表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あゝ憎むべき紅炎の騎士  作者: 和泉キョーカ
校内大会編
PR
17/24

鎺木茜

真性化の力を手にし、往年のライバルとの決着をつけた氷唯。後日、忍の決闘が始まろうとしていた。対戦相手の少女は、どうやらただならぬ恨みが、忍にあるようだ――。


 おねがい、おねえちゃんに、つたえて?

 あたしがしんじゃったのは、あのこの――あなたのせいじゃ、ないんだよ?

 だから……。


 はて、この夢を見たのは、いつ以来だったろう。もう数年は見なかった夢だ。あの事件の記憶自体は何度もフラッシュバックするのに、こっちの記憶は……。今の自分が、何かを守らなければ生きていけない存在になってしまった理由であるあの出来事は、罪悪感故かずっと思い出さないようにしていた。

 そう考える忍の頬に一粒、涙が伝っているのを、忍自身は気付かなかった。


『今日のお相手は鎺木茜はばきぎあかねさんであると情報ディーラーからのお話が。』

「あぁ、あのレディースのお頭みたいな……。」

『何十年前の単語っスか……。』

「というかお前情報ディーラーって。タダじゃないんだよな?」

『いえ、懇意にしている人がいまして。その人のやらかした不祥事を言い当てましたら代わりに……と。』

「情報ディーラーの弱み握ってやがるこいつ……。」

「鎺木先輩いうたら、アレやな。『与一竜王』。」

 一緒に登校中だった将真が、ぴっ、と指を立て、その異名を語った。

「……『与一竜王』ー?」

『ご存知ないですか?』

「心当たりがない。」

「アホか! ちったぁ新聞読みぃ!」

 そう言って、将真はカバンの中から今日の朝付の狼雀新聞を取り出した。十七面に、七月十八日、昨日時点での巴桜生徒の戦闘力番付が書きだされていた。

「さすがに五王会は抜きやが、狼雀の全情報源を結集して作った番付や。信用度は高いで。お前さん、部屋に購読手続きの紙届かへんかったか? 四月に。」

「……あー。」

『まぁまぁ、いつからでも購読手続きはできますし。』

「せやけどなぁ。」

「えーっと。なになに? おっ! マレ、巴桜女子生徒部門一位じゃん! さすがぁ!」

 忍がそう嬉しそうに叫び、笑顔で希の髪をくしゃくしゃと撫でると、希は無表情のまま赤面し、しかし、忍がその手を止めようとすると放そうとする手を自分の手で押さえるので、忍はしばらく片手を希の髪をなでることに動かした。

「……で。その下見てみぃ。鎺木先輩はマレちゃんの次、二位や。」

『ちなみにセンパイは戦闘力のデータが少なすぎるため、ランク外です。』

「はいはい。興味ないから。」

 鎺木茜。決闘含め六百三十二勝、二敗。『与一竜王』の名を持ち、携える大弓の命中精度はほぼ百パーセント――。この時はまだ、忍はその特徴的で――忍にとっても思い出深い苗字を聞いても、何も感じなかった。


 放課後、騎兵祭十九日目が始まり、中央闘技場第三十二サーバー(同じ闘技場内でも、数多くの決闘を一度にスムーズに行うため、複数のサーバーが存在する。入場前にサーバーを端末に打ち込むことで、該当サーバーに入場することができるようになっている。)では、忍と茜による決闘が始まろうとしていた。

「よぉ。『永眠の槍兵』。調子はどうだい。」

「……なんだその名前。」

「今日の朝に、お前の異名が決まったのさ。よかったな、大事な大事な剣姫さまと対になってるじゃないか!」

 目の笑っていない満面の笑みで、そう嘯く茜。手に持った大弓と、どうやら水でできているらしい液状の矢を見て、忍は伊予理の解説を思い出した。

『鎺木先輩はテッポウウオの能力者っス。その命中精度は百発百中……なにせ、能力内訳の中に「絶対命中」が入っているくらいですから。水を操る能力も微弱ながら持っているようっス。――しかも、多分まだ何か隠しています。私の能力でも暴くことのできない何かを。気を付けて。』

 忍は、握りしめたランク昇格試験に合格したばかりの黒い『城塞ルーク』の駒を地に落とし、小さく「ルーク・解放」とつぶやき、茜に挑発するように微笑んだ。

「しかしなんとも悲惨な異名だな? 『永眠』だなんて……まるで俺が死んでるみたいじゃないか。」

「そうかい? ピッタリすぎると思うぜ?」

 特徴的な明るすぎる、朱色に近い茶のポニーテールを揺らし、観客席を仰ぎ見る茜。観客たちのほとんどは、こぞって忍に非難の声を浴びせていた。

「みんな……オレ含め、お前に死んでほしいと願っているさ。」

 不敵な笑顔を崩さず、茜はポケットから白いビショップの駒を取り出し、能力を解放させた。

「オレはお前を殺すためだけに今までこの学校に通ってきた! お前が入学してきたと知った時、どれほど狂喜したか! 親父とお袋と、ジジイとババアと、――オレの、大切な妹の無念、ここで晴らしてやる!」

「……退学になるぜ。」

 心の中の悲しみなど表にはおくびにも出さず、忍は忠告した。しかし、茜はそれを無視し、審判のコイントスで決められたステージ設定権を行使、あたり一面を夜の大都会に変えた。人っ子一人いない街は、次に目の前も見えない霧に覆われた。


「はじめっ!」


 霧の中に消えた茜を探すが、見えるのは街灯の仄かな明かりだけだ。彼女の姿どころか、影すらも見えない。その時、霧が動くのがわかった。忍は殺気に身をよじり、その直後、忍の背後で、爆発音がした。見れば、アスファルトに小規模のクレーターが出来上がっている。

(弓の威力か、これは――!?)

 そして、また飛翔音が多数聞こえ、忍は転がるようにその場から逃げた。忍のいた場所が、クレーターでぼこぼこになっている。

(あいつが本当に俺のことを殺そうとしているのなら、確かにはやく決闘の方はケリをつけたいはずだ……。けれど、こうも殺気がだだ洩れじゃ、お前の位置も丸わかりだぜ……?)

 忍は握りこぶしに炎をまとわせ、ぶん、と大きく腕を振る。炎が大きく踊り、あたりの霧をかき消した。そして殺気の源を仰ぎ見れば、遥か彼方のビルの屋上のフェンスの上に、茜がいた。おそらく弓を構え、こちらを狙っている。

 また、風切り音がした。その音に向かって、忍はまっすぐに突っ込んでいく。途中、超高速で飛んでくるそれ・・を躱したが、そこで忍は違和感を覚えた。

(矢か? あれ。)

 そして、ちょうど脳内に響いてきた希の精神干渉による無線で、忍は能力を段階的に解放させる。

『シノブ! あの子、多分かなり強いよ! <レベルスリー>まで使っちゃっていいから、生きて戻ってきてよ!』

「当然。お前が死ぬまでは、死ねない……! <レベルスリー>! いくぜぇっ!」

 その力を解き放つと、忍の姿に変化が起きた。炎で構成された大きな鳥の翼が背中から揺らめき現れ、右の肩甲骨のあたりから、赤黒い骨ばった鳥の足が生えてきた。その足は人間の足ほどの長さで、途中関節があり、かくりと折れ曲がっていた。

 忍は翼を使って跳躍し、ビルの頂上まで飛び上がる。そして、茜の姿を認めたところで、体勢を横に倒し、ぐるりと体をワイ軸方向へ回転させた。鳥の足がメキメキと軋みながら伸び、フェンスの上にいた茜ごと、ビルを破壊する。崩れ行くビルから落ちながら、忍に狙いを定める茜の武器を見て、忍は全てを悟った。

 それは、淡く紫色に発光する、対物狙撃銃だった。

 茜の瞳は、左目のみが紫色に染まっている。

『シノブ! イヨリちゃんから連絡が入ったよ! 彼女、どうやってるのかは知らないけど、中途半端に真性化できるみたい!』

「あぁ、そうみたいだな――!」

 中途半端な真性化故に、体力を消耗せず、長期的に真性化していることができるのだろうか。茜の発射する弾丸を躱しながら、忍はそんなことを考える。真性化した彼女が使う武器は、対物狙撃銃なのか――? しかし、忍が茜に肉薄し、炎の拳を叩きつけ、一気に地面まで墜落させた、その土煙の中から飛び出してきたのは、無数の水でできた弾丸だった。明らかに対物狙撃銃の連射速度ではない。炎の翼で全て受け止め溶かし、忍はいったん翼を消した。豪快な音とともに着地した後、炎で投擲用の槍を作り出し、距離を取ろうと走る茜に向かって投げつける。茜がそれを躱し、持っていた機銃・・を乱射させる。忍はそれを、もう一度作り出した槍ではじいていき、そのまま茜に向かって突進していく。

 その瞬間、忍は、茜が機銃を水に変え、それを二丁拳銃に組み替える光景を目にした。そして、発砲してくる茜に、弾が当たるのも気にせず強烈な蹴りを入れる。

(あいつ……持っている武器を色々な種類の銃に変えてやがる! 散弾銃とか作られたらだいぶまずいな……。)

 その時、吹っ飛んでいった茜がポケットから落としたものに、忍は気付いた。

(……ロケット?)

 それは、銀色のロケットだった。ツタのような装飾と、赤く輝くチェーンがついた、それなりにこぎれいなものだった。忍は、興味本位で、その場から逃げていく茜には目もくれず、鳥の足で拾い上げ、ロケットのスイッチを押す。ぱちりと小さく音を上げ、ロケットが開いた。

「――!」

 その写真を見たとたん、忍の脳内に、思い出したくなかった記憶が、濁流のように流れ込んできた。茜にそっくりなその女の子は、桜の木の下で、花にも負けず劣らず可憐な笑顔で、こちらを見ていた。年の頃は、高く見積もっても十歳。その子は、忍にとって、本来ならば忘れてはいけない存在だった。

「な……なんで……なんでぇ……っ!?」

 声にならない声で、ぼろぼろと涙をこぼす忍。


 最後の最後で救いきれなかった少女。忍が、一番最後に殺めてしまった命。希を守ろうと決意したきっかけ。それは、忍の腕の中で、とても幸せそうに笑って命を落とした、忍のすべての罪悪感の根源。

 鎺木葵はばきぎあおいの写真だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ