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3/8

氷の死神(推し)のエンカウント率、100%の男です

読んでください!!

帝都の超高級ホテル『グランド・ルミナス』。

ふかふかのベッド、輝くクリスタルのシャンデリア。ブラウエル公爵家の慰謝料(軍資金)の破壊力は凄まじく、私たちは最高級のスウィートルームに陣取っていた。


「お嬢様、こちらが本日分の帝都のタウン誌と、ご指定のあった『魔力動向レポート』です」


「ありがとう、アンナ。本当に助かるわ」


有能すぎるメイドから資料を受け取り、私はベッドの上で優雅に(実際は推しのスケジュール帳を前にして必死の形相で)ペンを走らせる。


(ええと、ゲームのタイムラインが正しければ、今日、レナード様は帝都の南区にある『裏通りの骨董品店』でお忍びの視察をしているはず……!)


ゲームの共通ルート第3章。隠しボスであるレナード公爵の最初の遭遇(エンカウント)イベント。

そこで彼は、呪われた魔道具の暴走に巻き込まれ、冷酷に敵を排除しつつも、自身の魔力暴走に苦しむことになる。そのイベントスチル(一枚絵)のレナード様の、苦悶に満ちた表情と、乱れた前髪から覗く切れ長の瞳の美しさといったら、画面が割れるほどスクリーンショットを撮ったものである。


(あの国宝級の神スチルを、今度は3D、いや、生(ライブ)で拝めるのね……!? 待って、心の準備が。でも、尊すぎて消滅する前に、推しのピンチを救わなきゃ!)


「アンナ! ちょっとお散歩に行ってくるわ!」


「はい!? お嬢様、今からですか? 私もお供を――」 


「いいの、これは『極秘の聖地巡礼(推し活)』だから! すぐ戻るわ!」


困惑するアンナを置いて、私は動きやすい上品なドレスに身を包み、解毒薬と魔力安定のスクロール(巻物)を鞄に詰め込んでホテルを飛び出した。

ガタゴトと辻馬車に揺られ、やってきたのは帝都の片隅。

お高くとまった貴族街とは違い、少し薄暗く、歴史を感じさせる石畳の街並み。


(ここよ……! 背景グラフィックの再現度が完璧すぎる。この先の路地を右に曲がって、3件目の骨董品店の前で……)


ドゴォォォン!!!


「ひゃあ!?」


突然、鼓膜を震わせる爆発音と、肌を刺すような冷たい魔力の波動が路地の奥から吹き抜けた。

周囲の通行人たちが「な、なんだ!?」「魔物の襲撃か!?」と悲鳴を上げて逃げ惑う中、私は一人、歓喜に震えていた。


(始まったわ……! 予定通り、イベントの発生よ!!)


私はスカートを翻し、爆発の発生源へと猛ダッシュした。普通の令嬢なら絶対に逃げ出す場面だが、50周したガチ勢にとっては「イベント開始のファンファーレ」に過ぎない。

路地を曲がると、そこは文字通りの修羅場だった。

崩れ落ちた骨董品店の前で、数人の不審な男たちが氷漬けになって転がっている。

そしてその中心に、その人はいた。

漆黒の軍服をまとい、夜の闇を溶かしたような艶やかな黒髪。そして、見る者を凍りつかせるほど冷徹で、妖艶な、深いサファイアブルーの瞳。

ガルディニア帝国の若き重鎮にして、私の最推し――レナード・フォン・ガルディニア公爵。


(う、美しすぎる……! 顔面国宝! 動いてる! 息をしてる! 陰鬱なオーラが最高に捗る……っ!!)


生レナード様の破壊力に、私の脳内サイリウムが激しく激振(オタ芸)を始めたが、現実は甘くない。

レナード様は、左手で自身の胸元を強く押さえ、荒い息を吐いていた。その周囲の空気が、彼の制御を失った魔力によってパリパリと凍りついている。 


「くそ……、呪いの魔道具の仕込みか。この程度で、俺が……」


限界寸前の、苦しげな低音ボイス。耳が幸せすぎて気絶しそうだが、ここがガチ勢の踏ん張りどころだ。このまま放置すると、彼は魔力暴走の反動で数日間寝込むことになり、その後の個別ルートの好感度上げに支障が出る(※出ません、これは現実です)。


「そこのお方! 動かないでくださいまし!」


私は鞄から、エリオットから譲り受けた特級の『魔力収束のスクロール』を取り出し、迷わずレナード様に向けて展開した。 


「……っ!? 誰だ、来るな……!」


レナード様が鋭い視線で私を睨みつける。その目殺傷力高すぎ! と心の中で絶叫しつつ、私は呪文を唱え、彼の周囲の暴走魔力をスクロールへと吸い込ませた。

さらに、素早く駆け寄ると、膝をついて彼の手をそっと握る。


「不躾を許しください。これを飲むと、少し楽になりますわ」


私は、自作の魔力安定薬(エリオットのギルドで特注したもの)の小瓶を彼の唇に押し当てた。

普通なら「怪しい!」と撥ね退けられるところだが、私の手から伝わる温かい魔力(ゲーム設定:アシュリーは実は超希少な『聖なる治癒魔力』の持ち主。カイル王子は気づかなかったアホ)が、彼の荒れ狂う魔力を急速に鎮めていく。

レナード様は驚いたように目を見開き、抗うことなく薬を飲み干した。

数秒後。

路地に立ち込めていた冷気が完全に消え去り、レナード様の呼吸が劇的に落ち着いていく。


「……落ち着いた、のか? 俺の魔力暴走が、こんなに簡単に……」


レナード様は、自身の両手を見つめ、それから、未だに彼の手を握りしめている私へと視線を移した。

至近距離で交わる、サファイアブルーの瞳。


「……お前は、一体何者だ。俺のスケジュールを知っていたかのようなタイミング。それに、この妙な魔力……。暗殺者の仲間か?」


低く、地を這うような冷徹な声。

だが、全ルートをコンプリートした私には分かる。彼の目は疑っているのではない。自分を救ってくれた「未知の存在」に対して、強烈な、狂気的なまでの『興味』を抱き始めているのだ。

これぞ、スパダリ隠しボスが、沼に落ちる瞬間のファーストステップ!

私は、人生で最も美しい、そして最高に不敵な淑女の笑みを浮かべて、彼の真白な手袋の手に、そっとリップサービス(おまけ)のキスを落とした。


「ただの通りすがりのオタ……いえ、ビジネスパートナーですわ、レナード公爵閣下。いずれまた、正式にお会いいたしましょう。どうぞ、お体に気をつけて」


「待て……!」


レナード様が引き止める声を背に、私はシャキーンと立ち上がり、第1話の夜会さながらの華麗な足取りで、颯爽と路地の闇へと消えたのだった。


(ひゃああああ! 手、握っちゃった! 喋っちゃった! 完全に認知されたわ!!)


路地を出た瞬間、壁に背中を預けてズブズブと崩れ落ちる私。

こうして、限界オタクによる、推しの破滅フラグ粉砕(兼・強制溺愛ルート攻略)作戦が、本格的に幕を開けたのだった。

読んでいただきありがとうございました!

次回も読んでくださるとありがとうございます!!

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