教え導き踏み台となれば本望
「そんじゃ、これはお前にやろう! そろそろ自由時間も終わりだから俺は職務に戻る!」
そんなことを宣いながら、ゼンカン氏は先程磨き終えたガラス玉の宝石を気安く手渡してきた。
俺は慌てて両手で受け止める。
「おっ、わっ、ちょっえ!?」
「がっはっは! そんなん大したもんでもないだろう!」
とは言うが、どうみても大したものだ。そりゃ元はガラス玉だし、美術的価値なんてわかりもしないけど、目の前で俺の為に作られたというだけで価値を見出せる。
「や、すっごく嬉しい! ありがとう師匠!」
「おいおい、師匠ってな。俺のはあくまで趣味なんだが……それにお前、剣の講習ん時はそんな殊勝なこと言わなかったじゃねぇか」
まぁ……なんていうか、制度で教えて貰うのと好意で教えてもらうのってなんか違うよな。大したロジックもなく、気持ちの問題ではあるが。
「研磨の仕方も教えて貰ったし、こんな良いものも貰ったし……貰いっぱなしで返せるものも思い浮かばないけど、感謝してるのは本当だ。ありがとう!」
「おう、教えたことを活かしてお前だけの作品を作ってみろ!」
俺だけの作品……! その言葉になんだか薄っすらと憧憬を覚える。まだガイド通りの作品すら作れていないのでその時はまだまだ先だが。
「うす、師匠!」
「だから師匠じゃ……いや、まぁいい。そうさな……では、一番弟子に頼みがある!」
「一番弟子……俺に?」
なんだろう、討伐か採集か。テンション上がってる今ならなんでも安請け合いしそうだ。
「師が弟子にして貰って最も嬉しいことはわかるか?」
「えー……尊敬して貰うこと?」
「それも嬉しいに違いないが、多くの師が尊敬よりも望んでいることがある!」
なんだろう。思いつかず考えていると、ゼンカン師は二カッと笑って理想を語る。
「師を超えるのが弟子の最もたる孝行! 俺のガラス玉を凌駕する作品を生み出し、出藍の誉れとせよ! ……お前に宝石研磨を教えて良かったと思わせてくれ、ノクスよ」
「…………! うす! 渾身の作品ができたら、また見せに来ます!」
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とやる気は満ち満ちながら冒険者ギルドを後にしたものの、今から作業部屋をレンタルしても時間貸しじゃなく借りてから退出するまでの一回貸しだから勿体ない気もしたので今日はお預け。
ゼンカン師所有の宝石研磨機を貸して貰うのは流石に気が引ける。タダで教えて貰ったのにそこまでおんぶに抱っこというのもな。
立てるようになるまで補助は十分してもらったのだから、ここから先歩くのは自分で頑張らなくては。
そんなこんなで折角盛り上がったやる気だ、熱いうちに叩きたい所だが、悲しいかな練習に使う用のガラス玉は全て二束三文で売っぱらった。
少しは残しておくべきだったかなぁ、いまさら後悔。
プレイヤー間の自動取引システムも覗いてもみたが、売った金額の1.5倍で買い戻すのもなんだかなぁの気分。
今日はスキルカード売り場を見て、ガラス玉を取りに行くに留めておこう。
で、明日は早くから作業部屋に籠ろう。
というわけで、ガラス玉が産出する採掘ダンジョンは……敵はぬるかったし、ボスに挑まなきゃ一人でもなんとかなるだろ。
よーし、軽く運動といきますかね。
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結論から言えばなんとかなった。道中は雑魚だし、採掘の音で敵が招き寄せられるのに気を付ければ死ぬことはない。練習用のガラス玉はこれだけあれば十分だろう。
ただ……めちゃくちゃ怖かった。
がやがやと賑々しい入り口から一転、静寂のインスタンス世界へ。温度も急激に下がり、洞窟の奥から聞こえるコウモリの羽ばたきが非常におどろおどろしい。
リコはこれに追加して、怖いっすねーなんて振り向いたらだぁれもついてこない、みたいな経験をしたのだろう。そりゃ体育座りにもなる。
難易度の割りに洞窟の前で仲間募集してるやつが多かったわけだ。今度俺もそうしよう。
「ただいま、シオン」
「っ……。おかえりなさい、ノクスくん……ふふっ。宝石は加工できましたか?」
「いや、でもやり方は教えてもらったから、明日から練習するつもり」
なんだか妙に機嫌の良いシオンに出迎えられながら寝具屋の前に来た。結局シオンは丸一日ずっと竹細工をせこせこしていたのだろうか。
「……? あ、あの、ノクスくん……?」
「どうかした?」
「その、いつもより距離が近いような……」
「えっ!? わっ、ごめん!」
自分でも気付かないうちに距離を詰めていたらしい、急いで距離を取る。
「別に、全く構わないんですけど……! あの、何かあったんですか……?」
「特に何もないけど。さっき採掘ダンジョン行ってたぐらいかな」
「一人でですか……!?」
「うん」
あぁ、頬をぷくぅと膨らませてらっしゃる。本当に表情が豊かになったよなぁなんてしみじみしている場合ではない。自分だけレベルが高いのが気に食わないシオンのことだ、俺が勝手に一人で戦闘をしたのがお気に召さなかったのだろう。
「むー……!」
「あ、いや、急遽ガラス玉が必要になってさ、あそこ敵も弱いし! レベルも上がら……」
シオンは頬を膨らませたまま、ずんずんと歩み寄って……遠慮がちに俺の腕を抱えてきた。
「あんなとこに一人で行くから、寂しくって人恋しくなっちゃってるんですよ。きっと……」
「そ、そうかな」
「そうです」
断言された。
「今度は誘ってくださいね」
「う、うん」
こりゃ参ったな。泣く子と頬をぷくっとするシオンには勝てない。
なにか別の話題は……。
「そういや、うゆは?」
「むー……」
腕をよりぎゅっと締め付けられた。あぁ、これは話題の選択ミスですね、わかります。
「うゆちゃんなら……ほら、いま帰ってきますよ」
「おお、ノクス! 帰ってたのか!」
「うん、おかえり」
「おかえりなさい」
「ただいま帰ったぞ」
むふー、と何か達成感を感じさせる佇まいだ。うゆはうゆで何かあったらしい。
「なんかやってたん?」
「ん! だが、何をやっていたかは秘密にしとこう」
む、内緒か。別にうゆの全てを知りたいという訳では無いが、少しもやもやするなぁ……。
「安心しろ、いつかババーンと発表するから」
「そっか。じゃあ楽しみにしとくよ」
「ん!」
何かあずかり知らぬところでサプライズが進行しているらしい。シオンのにんまり顔を見るに、二人は共有してるんだろう。ならそうそう悪いことではあるまい。
「ところで、今日は2人の距離が近いようだが、何かあったのか?」
「ノクスくん、一人で採掘ダンジョン行って人恋しくなっちゃったみたいなんです」
距離が近いっていうかゼロ距離ですけどね? あと人恋しくなったのは確定らしい。
いや、ぎゅってされてうら寂しさも吹き飛んだけどさぁ。
「ん、なら私も手伝ってやろう!」
なんて言いながらうゆは空いている片方の腕に飛び込んできた。
あぁ、通行人からの視線が痛い。両腕に女の子侍らして嬉しいは嬉しいんだけど、やべー男に映ってねぇかな、俺……!




