格闘1/3倍段
「格闘家?」
リコは俺達と違って形から入るタイプではなさそうだ。初期装備ではないが、いたって普通の動きやすそうな服装をしている。
「わかってるっす、似合わないって事ぐらい」
「別に似合ってなきゃやっちゃいけないなんてルール無いだろ」
「……へへっ、そっすね!」
しかし格闘家か。まだ初めて浅いが、このゲームは適当にやっても補正でなんとかなる、なんてことは無い。
上手に身体を使って、正しく動かさないとまともにダメージが通らないのだ。逆に言えば、ソムニアで頑張れば現実でもそれなりに動けるようになるかも、ということだが。
「道場とか通ったん?」
「ゲームのっすけどね。コツとか習ってきたんで、今なら伝言ゲームできるっすよ!」
ふんふん、とシャドーでパンチを繰り出す様子は、中々さまになっている。肉弾戦かぁ、あまり選択肢になかったな。
「先に全力で殴ってみて欲しいっす! 素人と、素人に毛が生えた自分の差を見せられると思うっすよ~」
おー、中々の自信だな。
それでも毛が生えた程度なのか、随分と弁えた発言だ。ま、一日二日で達人は生まれないよな。
「ん」
「お、うゆうゆやる気っすね! 遠慮せず1発かましてきて欲しいっす!」
いつにもなく寡黙で闘志に燃えたうゆが黒髪を揺らしながら前に出た。
「がんばれ、うゆ! 怪我だけはさせんなよ!」
「が、頑張ってください……!」
「……ふぬ~~っ!」
俺達の声援を背に受けて、うゆは手をぎゅっと固く握りしめ、大きく振り被り助走をつけてリコの肩を殴りつけた。
「にゃっ!」
女の子にありがちなねこぱんちで、威力は対したことなさそうだが、リコはもろに喰らって尻もちをついた。
ちょっとは受け身とったりするんかと思ったけど何もしなかったな。何か悲鳴もあげてたし、素人の攻撃が予想より強かったのだろうか。
「……起き上がってきません、ね?」
リコは未だに尻もちをついたまま震えており、そして……。
「うぇ、うぇ~~~ん!! ひっ、ひぐっ! あああ~~!!」
「ん!? ど、どうした!?」
急に泣き出したリコと俺達の間で、目線を忙しなく反復横跳びさせるうゆ。
すまん、俺にも何がしたかったんだが。
「あ~~~ん!!! うぇっ、おっ……うぐっ……」
――
――――
――――――
「ごめんなさいっす……っふーー……言葉足らずっした……」
「こちらこそ悪かった、多少は疑いを持つべきだったな」
突然爆泣きしだしたリコは、シオンに背中を擦ってもらいなんとか喋れるまで回復した。
思い出したけど、こいつえらい負けず嫌いで、なんでも負けると吐く勢いで泣きだすやつだったなぁ。
「リコちゃんは、サンドバッグを殴ってみて、って言ったつもりだったんですね……?」
「っす、そうっす……」
「あいすまなかった」
そっかぁ……自分より小さい子に突然殴りかかられてビビって泣いちゃったのか。
男子はバカばっかだから腹筋自慢の友人に腹殴ってみてくれって言われたり、そういう筋肉だめしみたいなのするし普通に受け入れたが、女子はそういう文化ねぇよな。
それで嬉々として殴りに行ったうゆも規格外だが、違和感を持たなかった俺も俺だ。
まぁそれはそれとして。
「うゆ、今度はサンドバッグ殴れるか?」
「ん? いけるが……」
「じゃ、頼んだ」
「何も今じゃなくてもだな……んにゃ、わかった」
一緒に泣く子をあやしていたうゆをサンドバッグにけしかける。リコか泣きやんだ今、必要なのは本来行きたかった道筋を辿ることだ。
「リコ、見てろ」
「っす……」
「いくぞ…………ふんぬっ!」
今度は間違えずサンドバッグに殴りかかり、軽くサンドバッグを揺らす。8ダメージしか出なかったが、まぁそんなもんだろう。
……俺の初めての剣技より出てるけど。
「どうだった?」
「っふーー……全然まだまだっすね」
「そっか、じゃあ手本を見せてくれるか?」
「任せるっす……先輩に情けない姿見せられないっすからね」
「おぅ、かっこいいとこ見せてくれ!」
背中をバンッと叩き、立ち上がらせた。
「もー、強すぎっすよw」
なんて変なニヤケ顔で戯けて見せ、いつもの調子に戻ろうとする気概が感じられる。
リコの偉い所は泣くは泣くが、その後に自分で克服しようと努力するところだ。見かねた周りからおこぼれを貰うなんて真似はしない。
「あ、あの、ノクスくん……日を改めた方が良かったんじゃ……」
「いんだよ、終わり良ければすべて良しっていうだろ? 失敗で終わったら嫌な一日だけど、そこから挽回すれば良い思い出になるってもんだ」
実際そうなるかは本人次第だが。
その本人といえばサンドバッグからやや離れて構える姿は随分と堂に入っている。
格闘技といっても様々だ。なんだろう、ボクシングじゃなさそうだし、空手とかだろうか?
「いくっす! やーっ!」
そう言うやいなや、足を大きく開き体勢を低く構え、鋭く踏み込むと同時に拳を前に突き出してサンドバッグにぶち当てる。
間を置かずドゴォッと素手とは思えない打撃音が響き、78ダメージと下手な魔法よりも強烈な数字がポップした。
「おおーっ!」
「へっ、へへっ! こんなもんっす!」
これは見せたかったのも理解できるぐらい気持ちいい一撃!
うゆもシオンもパチパチと拍手しているので、俺も一緒に拍手することに。
「よかったな、うゆ。あの一撃をやり返されなくて」
「ん、その時は泣くから背中をさすって欲しい」
泣くよなぁ、俺も後輩にあの勢いで殴られたら泣く自信がある。
くれぐれも、リアルで機嫌損ねないようにしねぇとな……。




