原石を磨くのには知識と技術が必要
「じゃ、次は実践だ! 流れを一通り見せるから覚えるんだな!」
やっと実践か! いきなり見せられてもすげーで終わってただろうから座学は必要だったとは思うが、やっぱ理科は実験だよな!
ゼンカン氏はインベントリから円盤状の装置を取り出し机の上に置いた。
なんだこれレコードかける装置?
「携帯用の宝石研磨機だ! 上を見ればピンキリだが、安くて2万ぐらいする!」
「えっ、やば……」
「ちなみにこれは15万だな! ガハハ!」
うへぇ、安くて2万かぁ……頑張れば買えない額じゃないが……2万より15万の方が良いんだろうなやっぱり。
「あと1万貯めるまでお預けか……」
「それには及ばん、初心者のうちはレンタル作業部屋を使えばよかろう! もっとも、1回2000Tは取られるがな!」
げ、たっけぇ……あんまり作業部屋使うようだったら自分の道具を揃えましょう、という感じなんだろう。
ってか寝具屋の一画めっちゃ借りてるけどレンタル代に換算したらたっけぇんじゃねぇか?
うひぇ~。
「さて! 正確な角度で磨くには石を固定しなければならない! まずはドップ棒に石を固定する!」
そういうとガラス玉を一つ取り出し、ドップ棒? の先端に近づけた。
100均で売ってそうな何の変哲もないビー玉だ。
「この棒にエーテルを流すことで固定、エーテルを吸い取ることで外すことができる!」
「吸い取るって……?」
突然ファンタジー設定が出てきた。現実はきっと別の方法で固定したりするのだろうが、面倒なので省略しているのだろう、多分。
機械に接続されたドップ棒に固定された石は、しっかりと外れなくなっている。手で持っている訳じゃないから、手ブレとかは気にしなくてよさそうだ。
「よし。次からは本格的に磨きを始めていくぞ! 前述の通りファセットカットは多数の面で構成されている! そして面の配置は光を反射するように計算され尽くしており、少しでも角度が狂うと色抜けする!」
「うわぁ、難しそう……」
「だが安心するが良い! ファセッターのメモリによって細かく調整できる! ガイド通りに進めていけばある程度は形になるであろう!」
ゼンカン氏はCDのような大きさの円盤を取り出し、宝石研磨機にセットした。
「これはラップという。言わば砥石だな!」
「おっ、じゃあまずは成形だから、粗い粒度のラップか」
「うむ! まずは#150で削っていくぞ!」
ドップ棒をラップに近づけ、先端に引っ付いたガラス玉を削る。
「ファセットカットでは大きく分けて、クラウン、ガードル、パビリオンの3つに分けられる! まずは底面たるパビリオンを形作っていくぞ!」
ゼンカン氏は迷いなくジーーッと削ってはメモリを見て一定角を回し、またジーーッっと削っては回す。
「時間がかかる作業故、スキルを使って時短する!」
そう言って何らかのスキルを発動すると、削る速度やそこ削ってないでしょって箇所も削られていく。当然ながら荒削りなので、表面は曇りガラスみたいに濁っている。
「よし、次は側面たるガードルだ!」
パビリオンを16角錐? ぐらいまで作ったら、側面も同じ角度でずつ削っていく。
「ここはガードルとパビリオンのラインを合わせるのがコツだな! ま、ガイドに従ってりゃ問題ない!」
そのままぐるっと一周磨き終わる。今んとこ尖った角錐といった印象だ。
「次はラップを#600に替えて、先程成形したファセットを研磨していく!」
「ん……ん? まだパビリオンとガードルだけしか成形してないよな? なんだっけ、クラウンって箇所は成形しなくていいのか?」
「見ての通り、クラウン部分はドップ棒と接続されている故、後回しだ!」
「あー」
素人目に一見無駄に見えても、実は理由があったりするものだ。ゼンカン氏は#600で削った面を磨いていき、次に#1200のラップに取り替えて磨く。
「お、おおー?」
この頃には曇りガラスだった面は、普通のガラスぐらいには透明度がでてきた。
「がっはっは! まだまだこんなもんじゃねえぞ!」
仕上げと称して銅でできたラップを取り出しに入れ替えた。
「これは粒度いくつなんだ?」
「これには粒度はない! あくまで土台で、研磨剤はこっちよ!」
ゼンカン氏はクレヨンのようなものを銅ラップ盤に塗りたくり、その上からガラス玉を当てる。
「仕上げはルーサイトラップや銅ラップを土台にして、ダイヤモンドペーストや酸化アルミナなどの研磨剤を使うことが多い! 磨く石の柔らかさや特性によって使う研磨剤が異なってくるから注意だ!」
そうして磨いたガラス玉を見せてもらうと……。
「うわっ! え、ピカピカじゃん!」
一つ前とは似ても似つかぬ透明度だった。
「すごいだろう? だが宝石研磨とは一面が綺麗で終わるものではない!」
え、現状でも十分すごいんだけど……まだまだ序の口なのか?
パビリオンとガードルを磨き終えたら、次はクラウンだ。磨き終えたパビリオン側にもう1本のドップ棒を近づけ、エーテルを流し接着。今までくっついていたクラウン予定地側のドップ棒からエーテルを抜く処理をしたのか、スッと外れた。便利だな異世界技術。リアルだとどうやって固定するんだろう。
そのまま……恐らくガイドに従って磨いていると思われる。パビリオン側と同じようにスキルを併用しながら、#150で荒削り成形、#600、#1200、研磨剤でクラウンを仕上げていく。
――
――――
――――――
「ふぅ……どんなもんだ?」
「こんなん…………もう宝石じゃん……」
そこには、元はガラス玉とは思えないほどの光り輝く宝石が鎮座していた。
「ほぁ~……」
ゼンカン氏が元ガラス玉を動かす度に幾重もの輝きが乱舞する。眩い宝石の魔力に目が眩み、自然と目を細めてしまう。
すげー……早く俺もやってみてぇー!
「ガッハッハ! ただのガラス玉と言えど、手間と暇と技術をかければここまで輝く! 宝石研磨とは光の芸術なのだ!」




