逆上し、拳銃を子供に向けた。

「こっちの要求が国に通るまで黙ってろっつっただろうが!」

 半泣きで子供をかばう母親の腕の中で泣き喚くその子へ狙いを定め、引き金を、引いた。

 つたん、という乾いた音とともに、子供に銃弾が命中する。

「……は?」

 ――はずだった。しかし、そうなることはなかった。子供と、その母親のそばにいた青年が、銃弾を手で叩き落とした・・・・・・からだった。もちろん、忍である。

「……ルーク・解放。」

 校内ではないため、体を素力塊化させることはできぬものの、その身体能力はヒトの域を超えている。

「何だテメェっ! じっとして……っ!?」

 忍はゆらりと動くと、音もなく男の目前に現れ、その男の頭蓋をつかみ、軽く、だが力強く前後に揺すった。男が崩れ落ちるのを見た他の武装兵たちが、一様に忍に向かって機銃を発砲させるも、その弾丸もすべて、忍自慢の妹が振るった大鎌に弾かれた。

「さぁ、ヒーローの出番だよ♪」

 大鎌をぶんぶんと振り、『自分的一番カッコイイポーズ』を決める桜。忍はひとまずその場を桜に任せ、桜を盾にするような状態でその背に隠れ、巴桜の緊急時用のダイヤルを回した。

『はい、こちら五王会。』

 そこから聞こえてきたのは、<キング>真坂直雪の声だった。

「……もしかしてナオさんって体のいいパシリっすか。」

 年下だが一応キングなので敬語を使う忍。

『は、ははは……本当はこういうのクイーンの仕事なんだけど、指宿さんやってくれないし……。で、用件は何でしょう。――あ。』

 直雪は何か思い当たったように短く漏らすと、その用件を言い当てた。

『新聞部の方から聞きましたが、今、今川さんってあのショッピングモールに行ってるんですよね。』

「ちょっと待ってくださいその言ってもいない情報掴んでる新聞部の方って誰ですか。」

『テレビでもかなり大々的に報道されてますよ。テロだそうですね?』

「――えぇ。数名が発砲してきました。」

『わかりました。ではキング権限で超法的措置を取ることを許可します。殺すことは何があってもいけませんが、まぁ死なない程度にとっちめてやってください。そちらで時間を稼いでくだされば、こちらからも数名生徒を派遣します。』

 巴桜は、その巨大さ故に、政府から周辺都市の自治も任されている。よって、このような事態が起きた場合、巴桜の生徒はその現場に派遣され、事態鎮圧に動くことになるのだ。今回は、偶然にも忍たちがその場にいたと言うことで。

「了解です。……で、その新聞部員ってのは――。」

『では御武運を。』

 ぶつりと通信を切られ、忍は首を振り振り、嘆息しながら、目の前で鼻歌を歌いながら高速で大鎌を操る桜に指示を飛ばす。

「サクラ! アカネと入れ替われ! お前は人質のみんなを安全な場所に避難させろ!」

 最後まで大鎌を回す手を止めず、そのまま背後に控え、二丁拳銃を持っていた茜と場所を交代する。瞬く間に発射される高圧の水弾によって、テロリストたちが倒れていく。

「トドロキ! サクラを手伝ってやれ! ――ヒイ!」

「委細……っ、承知いいいぃぃ――!!」

 強化ガラス製の天井を蹴破って現れたのは、忍の間者、冬竹氷唯。菖蒲色のマフラーをはためかせ、テロリストのひとりに強烈なかかと落としを決める。着地して次々とテロリストたちを蹴り倒していくのを見た構成員のひとりが、裏返った声で他のテロリストたちを鼓舞しようと図った。

「オイ何してんだ、相手はたかがガキ五に……ぎゃっ!?」

 しかし、その言葉も、眉間に直撃した水弾に阻まれた。

「ハッ! オレたちをガキ扱いしてると地獄を見るぜ?」

 手にした二丁拳銃でどんどんとテロリストを捌いていく茜。そんな彼女に、忍は冷や汗を垂らしながら忠告した。

「……殺すなよ?」

「大丈夫だ、水圧は四十気圧ぐらい・・・に抑えてるさ。」

「それだいぶ危ない圧力じゃねぇの!? しかも『ぐらい』って!」

 二つの拳銃から放たれる水弾は、テロリストの頭部にヒットするたび「バゴッ」と音を立てている。

「はっはぁ! 全弾命中だぜぇ! 能力さまさまだなぁ、おぅっ!」

 そう言い、振り向いた忍は、突如始まった上空からの攻撃に慌てて前転し、それを回避した。物陰になる柱の裏に隠れ、上を見ると、テロリストたちが階下へ向けて機銃を掃射していた。離れた柱の裏に逃げ込んだ茜にハンドシグナルで階上のテロリストの掃討を指示し、どこからともなく現れた氷唯には、桜と合流し、桜が避難させた来場者の護衛を頼み、桜と将真にも掃討戦を指示するよう伝えた。


 階上を警邏するテロリストの人数を数えていると、数メートル先の柱の陰に、将真が滑り込んできた。既に数か所銃弾がかすったような痕がある。

『今川、六階のみょうちきりんな石像ンとこ、見いよ。』

 ハンドシグナルでそう話しかけてきた将真の言伝通りその場所を、首だけずらして見ると、そこには先程のリーダーと思しき男が、部下なのであろうテロリストと会話していた。

『……轟。あいつの言ってること読み取れるか?』

『俺の読唇術も半端モンなんやけどなぁ……。』

 銃弾の雨の中、文字通り命がけで男の唇の動きを凝視する将真。ややして、将真はハンドシグナルを使って、忍にその会話を伝えた。


『室長、邪魔が入ったようです。』

『巴桜の連中か……。』

『はい。ここはいったん退いた方が賢明かと。』

『……ここはお前たちに任せる。ヘリを一機呼んでおけ。屋上へ向かう。』


「……屋上だな?」

「せやな。」

 銃弾の嵐の中にゆっくりと入っていき、肉声でそう確認し合うふたり。その体に、無数の銃弾が撃ちこまれる。

「ってことは、屋上に行けばいいんだよなぁ。」

「ちゅうことは、こいつらを蹴散らさなあかん言うことやな?」

 ふたりは、眼前に数十人といるテロリストたちめがけ、ポケットに入れていた『駒』を、放り投げた。当然の如く、駒は銃撃に耐えきれず、木っ端みじんになった。

 その結果。

「ちと面倒だからなぁ。」

「反省文一枚分でボコらせてもらうで!!」

 破壊された駒から迸った紫色の炎が、ふたりを通過するように流れていき、ふたりの周りには、それぞれ忍に赤黒い、将真に白い霊気オーラがまとわりつき、その霊気が、銃弾を弾き落としていく。

 駒とは、能力制御装置である。能力を発現させるために必要な元素に干渉する謎の力、『素力』を封じ込め、不必要に強大な力が発揮できないようにするための、リミッターなのだ。それを破壊されれば、当然、駒の内に秘められた素力が、全て所有者に還元される。還元されれば――。

「……やりすぎたか?」

「あー? んなもんやりすぎくらいがちょうどいいんだよ。『おれつえー』なんだから。」

「おまんはちょくちょく前時代的な言葉を使うのぉ……。」

 あっという間に、気絶したテロリストたちの山が築かれた。しかし、そんなふたりに、突如としてすさまじい殺気が襲いかかる。

「うおっ!?」

 それは、右腕が肥大化した男と、左腕が肥大化した女が、それぞれ忍と将真にその腕を振り下ろそうとしていたのだ。間一髪それを躱し、にやにやと笑う男女から距離を取り、アイコンタクトで確認し合うと、ふたりはそれぞれに男女に立ち向かっていった。


 その頃、桜は、三階通路で、行く手を阻むテロリストたちを蹴散らしていた。

(お兄ちゃんからの連絡だと、巴桜側からの援護がくるまでの時間稼ぎって言っていたけれど……。)

 大鎌を振り回しながら、ちらと階下に目を動かす。異形の腕をした、おそらく能力者のテロリストと、忍、将真が大立ち回りを繰り広げていた。そして、階上には、空中をびゅんびゅんと飛び回りながら、各階にいるテロリストたちを、片っ端から吹き抜けに落としている氷唯が見えた。茜の姿が見えないが、彼女もまたどこかで戦っているのだろう。

(……みんなすごいなぁ。私も……。)

 刃をなくした鎌で、前後のテロリストたちを吹き飛ばすと、頭上で得物をぐるぐると回しながら、その場で呪文を唱え始めた。

(最年少だからって、甘えてられない!)

「雨霧に出でたる――!」

 そして、巨大化した漆黒の大鎌によって、二階層のテロリストたちは、一掃されたのであった。

「唸り閃け! 我が神器、≪デスサイズ≫!!」

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