氷の死神、限界オタクの愛に敗北して激重スパダリへ変貌する
よろしくお願いします!
「アシュリー。今日こそ、その『おす』という謎の儀式について、明確な答えを貰おう」
公爵邸の最上階にある、全面ガラス張りの美しい空中庭園。
夕日がプラチナブロンドの髪をオレンジ色に染める中、私は対面に座るレナード閣下に、じっとサファイアブルーの瞳で見つめられていた。
同居が始まってから、早いもので3ヶ月。
新月の夜の魔力暴走は、私が「ちょっとハグさせてください、吸う空気が尊いので」とダイブする毎月の定期調律によって、今や完全にゼロ。顔色の悪かったレナード様は、毎日驚くほど健康で、ますますその顔面国宝ぶりに磨きがかかっていた。
だが、健康になった推しは、最近やたらと距離感がバグっている。
「ですから閣下、何度も申し上げている通り、『推す』というのは、見返りを求めず、ただあなたの存在に感謝し、遠くから(実際は隣室だけど)幸せを願う、聖なる活動のことでして……」
「見返りを求めない、だと? ならば聞くが、なぜお前は俺が他の令嬢と一言二言言葉を交わしただけで、物陰から『解釈違いですわ……レナード様は女嫌いの孤高の氷属性だからこそ輝くのに……あの令嬢、公式設定を壊す気かしら……』と、呪いの怨霊のような目でこちらを睨みつけるのだ」
「それは公式のキャラクター造形に対するオタクとしてのこだわりでありまして……!」
「あと、俺の脱ぎ捨てた軍服を、なぜ使用人に洗わせずにお前が回収しようとする。ギルバートから『アシュリー嬢が閣下の衣類をクローゼットから密輸しようとしていました』と泣きつかれたぞ」
「それはその、ちょっと布地から摂取できる成分がありまして……!」
ヤバい。
完全に日頃のストーカー……ゲホン、推し活の職権乱用がバレている。
やっぱりゲームを50周もして、彼の「朝は低血圧で可愛い」とか「実は甘いものが好き」とかいう裏設定を完璧に先回りして甘やかしまくったのが仇となったか。
冷酷無比だったはずの氷の死神は、いまや私に対して、呆れと、それを遥かに上回る『何か』を孕んだ瞳を向けてくる。
「アシュリー。お前は俺を『絶対に死なせないビジネスパートナー』と言ったな」
レナード様がゆっくりと立ち上がり、長い足を組んでいたのを解いて、私の方へと歩み寄ってくる。
上質な漆黒の軍服が、夕日に映えて恐ろしいほど絵になる。相変わらず立ち姿だけで5兆点満点だ。
「は、はい。そのつもりですが……」
「俺は、ビジネスパートナーを自分の寝室の隣に置き続ける趣味はない。ましてや、自分の命を、心を、ここまで狂わせた女を、ただの『ファン』などという都合の良い席に座らせておくつもりも、毛頭ない」
気づけば、レナード様は私の目の前に立ち、その大きな影で私をすっぽりと包み込んでいた。
逃げられない。
彼の手が、私の頬にそっと触れる。凍りつくようだったあの手が、今は驚くほど熱い。
「お前が俺のすべてを知っていると言うのなら、知っているはずだ。俺が一度執着したものを、決して手放さない男だということを」
至近距離。
サファイアブルーの瞳の奥に、ゲームのバッドエンド時以上の、いや、それとは全く違う『愛という名の狂気的な独占欲』がギラリと灯る。
あ、これ、隠しボスの本気モード(溺愛版)のやつだ。
「アシュリー。俺の『専属魔力管理官』の契約を、生涯のものへ更新する。……俺の妻になれ」
「――ッ!!??(本日最大の限界突破)」
耳元で囁かれた、低く甘い、完全なるプロポーズ。
ちょっと待って! 立ち絵の差分どころか、これ、ファンディスクの完全限定版の予約特典ドラマCDでも聴けないレベルの国宝ボイスなんですけど!!
「拒否権は認めない。お前が俺の破滅をへし折ったのだから、その後の俺の人生、お前が責任を持ってすべて愛で尽くせ」
フッと、いたずらに笑うレナード様。
その顔があまりにも美しすぎて、私の脳内サイリウムはすべて過負荷で爆発四散した。
「……喜んで、お受けいたしますわ、マイプリンス……」
私が真っ赤になって俯くと、レナード様は満足そうに私を強く、壊れるほど抱きしめたのだった。
こうして、国外追放された悪役令嬢は、最推しのスパダリ公爵に「生涯逃げられない囲い込み」をされ、名実ともに世界の勝者となったのである。
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