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あゝ憎むべき紅炎の騎士  作者: 和泉キョーカ
校内大会編
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19/24

不穏

忍は自らに託された想いを、茜に伝えた。そして茜は、忍を許す、と言った。そこから数日。一行は、合宿準備のため、湾岸部に建つショッピングモールにやってきていた。そこで、彼らは、厄介ごとに巻き込まれることになる。

 巴桜の『合宿』というのは、幾分特殊だ。部活で行うところも多いが、人数が五人以上いて、行き先が決まっていれば、巴桜側がそれなりなホテルであれば十泊はできる程度の合宿費を提供してくれるのである。さすがは国にとって必要不可欠の学校といったところか。

「もう一度言うで? 海行こうや。」

「もう一度言うぜ? オレぁ山がいいつってんだよ。」

 この日、七人が入るにはやや狭い忍と希の部屋では、夏休みに皆で合宿に向かおうということで、行き先を決める会議が開かれていた。

「夏言うたら海やろ!」

「いえ海は直射日光が怖いです灰になります日の当たらないところにしてください。」

 何をしているかはわからないが、タブレットデバイスを操作している伊予理が、くまのできた目で海に行かんと主張する将真に視線をやる。

「私は海がいいなぁー。」

 忍が切った桃を頬張りながら、桜は提言した。

 海か山か、でせめぎあう将真と茜の視線の交点では、さながらに火花が散っていた。

「……姫。主。不肖。粗茶。」

 『なるべく自分の声でしゃべってくれ、違和感がする。』と言われた氷唯が最低限の言葉で出したお茶をすすりながら、決闘時とはうって変わってのんびりとしている忍は、苦笑しながらそのやりとりを眺めていた。

 今日は土曜日。騎兵祭も残すところあと二日となり、次の火曜日で全日程が終了する。そうなれば、あとは期末試験があり、なんだかんだですぐ夏休みだ。予定を立てるなら早くしたほうがいい。そうはいったものの、これではらちが明かない。行き先が完全に生徒任せ、学園側は全く干渉しないというのもあって、行き先を決めることに苦戦するグループは数知れない。

「おうそうだ、おいそこの忍者。お前は山と海、どっちがいいんだよ?」

「……忍びの者。主人。追従。……基本。」

「つまりお兄ちゃんがどっちがいいかによって決まるわけだね?」

 氷唯がこくりとうなずくと、既に意見のはっきりしている四人の視線が一点に集中した。忍は、いきなり振られてきた話に驚き、狼狽し、希に助けを求めた。

「お、俺!? え、えぇーっと……。ま、マレ、どうしたい?」

 その言葉に、四人は同じようなことを思う。

(お兄ちゃん変にプレッシャーに弱い時あるからね……。)

(まぁたマレちゃん頼みかいな……。)

(センパイのチキン野郎。)

(意気地がねぇな。)

 そして、一気に三票動くとあって、まさしく野獣のごとき眼光が希を襲った。相も変わらず舟をこぐ希がその視線に気づき、あくびをしながら放った一言で、今回の合宿の方向性は決まった。

「……ふぁ。山、嫌い……。」

 海である。


 伊予理が風邪を引いた。いわゆる夏風邪である。いつも生活している場所が場所なだけに自業自得ともいえるが、とにかく今はルームメイトが短期留学で不在の茜の部屋で寝ている。

「だからよ。三鷹台のスリーサイズも訊かずに水着買っていいのかよ、って言ってるんだが……。」

「いいんだよー。イヨリちゃんのスリーサイズなんて採寸済みだし!」

 桜がわきわきと手を動かす。その手つきに、同行していた茜は、店外でぼうっとしている忍に、生徒間で使われるハンドシグナルで伝えた。

『お前の妹やばくねぇか?』

 忍も、同じくハンドシグナルで返す。

『あいつは昔から女の子のスリーサイズを触診するのが好きなんだよ。しかもほぼ全部覚えてるし。』

『……やばいよな?』

『やばい。』

「きゃーっ! このワンピースの水着かわいいっ! あ、でもでも、イヨリちゃんはやっぱり、ちょっとおとなしめのやつのほうがいいかなっ!?」

『やばいな。』

『やばい。』

 もう、最後の方になると、ふたりはハンドシグナルなど使わず、首肯だけで会話していた。

 ここは、巴桜南東の敷地外にある、関東圏で最も大きなショッピングモール。休日ということもあってか、家族連れで混みあっている。その南ブロックは施設内で最も広く、一階中央の大広場から十四あるフロアにかけて吹き抜けになっており、ガラス製の天井からは、天然の光源が、ブロック内を明るく照らしていた。

 この日、忍、将真、桜、茜の四人は、合宿のための必需品を買い揃えに来ていた。ちなみに将真は別フロアに持ち合わせのなかった自分用の服や下着を買いに出ていた。

「鎺木先輩! 先輩はやっぱりセクシー系の黒ビキニですかねっ!?」

「え!? お、おう……?」

 衣服を買うときの桜のハイテンションは止められないことがわかっているので、忍は店の外にあるベンチで知らぬふりを決め込んでいた。

「し、シノブーっ! 助けてくれよぉーっ!」

 救援要請が来ても無言でそっぽを向く。だが、思わぬ方法で茜は忍を巻き込んだ。

「ほ、ほら妹! そういうのは男に訊くべきだぜ、なっ!?」

「あ、そうだね! お兄ちゃーん! これどうかなぁー!」

(……やりやがったなアカネ。だが俺の方がそいつの扱いには慣れている。)

 一瞬冷や汗を垂らすも、忍は茜の道連れを回避した。

「あぁ、適当に決めておいてやれ。向こうで見るのを楽しみにしておく。」

 茜の断末魔が聞こえた気がするが、知らぬ存ぜぬ振り。


 通路を行き交う人々をぼぉっと眺めていた時、右方向から黒い外套に身を包み、顔をフードですっぽりと隠した、身長と体格からして男性が歩いてくるのが見えた。その手が外套のポケットに伸びた時、忍は危険に気付いた。

(殺気!?)

 男はポケットから旧世紀式のオートマ拳銃を取り出し、自分の目の前にいた女性の頭にそれを突きつけ、女性を羽交い絞めに拘束した。

「てめぇら全員動くな! コイツをぶち殺すぞ!」

 忍のいたフロアが騒然とし、パニック状態に陥る。階上からも階下からも男と似たようなセリフが聞こえることからして、これはテロのような大型犯罪とみて間違いはないだろう。忍はベンチで足を組んだまま、吹き抜け下のエントランスホールを流し目で見下ろした。ホールに、超防弾チョッキに覆面という『いかにも』な恰好の体格からして男女半々ほどの集団が、手に機銃や拳銃、スナイパーライフルを携えて、なだれ込んでくる。最後に覆面をしていない、総髪をあらわにした男が入ってくると、集団は一気に散開する。

(あれがリーダー……なんだろうな。)

 その時、忍のウォッチバンドに、通信が入った。

『今川。』

「トドロキか。今、どこにいる?」

『何とか便所に逃げ込んだわ。どないする?』

「まずは傍観。手を上げるようなら応戦。」

『了解。』

 そして、将真との通信とは別に、氷唯にも連絡を送った。

「ヒイ! 起きてるか!」

『何用か、主。』

 氷唯は、茜と桜の声で通信に応じる。

「今すぐに俺たちのところに来てくれ。あ――っと。その前に、マレの手の甲に水性ペンで横一文字を描いておいてくれ。」

『承知した。』

 そこで、将真との通信に切り替わる。

『何で一本線なんや?』

「俺とマレの間での『緊急事態』のサインだ。あいつのことだから、どうせ寝てるだろうしな。それじゃ――頼むぜ。」

 そう言って通信を切り、顔を上げると、店内で何食わぬ顔でしゃがんでいた桜、茜と目が合う。ふたりは数メートル先にいる黒衣の男にばれぬよう、膝の下で忍にハンドシグナルを送ってきた。

『ぶっ殺すか?』

『そこまで行かなくとも、再起不能くらいにはする?』

(どうしてウチの女性陣はこうも血気盛んなのであろうか……。)

 忍は将真に言ったことと同じことをハンドシグナルで伝え、その場でじっとしているよう手を振った。

(……さて、どう出るかな。)

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