推しの行動力、カンストしててオタクの心臓が持ちません
是非読んでくださるとありがたいです!!
「お嬢様!大変です、本当に大変です!!ちょっと一回落ち着いて座ってください、私が落ち着かないので!!」
翌朝、ホテルのスウィートルーム。
いつもなら髪の毛一本乱さない鉄のメイド・アンナが、銀トレイをガタガタと激しくシェイクしながら部屋に突っ込んできた。おいおい、せっかくの最高級クロワッサンが振動で粉々になっちゃうじゃん。
「どうしたのよアンナ、そんなに震えちゃって。昨日食べたホテルの朝食が美味しすぎて、全米が泣いた系の感動?」
「そんな呑気な話じゃありません!これを見てください、これ!!」
アンナが必死の形相で差し出してきたトレイの上。
そこに鎮座していたのは、見覚えがありすぎる漆黒の高級紙。そして、鮮やかな銀色でバチコーンと押されたあの紋章。
昨日、生で拝んで全細胞がスタンディングオベーションした、ガルディニア帝国最高峰の権力――『ガルディニア公爵家』の刻印だった。
「……へ?(素の声)」
変な声出た。
しかも手紙の横には、ご丁寧に商業ギルド統括長エリオットからの殴り書きのメモまで添えられている。
『アシュリー殿、本当にすまない。昨日命を救ってもらった件、レナード公爵に秒で目をつけられて滞在先をソッコーで白状させられた。あの人マジだ。逃げられない。健闘を祈る』
エリオット、吐くのが早すぎる。お前の口の軽さは羽毛かよ。
まあ、相手が『氷の死神』なら、命が惜しくて秒でゲロるのも残当(残念ながら当然)だけど!
恐る恐る手紙を開くと、そこには印刷を疑うレベルで美しく、かつ鋭い筆致でこう記されていた。
『ブラウエル公爵令嬢アシュリー殿
昨日の無礼を詫びるとともに、俺の命を救ってくれたことへ、正式に謝礼を述べたい。
本日15時、我が公爵邸にて待つ。
なお、拒否権は認めない。迎えの馬車を差し向ける。
――レナード・フォン・ガルディニア』
「拒否権は認めない」
ひゃああああああああ!!!公式からの突然の供給!!!
違う、供給どころか直接の呼び出し!?早い、フラグが立つのが爆速すぎるわレナード様!!!
ゲームでのレナード様は、一度ターゲットに定めた獲物に対しては、光の速さで外堀を埋めていく「行動力カンスト型スパダリ」だった。知ってた。知ってたけど、現実の彼はその設定以上に容赦がねぇ。
「お嬢様……昨日、一体何をしてこられたのですか?帝国の死神にロックオンされるなんて、私たちはもう終わりです、おしまいです……」
今にも泡を吹いて倒れそうなアンナの肩を、私はガシッと力強く掴んだ。
「大丈夫よアンナ。落ち着いて。これは終わりじゃない」
「え……?」
「――『神イベント』の開幕よ!!!」
「お嬢様の頭が本格的に心配です……っ!」
◇
15時ジャスト。
ホテルの前に横付けされたのは、帝室御用達レベルの漆黒の最高級魔導馬車だった。
しかも、案内役として直々にやってきたのは、公爵家の副官(ゲーム内でも『胃薬が手放せない苦労人眼鏡キャラ』としてめちゃくちゃ人気の高かった推し)。
推し(副官)に恭しく頭を下げられ、脳内で歓喜のデスボイスを上げながら馬車へと乗り込む。
向かうは帝都の一等地。そびえ立つガルディニア公爵邸。
重厚な大扉が開き、目の眩むような豪華な応接室へと通される。
「――待たせたな」
低く、鼓膜を心地よく、そしてエロく震わせる声とともに、部屋の扉が開いた。
現れたのは、昨日の軍服姿とは一転、私生活を感じさせる上質な漆黒の私服。
しかも、シャツのボタンが少し緩んでいる。
(うっ……!待って、私服グラフィック、生で見ると破壊力が五兆倍どころじゃない、天を衝くレベル……!鎖骨が、鎖骨が眩しすぎて網膜が焼ける……っ!!)
脳内で激しくサイリウムを振り回し、限界オタクの奇声を上げそうになるのを必死に抑え込み、私は完璧なカーテシー(淑女の礼)を決める。表情筋よ、頼むから仕事をしてくれ。
「お招きいただき光栄です、レナード公爵閣下。元ブラウエル公爵令嬢、アシュリーと申します」
「挨拶はいい。座れ」
レナード様は対面のソファに腰掛け、サファイアブルーの瞳でじっと私を射抜くように見つめてきた。その視線の冷たさと、奥にある熱量に、ゾクゾクと全身に鳥肌が立つ。たまらん。
「単刀直入に聞く。アシュリー。お前は、隣国を追放された『悪役令嬢』だな?」
「あら、お調べが早くて助かりますわ」
「エリオットの奇病を治し、俺の魔力暴走のタイミングを正確に予期し、さらには帝国の誰も知らない『俺の暴走を鎮める特殊な魔力』を持っていた。……お前は、一体何者だ。俺を暗殺しようとした組織の裏切り者か?それとも、俺の予言者気取りか?」
一歩間違えれば物理的に首が飛ぶ、超シリアスな尋問。
だが、ゲームを50周してセリフを全暗記しているガチ勢の私には、彼の心理が手に取るようにわかる。
彼は警戒しているんじゃない。
あまりにも完璧に自分を救い、理解してくれる「運命のような存在」が目の前に突然現れたことに恐怖し、同時に、狂おしいほど執着し始めているのだ。あー、最高。美味しい。
私はふっと微笑み、目の前の紅茶(たぶん最高級のやつ)を一口含んで、喉を潤した。
「レナード閣下。私はあなたの敵ではありませんわ。ただの……あなたの『すべて』を知る者、とでも言っておきましょうか」
「すべて、だと?」
レナード様が不機嫌そうに、だけど興味を隠しきれない様子で眉をひそめる。
「ええ。例えば、閣下が幼少期、地下の暗室に閉じ込められていた過去。そのせいで、今でも狭く暗い場所が少し苦手なこと。そして……閣下の魔力暴走は、数年後にこの国を襲う『魔力枯渇の厄災』の前兆であること。――違いますかしら?」
レナード様の目が、かつてないほど激しく見開かれた。
部屋の温度が、彼の驚愕とともに一瞬で凍りつくように下がる。
これらは、ゲームのレナード個別ルートの終盤、好感度がMAXになってようやく明かされる、超一級の機密情報(裏設定)だ。それを序盤でぶっ放す快感よ。
「お前……なぜ、それを……っ!」
ガタッと音を立てて立ち上がり、レナード様が肉食獣のような足取りで私に歩み寄る。
そして、私の座るソファの背に両手を突き、私を完全にロックするように、至近距離まで顔を近づけてきた。
(ひゃああああああああ!!!リアル壁ドン!!!いや、ソファドン!!!距離が、距離がゼロ距離です!!世界、ありがとう!!!)
「言え。お前は何のために、俺の前に現れた」
冷たい息がかかるほどの距離。彼の瞳に、狂気的なまでの独占欲の炎が灯っている。
私はその国宝級の美しい顔を見つめ、満面の笑み(限界オタクスマイル)でこう言い放った。
「決まっていますわ。――あなたを破滅から救い、全力で『推す』ためです!」
「……は?お、推す……?」
冷酷無比な氷の死神が、人生で初めて聞いたであろう未知の単語に、完全にフリーズした。
アシュリーの強制溺愛(攻略)ルート。
どうやら、イージーモードを超えて、最初からクライマックスで開幕してしまったようです。
次回は6時に投稿たいと思います!!
次も読んでください!!




