エーテル魔法体系
「むーん……」
このむーんは俺の唸る声。
シオン先生のお陰でエーテルが身体を巡る感覚というのを掴み、今は一人で体内をぐるぐるさせている。
これ意外と楽しいかも。
「なんかぐるぐるして酔ってきたっす」
リコは独特な感覚に気持ち悪くなっている。すげー高速で回してんじゃねーかな。
「で、この後どうすれば?」
「手にエーテルを集めてみてください」
「おけ、やってみる」
身体を流れるエーテルを一箇所に集中させて……あれ、良い感じに溜まらないな。運んだ先から流れ出てしまう。
「コツとかない?」
「だ、ダムみたいに仕切りを建てるイメージで、エーテルを貯めると良いって教わりました……!」
「あ、なーるほど」
送りまくるだけじゃなくて、留める必要があるのな。ダムみたいに大きな壁をイメージして、手から先は流れを止める。
「おっ、来たかも来たかも……セイントアロー!」
呪文の詠唱と共に、指先から光の矢が飛び出し……緩い放物線を描きながら地面に落ちて粒子となって消えた。
なんか小便みたいだったな。
「へちょ……」
「おしっこみたいっすね」
「女の子なんだからそういう事言わないの」
心のなかで思うのと口に出すのじゃ天と地の差がある。例え邪な考えを持っていても、それを実行しなければ清廉潔白なのだ。
「なぁうゆ……うゆ、何してんの?」
「私も手から魔法を出す練習をだな」
「あれ? うゆちゃんは習わなかったんですか……?」
「ん、初耳だ。ダムのように、だったな。むん……」
うゆもバンバン魔法使ってたよな? 何か教わったことに違いがありそうだ。
「ファイア……ボルトッ!」
そんな事を考えているうちに詠唱が完了し、火弾を放つ…………と見せかけて何もでない。経験者でも失敗するって、やっぱ手から出す方法はムズいんかな。
「すまん、スキルカードつけてなかった。一瞬返してくれ」
「あっ、忘れてたっす!」
――――――
気を取り直して二射目。
「ファイア……ボルトッ!」
今度は指先から火弾が迸り、サンドバッグくんに当たり爆ぜる。163ダメージ……ほえー、順当に強い。
手から魔法を出せたうゆは、リコのすげーっすという称賛を受けてむふーと鼻息荒くしている。
「なぁうゆ、どうやって真っ直ぐ勢いつけて飛ばすんだ? 俺のはすぐ落ちちゃって」
「先輩のはまるでアイタッ!」
言うと思ったんで先にゲンコツだ。髪が伸びて胸が出ても中身は小学生だなこいつは。
「水鉄砲だ」
「みずでっぽー?」
「圧力をかけずに噴射しても威力はでないだろう。溜まったエーテルに更にギュッと圧をかける事で、勢いよく放つことができる」
あぁそうか、ダムに溜めた水をそのまま開放するだけじゃ、ドボボボと垂れ流すだけか。
うゆがファイアとボルトの間で溜めてたの、意味があったんだな。
そうとわかれば話は早い。
「セイント………………ッ!」
ギュッと圧をかけてかけてかけて……ギューっとぉ……!
「あっ、ノクスくん、ダメです!」
「えっ!? うわっ!」
ボンッと音を立てて指先から光の奔流が迸り、溜めていたエーテルが霧散していく。
今のは俺でもわかる、圧のかけ過ぎだ。
「た、溜めすぎると暴走しちゃうので、程々で開放しないとメッ、ですよ……?」
「う、うす、気を付けます」
急にお姉さんキャラみたいな事言われてドギマギしてしまった。シオンお姉さん説。
しかし溜めすぎも良くないのか。一旦ファイアだけ詠唱しといて保持、好きなタイミングで放つとかは難しいんだろうな。
とりあえず再チャレだ、まずは普通にサンドバッグに当てたい。
「セイント…………あれ?」
「どしたっすか?」
「身体にエーテルが廻らなくなったんだが……」
「なんか中二病みたいっすねw」
実際中2だし、エーテルを巡らしているのは事実だからな。
しかしさっきまでは感じられていたエーテルがこうも反応がないと……。
「あ、あの、先輩、失礼過ぎたっすかね?」
「そうじゃねーよ」
とりあえず頭をパシンとはたいておけば、不安そうな顔を一転させ嬉しそうにニヤニヤする。
こいつは失礼なことをあけすけと喋るが、スルーされると急に心配になるめんどくさい後輩なのだ。
「それはエーテル欠乏だな。フェリシア、少しいいか?」
「あ、はい。どうぞ」
「ん」
それだけで全て伝わったのか、魔法使いの幅広帽子を受け取り俺に被せる。
「エーテルは空気中に漂っているそうだ。それを取り入れることで回復するのだが、魔法使い系の装備はエーテル吸収率が上がる」
「へぇ~……なぁ、いま俺すげー変な恰好になってない?」
女性ものの僧侶服に魔法使いの帽子だ、あまりにもキメラ装備すぎる。
そう思ってうゆに聞いたんだが、意味深にニヤリと笑みを浮かべると離れていった。なんの笑みだよ。
「お、回復してきた」
「魔法を連発するのはもちろん、暴発してもエーテルがごっそり減る。リソース管理が重要なジョブだぞ」
「うん、2人とも結構高度なことやってたんだな。気付かなかったよ」
練習でも大変なんだ、戦闘中で気にするのはもっと大変だよなぁ。
「よし、休憩したしやってみるか。セイント……」
身体を巡るエーテルを手に集めて堰き止める。水鉄砲のように押して押して圧縮して……これぐらいか。
「アローっ!」
ぴしゅんっ、と手から聖矢が放たれ、サンドバッグに突き刺さる。
「で、できた……!」
「やったっすね先輩! あたしもすぐ追いつくっすよ!」
ファイアボルト、と香ばしいポーズで火弾を放ち小さく爆ぜさせる。火魔法は見栄えがいいな。
その点、聖矢は決して派手な魔法ではないが、そんなことはどうでもいいぐらいめちゃくちゃ楽しい……!
聖矢のダメージは64とそこそこだが……まぁ初めてにしては上出来だろう。
「そういやうゆって杖使ってたよな?」
「ん」
「あれってあってもなくても良いん?」
戦闘ではずっと杖の先端から発射していたはずだ。必要ないのならシオンのように棍棒とか持ってた方が良いはずだが……。
「発動媒体を介した方が少しながら威力は上がる。また、エーテルを流し込むだけで意識せずとも圧縮され、限界以上に圧縮もされない故、魔法の行使の補助になる」
上位の魔法武器ならエーテル増幅率、伝導率、圧縮率が高くなり、魔法行使が格段に楽になるんだそうな。
「それに、身体のエーテル循環を堰き止める必要がない為、暴発が起こることもない」
「そ、そうなんですね……! 便利そうです……!」
おっと、シオンは武器については知らなかったようだ。
どうもこのゲーム、制作者は色んな職を経験して繋ぎ合わせることで実力を発揮できるように調整している疑惑がある。
自分に関係ないからと全く触らないというのも、なにか大切な要素を取りこぼしてしまいそうだ。
「それじゃ、次はあたしの番っすね!」
「さ、桜之さんの番、ですか……?」
そういえばリコは何のジョブを進めてるんだろうか。コイツのことだから製造職はやってなさそうだが……。
「リコでいいっすよ。あたしは今、格闘家やってるっす! どやぁ!」




