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あゝ憎むべき紅炎の騎士  作者: 和泉キョーカ
校内大会編
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12/24

従者の従者

 雑兵祭が終了し、勉学に励む忍を、謎の視線が追いかける。なんとその正体は、忍びのような姿をした少女、冬竹氷唯だった。彼女は、忍に対して言ってはいけないあの一言を放ってしまう――。

「御仁。大丈夫?」

「あぁ。平気だ。吐くことに関しちゃプロだからな。」

 おろおろとしている氷唯に、忍は手を振って安全を示した。

「依然。顔面。蒼白。」

「だぁから、大丈夫だっての。」

 自分に責任を感じているのか、しゅんとしている氷唯は、先程から縄で縛られた状態だが、何かがしたそうにもぞもぞと動いていた。

「……まさか。」

 桜が冷や汗を垂らしながら氷唯に目線で質問を投げかける。氷唯はこくりと頷くと一言、

「尿意。」

 と言い放った。


「すっきり。」

「ちゃんと喋ってほしいもんだな……。お前の……ご主人? ってのは、いねぇのか?」

 ハンカチで手を拭きながら戻ってきて、ちゃぶ台の前に正座した氷唯は、膝をそろえ、太股の上に手を置き、背筋を正して忍と向き合った。

「……そのことだが。」

「おい、自分の声で喋ることを禁止されてるからってトドロキの声で喋るんじゃねぇ。ややこしい。というかどうしてトドロキの声を知ってるんだ。」

「私は、里を出るに当たり、師匠から主人を見つけることを言い渡されている。それは自らの直感で見つけるもの……とは言われたが。私には里を出て七年、見つけることができなかった。しかし――。」

 忍の諫言も無視し、氷唯は将真の声のまま続けた。

「私は……見つけたんだ。我が主となるべき人を。」

「じゃあ、そいつについてきゃいいだろ。」

「うむ。そうさせてもらう。では、よろしく頼むぞ、主。」

「ん――ん?」

 忍は、氷唯の言葉をを話半分で聞いていたが、ふいにきょとんとし、氷唯に聞き直した。

「……なんて言った?」

「よろしく頼むぞ、主。」

 依然将真の声のまま、無表情で繰り返す。

「え? え、いや、……なんで?」

「説明。必要?」

「必要じゃないっていう理由がねぇな!」

 心底仰天した顔の忍に、さも当たり前といった言い方だった氷唯の術も解け、先程までの片言に戻る。

「ふ、ふむ……。それは意外だな。仕方があるまい。説明をするとしよう。うぅむ。これを親友殿の声で語るのもはばかられるな。よし、こうしよう。妹殿。翻訳を任せた。」

「え、私!?」

 突然の任命に、桜は戸惑うが、そんなことはお構いなしに忍を主とせんがための説明を始めた。以下、桜による翻訳つきでどうぞ。


 私は五年前、かの大事件に居合わせていた。そして、持ち前の正義感と良心が、灼熱の炎に巻かれる人々を見て、助けなければと思った。しかし、まだ十二歳だった私にとって、燃えさかる炎の中を突き進み、大人を抱えて戻ることは困難だった。だが、このままでは何人もの人が死んでしまう。と、そう感じたとき、私はひとりの子供の影を見つけた。私と同年代と言った体格のその子は、ふらふらと歩きながら、とにかく見つけた人を持ち上げ、窓の外から川へ放り投げていた。それを見た私は、泣き言を言っている場合じゃない――そう思い、奮起し、結果、計五十四人も救えた。


「英雄。手本。師範。拙者。目標。その。子。」

「確かにそれは俺だな……。」

「お兄ちゃんが私を川に突き飛ばした後の話?」

「あぁ……。」

 忍は困惑した。自分は人殺しだ。現実から目を背けても、それは変わらない。人々に多大な迷惑をかけた。人々から恨まれるべき立場なのに――なのに、目標にされ、なおかつ主と仰がせてほしいと言われている? 自分はただひとりでも多く自分のせいで死ぬ人を減らして、罪の意識から逃れようとしていただけなのに。

「でも……。」

「懇願。志願。至願。お願いします。」

 ぺこりと頭を下げる氷唯。忍は訳がわからなくなって、反射的に隣でじっとしている希を見た。

「……。」

 希は、無言で肘を忍の腹に決めた。それの意味を理解し。

「……はぁ。わかったよ。これからよろしくな。俺の忍びさん。」

「やった♪」

 不覚にも、素直に喜ぶ氷唯を見て、忍はかわいいと思ってしまった。しかし――と、忍は。

(こいつ、なんの能力者なんだろうな? ひとまずさっきの過去語りとマフラーでタメってことはわかるが。)

『うへへ、センパイ、今、何色のパンツはいてます? 当てましょうか? 赤色ですね?』

「よし、お前今すぐ俺の部屋来い。のす。そして何さらっと当ててるんだ。」

『きゃ♡ センパイのお部屋に夜の訪問! これは何かしらのイベントが、』

「主。女声。御仁。誰何。」

 何故かタイミング良くやってくる伊予理からの通信に、氷唯は首をかしげ、桜は苦笑いしながら紅茶を飲み、希は相変わらず無言でじっとしていた。

『……なんですか誰ですか今のカワイイ声は。センパイ妾でも取りましたか。』

「取るとしてもまずお前は正妻じゃねぇ。」

『な!何故私がセンパイの正妻であると勝手に妄想していたことがばれました!?』

「……とにかくすぐ来い。」


 伊予理を入れて計五人が囲むにしてはちゃぶ台は狭すぎるので、忍と希は二段ベッドの下段、忍のベッドの上に座った。

「フユタケヒイ。なんともかわいい名前ですねぇ。」

 伊予理は眼鏡のフレームを軽く叩き、能力を発動させると、氷唯を『視て』、分析し始めた。いきなり名前を言い当てられ、びくりと身をすくめる氷唯に、忍は忠告した。

「こいつに視られたら、大抵の個人情報は暴かれると思いな。」

「……了解。主。言。拙者。我慢。」

 そう言って口をつぐんだ氷唯のかわりに、伊予理が氷唯の能力を発表した。

「彼女はヤモリの能力者です。能力詳細は『吸着』、『自己切断』、『自己再生』、『高速移動』ですね。わぁ、NINJA。」

 えっふん、と口をつぐんだままドヤ顔で胸をはる氷唯。

「ん、でも……おかしいですね、能力の欄が、消えたり現れたりしています。」

「はぁ? どういうことだ、ヒイ?」

 そう言っても、氷唯は口をつぐんだまま、うつむいて黙ってしまった。


 桜と氷唯が女子寮に帰り、伊予理も第三予備棟へ戻ったことを見届けると、忍はずっと黙りこくったまま動かない希に声をかけた。

「どうしたマレ? 怒っているのか?」

「……ちがう。」

「なら、どうしたって言うんだよ。」

「……スケコマシ。女たらし。好色漢。」

「怒ってるじゃんかよ。」

 希が座るベッドの上に上がり、希の隣に落ち着き、希を慰めようと努める。

「じゃあ、なんだ。マレは俺が好き好んで女仲間ばっか作っていると思っているのか? たまたまだよ、たまたま。」

「シノブは……私だけ、かまってれば、いいの……。シノブは……誰の、ナイトなの? ナイトの勤めは、お姫様のお世話。」

 それはお世話係の仕事な気が、という言葉は、喉の奥に呑み込んだ。

「俺、一応自他共に認めるかなりの硬派なんだけど。」

「……とにかく。かまって。甘やかして。お世話して。」

『やっべ、これめちゃくちゃ良いシチュじゃ……しまった音声が。』

 一瞬、ウォッチバンドから伊予理の声が漏れた。忍は明日、彼女にヘッドロックをかけることを決意しながらウォッチバンドを外し、ちゃぶ台の上に放った。

「……はい、じゃあ何すれば良い?」

「髪すいて。」

 忍は言われるがまま、希のセミショートの銀髪に櫛を通した。

「次は?」

「靴下脱がせて。」

 忍は言われるがまま、希が履いていた白い靴下を脱がせた。

「はい、次は?」

「一緒に寝て。」

「……りょーかい。」

 忍は言われるがまま、部屋の照明を消し、希の隣で布団を被った。忍の首に腕を回し、ぴったりと寄り添って眠る希の表情は、とてもご満悦そうだった。

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