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あゝ憎むべき紅炎の騎士  作者: 和泉キョーカ
校内大会編
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13/24

怪物襲来

 冬竹氷唯を従者にすることを決めた忍。そんな中、六月終わりの大型連休に入った巴桜は、閑散としていた。忍は、暇を持て余し、桜にある提案を持ちかける。

 巴桜は全寮制だ。とはいえ、大型連休は教師陣も帰省してしまうので、実質的には校内には一般生徒か五王会しかいなくなる。さらに、今回の大型連休に限っては、五王会が太平洋・・・に出向いているため、本当に一般生徒しか校内にはいない。

「帰る家とかないのかよ、お前ら。」

「ここが家や。」

「お兄ちゃんが帰らないのに帰る必要がないじゃない。」

「主。行方。拙者。同行。」

「……帰っても……退屈……ふあぁ……。」

 四者四様の答えが返ってくる、ここは巴桜生活区の中に多数存在するラウンジレストランのうちのひとつ。忍、希、桜、氷唯、将真は、大型連休を思い思いに過ごした後、連休最後のこの日に、何をするでもなく集まっていた。本当に、何もすることはない。なので、巴桜生としてはこの答えにたどり着くのは時間の問題だったわけで――。

「――サクラ、模擬決闘しようぜ。」

「いいよぉ。やることないし……。」


 そんなわけで、五人は希専用のトレーニングルーム(巴桜では、五王会と狼雀新聞部によって二つ名が認定されると、トレーニングルームが支給される)にやってきた。そこで、兄妹向かい合い、能力を解放させる。残りの面子は、備え付けられたプライベートバーでジュースを飲んで談笑(?)している。

「ルールはとりあえずノーマルデュエルでいいよな?」

「うん。それじゃ……いくよっ!」

 リングの周りに透過防護壁を起動させてから、大鎌を持った桜が忍に突っ込んでいく。大ぶりに振るわれる刃を、忍は両手を後ろ手に組んだまま、ひょいひょいと躱していく。

「必要最低限の動きで振るわないと、雑兵祭は生き残れても、騎兵祭から先は難しいぞ。」

「ふぅん。なら、こうすればどう!?」

 いったん距離を取り、また忍の懐めがけて下から上への逆袈裟薙ぎ。それを余裕の表情でよけた忍は、しかし次の瞬間、驚愕した。桜は薙いだその体勢から、流れるように背を向け、鎌の柄の先、石突きを忍の鳩尾に打ち込んだのだ。

「がふっ!?」

 忍はバックステップで衝撃を最小限に抑えるも、痛みが体内で振動している。忍はよろよろと立ち上がり、桜を睨んだ。その、桜は。

「お兄ちゃんは並大抵の攻撃じゃやられないもの! これくらいしなきゃね!」

 そう言って、頭の上で大鎌をぐるぐると回転させていた。

「雨霧に出でたる黒色鎧の騎士に御首なし。その無き目が向くは閑々たる葬式参列よ……。」

 回転させる大鎌に徐々に葡萄色のエネルギーがまとわりついていき。

「私の本気はこんな物じゃないけど、その片鱗くらいは受け取ってよね!」

 武器を扱う能力者にとってのいわゆる必殺技、伝承や伝説に登場する武器たちの力を模倣した、『神器』を放つ。

「唸り閃け! 我が神器、≪デスサイズ≫!」

 巨大化した葡萄色の刃が、足下ふらつく忍に襲いかかる。そんな状態で躱せるわけもなく、忍は炎を纏った腕でそれを防いだ――が。

「ぐぅ……っ!」

 耐えきれなくなり、刃ごと床にたたきつけられ、動かなくなった。透過防護壁が消え、忍は目を覚ました。

「う……。手加減しすぎた。」

「はは、ざまないネ!」

 忍はふらふらと壁に近寄り、将真からスポーツドリンクを受け取る。一息に飲み干すと、希と桜の決闘を見ることにした。しかし、ふいに、頭痛が襲う。

「いて……。」

「どないした、さっきのサクラちゃんの一撃が堪えよったか?」

「いや、わからん。」

「主。安静。推奨。」

「そうだな。先に帰らせてもらうわ。トドロキ――。マレを頼んだ・・・・・・。」

「おう、任されたで。」

 そのまま、忍は頭を抱えながらトレーニングルームをあとにした。


「で、どうして俺はここにいるんだ?」

 霊峰とも呼ぶべき剣山の、八合目に築かれた宮殿の、せり出し舞台。眼下には、幻想的なまでに美しい雲海と、中華風の都が一望できる。

「妾が呼んだのじゃ。」

 その舞台にやってきたのは、紫色の外套を羽織った幼い少女。真紅の髪を巨大な三つ編みに垂らし、たたんだ扇で肩をぽんぽんと叩きながら近づいてくる。

「頭痛の原因はそれか……。」

「さよう、ここはそなたの精神世界。じゃが、だからといってここが現実でないという訳でもないのじゃ。今回は特別――妾の、否、今はそなたの、か。能力の力で簡易式の結界を作ったのよ。ここでなら妾も具現化できるからのう。」

「長々と解説ありがとうよ、それで、何の用だ――。『野蛮の者』の王女。」

 忍は、呼びだした幼女の名を、口にする。

「――シンシャ。」

 幼女は、にぃと笑った。


 忘れてしまった方もいるだろうか。彼ら能力者が、なんのために戦うことを教え込まれているか。それは、異世界から侵攻してくる、異形の怪物――『野蛮の者サヴェッジ』を迎撃するためである。そう、怪物たちは時も場所も選びはしない。人間を食料と考え、この世界を領土と為すため、いつでもやってくる。

「た、たすけてぇっ!」

 希は、その声に振り向いた。

「マレちゃん?」

 聴力が希ほどよくはない桜が首をかしげたが、希はその時には飛び出していた。それを見た氷唯が、将真が、希の後を追っていく。桜も、困惑しながら全力でかけだした。桜が現場に到着すると、そこには巨大な怪物が立ち塞がっていた。

「こいつが『野蛮の者サヴェッジ』ゆう奴らか!」

 将真がそう確認すると、希はうずくまる少女を抱きかかえ(その少女は希よりも遙かに高身長だった)、桜に託す。

「サクラちゃん、おねがい。」

 そして、紫色の炎と共に大剣を取り出し、怪物に向き直る。直後に一閃、横薙ぎに大剣を払うと、怪物は液体状に四散し、消えた。

「姫君!」

 そこに、切羽詰まった表情の氷唯がやってくる。

「生活区! 周辺! 怪物……出現! 多数!」

「わかった。すぐいく。」

 大剣を担ぎ、氷唯について走り去っていく希を見送り、桜は抱えた少女を保健室まで送りに走った。


「そなたは、なぁ、我々のことをどれほど知っておる?」

「どれほど? 人を食ってこっちに攻め込んでくる侵略者だろう。」

「それは、ごく限られた者どもの愚行じゃ。」

「はぁ?」

 シンシャは扇を広げ、眼下に広がる大河と、雲海と、都を指した。

「我々はもとより平和を好む者じゃった。しかし、いつからか。ふむ……二、三千年前頃ほどかのう。この生活に苦言を呈す者が現れ始めた。長き時を生きる我ら知恵持つ『野蛮の者』、そうの、『知恵の者インテル』とでも呼ぼうか。それらは、考え方もゆっくりじゃから、少し遅かったのかもしれんな。異端児の誕生というのは。奴らが都を飛び出し、大河を抜け、山を這い、たどり着いた先はどこじゃと思う、小童。」

「……俺たちの世界か。」

「おや、たまには知恵が回るものよの。」

 呵呵と笑い、また真面目な面持ちになる。

「そう。我らの世界を抜け出すことを考えついたのじゃ。そして、それを王に提言した。しかし、王はすげなく却下。英断じゃ。さすがは我が父。そうしたら。小童、そうしたらどうなったと思う?」

「か、勝手に出て行った、とかか?」

「はは、ならばなんと清々しかったか。違うぞ、小童。彼奴らは国家転覆を企み――そして、成功させたのじゃ。」

 忍は、あっけにとられた。

「その結果王は暗殺され、妾と未だ妾より幼き妹は、国外追放じゃ。しかもそこに人間の調査隊が現れた。妾は妹をかばい捕縛され、研究と称された様々の辛苦を味わい、そして……。」

 涙をたっぷりと浮かべた目で、忍をにらみ据える。恨みと、憎しみの目で。

「そなたの骨肉となったのだ。小童!」


 あらかた片付いた。教師も自宅や実家が近いものからこちらに向かってきているらしい。よかった。ことはけが人も少なく終わりそうだ。そう、誰もが思ったとき。空間がばりばりと音を立てて裂け、また異形の怪物が現れた。とてつもなく巨大な人型のそれは、大きく息を吸い。

「ガオアアァァァァ!!」

 咆哮した。その途端、希の手から、大剣が消えた。周りにいた生徒たちの手からも武器が消え、さらには空を舞っていた者たちの背からは、翼が消えた。

「能力を消した、いうんか……!?」

 将真が驚愕に目を見開き。希が覚悟に歯を食いしばるのと同時に、怪物は動いた。目の前にいる身体強化も失った生徒たちを、腕のひと払いで薙ぎ飛ばしていく。希は、無言で動いた。

「あ、マレちゃん!」

 将真の制止も振り切り、怪物に飛びかかっていく。怪物が彼女に気付き、拳を振り下ろす。それを、体をひねることでいなし、その腕を掴む。

「いいいいいいぃぃぃっっっ、やあああああぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 雄叫びを上げ、自らの身長の三倍以上もの体躯を誇る怪物を、能力を失った体で投げ飛ばす。雑木林の木々をへし折りながら、怪物がごろごろと転がり、止まる。しかしそれは、すぐに立ち上がると、再び吼えた。それは、能力を消すためではなく、純粋な怒りからだと、希にも理解できた。巨体に似合わぬ俊敏さで希に肉薄し、右ストレートを放つ。希は第二男子寮の壁に叩きつけられ、地に伏した。とどめをささんと、怪物が希に歩み寄っていく。が、そこに割って入る者がいた。

「……させへんで。」


 霧に霞み、ぼやける舞台で、忍はシンシャに尋ねた。

「どうして俺を呼んだんだ、それを聞いていなかったぞ。」

「なぁに、旧友の声が聞こえた気がしての。そなたに知ってもらいたかったのじゃ。我らの、本当の姿を。」

「それは……。」

「どうやらこの学び舎に、『野蛮の者』が攻めてきおったようだぞ?」

「なっ……!?」

「これだけは肝に銘じておけ。我々とて一枚岩ではない。『野蛮の者』にも、好戦的な者とそうでない者がおるのじゃ。」

「待ってくれシンシャ! 俺は、それを聞いたからといって、何ができるわけでもないんだぞ!?」

「おうおう、言ってくれるわ。それほどまでに妾の力は信用ならんか。」

 舞台はかき消え、忍は、第三男子寮の玄関前に立っていた。すぐ近くで、獣のような咆哮が聞こえる。忍は、ひとまず能力を解放しようとした。しかし、炎が出ない。

「あれは、猛獣型の『野蛮の者』じゃのう。能力が消されてしまうぞ? しかも再生能力特化の鳴き声であろうな、これは。」

「能力が封じられる? なんだそりゃ、少年漫画のちょい強キャラかよ。」

「はは、たとえがわかりづらいのぅ。仕方なかろう? 我らとて貴様ら人間を殺す気で『野蛮の者』を作り出したのじゃ。能力者が手強いなら、能力者を無能力者にするのみ。単純じゃろ?」

「……単純だな。」

 忍には、聞こえる。彼女の声が。

「で? 俺はどうすればいい。」

「知らぬよ。逃げるか? 立ち向かうか? それはおぬし次第じゃ。」

「……はは、わかりやすい質問だ。」

 忍には、見える。彼女の姿が。

「能力はなくても……俺にはあるんだろ? お前の宝物に触れる資格が。」

「なんとも皮肉なことに……な。どれだけ妾が許可せずとも、おぬしが触れようと思えばそれらは触れられる。それでも妾の許可を待つおぬしは――。」

「俺はそんなに不誠実じゃないって、自負してるからな。」

 たとえそれが、幻聴、幻覚でも。忍には、彼女が笑う姿が、笑い声が、その一言が、聞こえた。


「許可しよう、小童。妾とてここで死にたくはない。折角長らえた命、粗末にしてはたまらぬからのう。」


 将真は殴り続ける。

「くっそがあぁっ!」

 拳から血が流れても、殴り返され、頭を切っても。吹き飛ばされ、骨が折れても。彼から託された使命がある。彼と初めて話したあの日に、彼に頼まれた言葉がある。

「俺は、シノブのやろうがいねぇときは! マレちゃんを……守らなきゃいけねぇ! それだけじゃねぇよ!」

 紫紺の怪物に殴られ、蹴られ、吹き飛ばされ、脳を揺すられ、体中が悲鳴を上げても、腕を振り続けた。

「男ってのはなぁ、ヒーローに憧れるもんだ! 俺は憧れた! ウチの生徒共が腰抜けなら……五王会も、先公共もいねぇってんなら、俺は、ヒーローにならなきゃいけねぇ! ヒーローってのは、どれだけ周りが怯えていても、立ち向かうもんだからだ!」

 だが、将真だって、ひとりの人間だ。臓腑が潰れ、骨がひしゃげ、肉が裂ければ倒れる。しかし、異形の怪物は、未だに余裕だった。その怪物の拳が、倒れた将真に襲いかかる。――しかし、その拳が彼の頭に直撃することはなかった。

「……やっぱお前は最高だよ、トドロキ。お前を親友にして良かった。……ありがとうな。」

 その拳は、弾けていた。紫紺の液体となって、飛散していた。少年の、一発の右ストレートで。

「し、シノブ……?」

「おっと、宣誓がまだだったな。――咲き誇れ、其が神器、≪白蓮≫!」

 地に倒れる希を一瞥し、忍は、怪物が拳を再生させるのを見届けてから、炎でできた花弁を散らし、怪物に突っ込んでいった。それは、まるで能力を解放しているかのような速度だった。懐に入り込み、再度右フック。体に大穴を開けながら、怪物が吹き飛ぶ。

「いいか。ヒーローってのは、正義の体現だ。でもな、世の中にはダークヒーローっていう類いのヒーローもいるのさ。そういう奴らってな、大抵ヒーローより強いんだ。」

 再生する暇も与えず、何度もその胴体を蹴りつける。

「グルアアアァァァッッ!!」

 怪物が吼え、傷が瞬時に再生する。

『小童! 『野蛮の者』が異常事態対応状態になった! 気をつけるのじゃ!』

「どうでもいいっ!――焼き払え、其が神器……≪天叢雲剣≫! 俺は、こいつを――っ! 導き祓え、其が神器、≪布都御霊剣≫!」

 忍の両手に、炎の双剣が出現する。

「うううぅぅあああぁぁ!!!」

 高速で連撃を繰り出し、そのたびに再生する怪物を睨み、その拳を一瞥する。そして、それが動いた瞬間。

「悟り睨め! 其が神器、≪天眼≫!」

 拳を正確に見きり、躱し、剣をその肩に突き立てる。引き抜き、振るい、振るい、振るう。

「っ、がああぁぁ!!」

「グオオアアアア!!」

 上空へ蹴り飛ばし、握った双剣を投げつける。それは怪物の眼(?)に突き刺さり、怪物は宙で苦痛の叫びを上げた。

「灼き穿て! 其が神器、≪火尖槍≫!」

 炎で槍を生み出し、投擲。命中。

「垂らし創れ! 其が神器、≪天沼矛≫!」

 矛を生み出し、投擲。命中。

「俺の! 大事な女性ひとと! 大事な親友と! 今の俺を認めてくれた仲間たちに! 手ぇ出してんじゃ! ねぇぞっ!」

 地がえぐれるほど力を込めた跳躍で、怪物の元まで飛び上がる。

「哀れみ追え! 其が神器、≪干将・莫耶≫!」

 またも造りの違う双剣を生み出し、連撃を放ってから、怪物の腰に突き立てる。

「縛り阻め! 其が神器、≪グレイプニル≫!」

 どこからか現れた炎の鎖で怪物は締め上げられ。

「打ち据えろ! 其が神器! ≪如意棒≫!」

 炎の棍棒で何度もたたき。

「殺め仕留めろ! 其が神器! ≪ゲイ・アイフェ≫!」

 その心臓を槍で突き貫いた。怪物が鎖の呪縛から解き放たれた時には、既に怪物は爆散し、再生することはなかった。


 教師陣が学校に到着したとき、ことは全て片付いていた。忍は力を使い果たし、その場にしゃがみ込んでしまった。希と将真は氷唯によって保健室に運ばれ、様子を見に来た桜も、それを手伝ってまた校舎の方へ去ってしまった。何をするでもなく、息を荒げる忍の肩に、ぽんと何かが当たった。それは、その場から去って行く名も知らぬ生徒の平手だった。ぽん、ぽんと、次々に生徒たちが忍の肩を叩き、去って行く。忍は、全員がこの場からいなくなったのを確認し、尻餅をついた。

「コレで良かったのか……?」

「知らんよ。」

 最後にそう聞こえた気がしたが、それこそその声はひどく幻聴のようだった。ふと、忍は気配を感じて、頭だけ後ろを見た。

「おつかれさまです、センパイ。」

 伊予理だった。

「ナイスファイトでした。本当に。お疲れ様でした。私はただ見るだけでしたが、あなたはとても、とても――かっこよかったです。あなたは、本当に、人を殺めてしまったのでしょうか?」

「……殺したよ。」

 遠くの海岸線、こちらに近づいてくるボートを睨みながら、忍はもう一度、笑顔で言った。

「殺したよ。」

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