インスタンスの罠
「先輩、なんすかそれ!?」
突然ペーペーが高ダメージを叩き出したことで、目を丸くしている。
「ノクス、それはザコオロギのか?」
「そう、もしかしてと思ったけど、実はめっちゃ強いスキルかも」
問題は俺達だと全然真価を発揮させられてない所か。
今のところ猫に小判状態。
「すげーっす! ザコオロギってやつのドロップっすか? 弱そうっす、どこで手に入るっすか?」
「こ、コオロギですけど……弱くはなかったです、よね?」
「少なくともザコではなかったな、ボスだし」
名前だけでザコと勘違いしたやつ発見。ザコオロギなんて名前を付けた奴が悪い。
「っていうか虫嫌いじゃなかったっけ?」
「あたしっすか?」
「くっついた虫とってやっただろ」
「昔のことなんてもう忘れたっす!」
そんな昔の事でもないし、登下校の度に頻繁に言ってなかったか。
「なんたらストンプ? ボスドロなんすよね。はぁ~、絶対高いっすよねー」
「高いっていうか、売ってるんかな?」
「あ、店売りじゃなくて露店っす。プレイヤーの人たちが売ってるじゃないっすか」
そうなのか? うゆとシオンを見てみるが、2人とも知らない顔。
このゲーム、できる事が多すぎて全容が把握できないんだよな。
「街の一画がプレイヤー用に開放されてて、色んな露店が開かれてるっす。レアドロもそうっすけど、プレイヤーメイドの装備とかも並んでて見てるだけでも楽しいっすよ」
「へぇ~、もう製造職はもうそこまでいってるのか」
ソムニアではプレイヤーが実際に店番する露店と、システムに登録すれば自動で売ってくれる競売があるようで、前者はレアアイテムやクラフト品、後者は素材や消耗品がよく取引されているんだそうな。
「前シオンが作った竹まくら、並べたら売れるかな?」
「えっ!? ど、どうでしょうか……戦うのには役に立ちませんし……」
「ん、売れなくとも露店を出してみるのは面白いかもしれんな」
「そ、そうですね。露店には興味があります……!」
冒険にいかず、一日露店でボーッとする日があってもいいだろう。なんかそう思うと実現が楽しみになってきたな。
「楽しみにするのはいいっすけど、お金はあるんっすか?」
「ん、この前の依頼の分がある。素材を売ればもっと作れるとは思うが」
「なんか後々使うかもって思うと売れないんだよな」
インベントリも結構余裕があるし、取っておきたいという貧乏性……弱めのエリクサー症候群かも。
「あっ、それじゃあ良いお金稼ぎダンジョン知ってるんすよ! 折角だしこれからどっすか?」
「ダンジョン……?」
――
――――
――――――
「ここがお金稼ぎの聖地! 採掘ダンジョンのはずっす」
「はず、ってお前も初めてなのかよ」
「初めてっす!」
ツルハシを人数分買って(リコの分も買わされた)赴いた先は、洞窟と思わしき横穴。
聖地と言われるだけあって、プレイヤーが多数見受けられる。これから挑むパーティや、臨時で入れてくれとアピールするソロプレイヤーなどがおり、非常に賑々しい。
「こんだけ同業者がいると効率悪そうだけど、別の所にした方がいいんじゃね?」
「……ん」
うゆも不安なのか、いつの間にか腕にしがみついている。枕はどうした。
「心配ご無用っす! インスタンスダンジョンだから入れば快適っすよ」
話によれば、中はパーティ毎に空間が分けられており、醜い争奪戦をしなくとも済むそうだ。人との交流が目玉なMMOとはいえ、狩場での衝突は全く望んでいない。
ちなみに通常フィールドや町中も、サーバーが自動で割り振って適切な人数に調整しているらしい。
だからスカスカで寂しい街並みにはならないし、大群で身動きがとれないようにもならないんだとか。
「それじゃ、いくっす! 先輩たちと遊ぶの楽しみだったっすよー!」
意気揚々と進むリコに続き、俺、うゆ、フェリシアと洞窟に進んでいく。
「うおっ!? 暗っ!」
「きゃっ……!」
入口を過ぎると視界が闇に呑まれ、何も見えなくなる。
あまりの暗さに素っ頓狂な声を上げてしまった。うゆも腕をよりギュッと締め上げるが、その強さと温かさに不安が安らいだ。
しばらくすると視界が確保できる程度には
目が慣れてきた。
恐らくこの暗転でインスタンスとやらに分けられたのだろう。俺達のパーティしか存在しない臨時ダンジョンだ。
先程までの騒々しさから一転、水滴の音や何かの羽ばたく音、それらがお風呂場並みに反響しているのが不安さを演出している。
「よし、じゃあ進もっか。うゆとリコが前で……あれ、リコ?」
さっきから静かだなと思ったら、リコがいない。おかしいな、あいつ先頭で入ったはずなのに。
「ノクスくん……リコちゃん、パーティに入ってないみたいです……!」
「あっ、やべっ! 忘れてた!」
インスタンスダンジョンはパーティに入ってるやつじゃないと同じ所に入れない。
急いで引き返すと、入り口の端っこで涙目のリコが体育座りをしていた。
どうやって機嫌取ろう。とりあえずパーティ申請送っておくか……。




