限界オタク、ガルディニア帝国へ。国境越えすらも聖地巡礼です
よければ読んでくださるとありがたいです!!
「見てご覧なさい、あの広大な青空を! そして、あの禍々しくも美しい、黒鉄の城壁を! 素晴らしいわ……! ゲームのグラフィックそのもの、いえ、それ以上の重厚感……っ!!なんて素晴らしいのっ……!?緊張しますわっ!!」
「はあ……。お嬢様、先ほどから何をそんなに興奮されているのですか?」
ガタゴトと揺れる馬車の中、呆れたような声を上げたのは、我が公爵家の専属メイド・アンナだった。
彼女は、私が王宮の夜会でカイル王子から国外追放を言い渡された際、「アシュリーお嬢様がそんなことをするはずがありません! 私はどこまでもお供します!」と、泣きながら荷物をまとめてついてきてくれた、超絶有能かつ忠義の塊のような少女である。
ちなみに、私の実家であるブラウエル公爵家は、アホ王子の国庫横領の証拠(私が裏で実家に匿名リークした)を盾に、王室から天文学的な額の「手切れ金(慰謝料)」をむしり取ることに成功していた。
おかげで、国外追放という名のこの旅は、特注の高級馬車に、大量の路銀、そして信頼できるメイド付きという、ただの最高級豪華旅行と化している。
「いい、アンナ? あれが私たちがこれから入国する『ガルディニア帝国』の国境よ。ゲーム……コホン、歴史書によれば、あの城壁は数百年前の魔王軍の侵攻を防ぐために建てられた、生ける伝説の建造物。そしてあの美しい見た目っ!!つまり、私にとっては聖地中の聖地なの!!」
「せ、せいち……? よく分かりませんが、お嬢様が元気そうで何よりです」
アンナはそう言って、やれやれと肩をすくめた。
無理もない。婚約破棄されて国を追われたはずの主人が、ショックを受けるどころか、国境に近づくにつれて目がキラキラと輝き出し、今や鼻息も荒く馬車の窓に張り付いているのだから。頭がおかしくなったと思われても仕方がない。
だが、ガチ勢オタクを舐めてもらっては困る。
私の目的は、このガルディニア帝国の首都に邸宅を構える、最推し・レナード公爵に会うこと。
ゲームにおけるレナード公爵は、戦場での冷酷な戦いぶりから『氷の死神』と恐れられる帝国の若き重鎮。しかしその実態は、幼少期の孤独から心を閉ざしているだけで、一度懐に入れた相手には異常なまでの執着と独占欲を見せる、最高最高アンド最高のスパダリ隠しボスなのだ。
(待っててね、レナード様……っ! 50周のうち45周を捧げた女が、今そちらに向かっていますからね……!)
馬車は順調に進み、ついに帝国の国境検問所へと差し掛かった。
通常、他国を追放された身の悪役令嬢が帝国の関所を通過するのは骨が折れる。カイル王子が嫌がらせで、私の悪評を各国に流している可能性が大いにあるからだ。
だが、そこは50周プレイしたガチ勢。対策は完璧だった。
「次の方、身分証と入国許可証を」
鎧に身を包んだ帝国の屈強な門番が、鋭い視線で馬車の中を覗き込んでくる。
私は、用意していた公爵家の刻印入りの書類と、あらかじめ『裏ルート』を使って手配しておいた、特別な紹介状を差し出した。
「ブラウエル公爵家令嬢、アシュリーです。こちらは、帝国の『商業ギルド統括長』からの直筆の推薦状となっておりますわ」
門番が書類を受け取り、目を通した瞬間、その目が驚愕に見開かれた。
「なっ……! ギルド統括長、エリオット様のサイン!? 本物か……!?」
「ええ。嘘だと思うなら、そこの通信魔道具でギルド本部に確認を取っていただいても構いません。私はこれから、帝国で新たな事業を始めるビジネスパートナーとして、エリオット様に招かれた身ですので」
私は完璧な淑女の微笑みを浮かべる。
そう。ゲームのサブイベントで、裏ルートの金策キャラとして登場するエリオット。彼が数日後に『原因不明の奇病』で倒れ、商業ギルドが一時大混乱に陥るイベントを、私は知っていた。
だから出国直後、私はエリオット宛てに「あなたの病気は、普段愛用しているお香の成分と、特定のハーブティーの飲み合わせによる魔力中毒です。今すぐお香の使用を止め、この薬草を煎じて飲みなさい」と、詳細な治療法を記した手紙を(念のため効き目の早い解毒薬を同封して)送っておいたのだ。
結果はご覧の通り。一命を取り留め、劇的に回復したエリオットから、「命の恩人よ、我がギルドはあなたを全力で歓迎する」という、超特大のバックアップ(推薦状)をゲットしたわけである。
ゲームの知識をフル活用したチート行為? 違います、これは「推し活のための、合法的な事前準備」です。
「し、失礼いたしました、アシュリーお嬢様! 書類に不備はありません。ガルディニア帝国へ、ようこそおいでくださいました!」
門番がガチガチに緊張しながら、最敬礼で道を空ける。
「ありがとう。良い旅になりそうだわ」
私は優雅に一礼し、馬車を発進させた。
ガタゴトと、馬車が帝国の領土へと進んでいく。
「お嬢様……いつの間に、帝国の重鎮とそんな繋がりを……?」
アンナが完全に引いた目で私を見つめている。
「ふふ、オタクの行動力を侮ってはダメよ、アンナ。さあ、まずは帝都の高級ホテルへ向かいましょう。そこで旅の疲れを癒したら……」
私は、胸ポケットに忍ばせた、レナード公爵の行動スケジュール(ゲームのイベントカレンダーから逆算した、完璧なストーキング……ゲホン、予測データ)にそっと触れた。
「いよいよ、私の最推しに会いに行くわよ!」
アホ王子と腹黒聖女に奪われた(ぶっちゃけいらない)平穏な日常。
代わりに手に入れたのは、推しと紡ぐ(予定の)最高のご褒美ライフ!
待ってなさい帝都、限界オタクの進撃はここからよ!
読んでいただきありがとうございました!
最近寒いですね!
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