魔法の練習にかこつけて
「何やってんすか先輩wwwwかわいいっすねwww」
「うっせー」
後輩のくせに相変わらず口さがないやつだ。
しっかし、よりによってリコ……あまり見られたくないリアルの知り合いに見られるとは……。
いや、この場所を教えたのは俺だが、タイミングが悪すぎる。
「そっちの子はこの前ぶりっすね! 今日は魔法使いじゃないんすか?」
「ん」
う、うゆさーん!? 返事が素っ気なさすぎません!? 表情もなんだか固いし!
なんかもう全然気にしてませんよみたいな口振りはなんだったんだ!?
「あ、あー、紹介するよ。前言ってた俺のリアルの知り合いで1個下のリコだ、仲良くしてやってくれ」
「どもども、桜之リコっす! しょーご先輩がお世話になってるっす! よろしゃーっす!」
大袈裟に頭を下げて髪の毛がバサッと翻る。後輩ムーブが板に付いてんなぁ。
「ちなみにコイツの言うショーゴってのは、本名じゃなくてあだ名だから安心してくれ。言ってんのコイツだけだから」
「あっ……そう、なんですね。びっくりしました……!」
前回はこれで失敗したからな、先手を打って誤解は潰しておく。同じ轍は踏まない主義だ。
「で、こっちが俺の友達」
「烏有うゆ。ノクスの友達だ」
「ふぇ、フェリシアと言います……! ノクスくんにはたくさんお世話になってます……よろしくお願いします……!」
お世話したっけ? うゆと違ってシオンは手の掛からない子だからなぁ。
「そんでカウンターに居るのがこの街の住人で……」
「どうも、実はこのお店は出逢いを求める人が集う酒場じゃなくて寝具屋なんですよ。今日はそれだけでも覚えて帰ってくださいね」
「いや、なんか悪いなほんと……」
枕1個買うだけでこんな粘られても困るだろう、今度俺にも良さげな寝具見繕ってもらうか。
「先輩、面白い子たちと付き合ってるっすね」
「だろ? おかげさまで毎日がエブリデイだ」
「ん!」
なんかうゆが隣に来たので、特に理由もなく頭を撫でておく。こういうとこ犬っぽいな。黒柴。
「で、先輩はそんな恰好で何やってんすか?」
「恰好はどうでもいいだろ」
「それは無理っすw」
くっそ、無理だったか……後で口止めしとかなきゃな……。
「前、剣の練習してたろ? そん時に二人は魔法使いと僧侶の練習しにいってたんだよ」
「あー、料理修行の時っすね」
「お料理……?」
「野菜切らされたんだよ、包丁で」
2人とも首を傾げている。わかんないよな、俺も最初はそうだった。
「で、今日は覚えたことを教え合おうって話でさ」
「面白そうっす! あたしにも教えて欲しいっす! 魔法ってかっこいいっすよね!」
あーーー。俺はいいんだけど、どうもうゆが友好的な空気じゃないんだよなぁ。
「なぁうゆ、こいつも混ざって平気?」
「お願いするっす!」
「ん」
いつもの調子は鳴りを潜めて物静かだ。本当に平気かなぁ。
「シオンは?」
「へぁっ!? は、はい、大丈夫です……!」
何か2人とも本調子じゃなさそうだ。本当に大丈夫か?
「…………ん?」
――
――――
――――――
まずは剣の練習ってことで、寝具屋の庭先とサンドバッグを借りさせて貰った。
服装はそのままに、ジョブだけ変える。
まぁこの辺りは練習の再放送だからダイジェストでいいだろう。
ちなみに包丁の経験を聞いたらシオンは日常的に使っているが、うゆは一度も使ったことがないらしい。
慣れが無い分苦戦はしたが、うゆの根気は人一倍あるので最終的にはものになったかな。リコが教えるのに張り切ってたのを覚えている。
後は実戦で鍛えて貰おう。
――
――――
――――――
で、剣の次は待ちに待った魔法だ。ジョブを僧侶に切り替えて、シオンから僧侶スキルカードを受け取りセット。
「えーっと、僧侶も魔法使いも基本的な使い方は一緒でいいんだっけ?」
「そ、そのハズです。僧侶は精神で、魔法使いは魔力が重要になるそうです」
よくある設定だと、魔法は自然エネルギーだけど僧侶のは神様の祝福だとかで、祈ることで奇跡の力を代行できる、というやつだ。
コマンド式なゲームならそれで構わないのだが、フルダイブ型でいざ心から祈れと言われても信仰心のかけらもない自分にはとてもできる気がしない。
逆に何かを信仰してる人の方が、よその神様に祈るのキツイかもな。
って訳で、呪文を唱えて発動するだけならそれに越した事はないのである。
「それしゃいくぞ! セイントアロー!」
……あれ? うんともすんとも言わないな。
スキルカードはセットしたよな。あれ?
隣では同じように呪文を虚しく響かせるリコ。ふいにゲームの呪文を唱えて友達とふざけ合ってた小学生の頃を思い出した。
「ダメっす、あたし魔法の才能ないのかもしんないっす」
「リアルの知り合いからそんな言葉聞きたくなかった」
俺はもともと魔法の才能なんてあてにしていないのでノーダメだ。
こんな時こそ先達の出番。黙って見守っていたうゆ先生が静かに語り始めた。
「魔法はエーテルを身体中に巡らす必要があるからな」
「エーテル? MPが回復するあれ?」
「じゃなくて、魔法のもと……みたいなもので……あの、少々失礼します」
そういうとシオン先生が俺の手を取り、その、なんというか、いわゆる恋人繋ぎ……をしてきたんだが……。
「ノクスくん、右手も……」
「は、はい」
抵抗するまもなく向かい合って両手を恋人繋ぎにされ、思わず敬語になってしまった。
「あの、これって……」
「鼓動が聞こえますか……? い、今からこのリズムでエーテルを流しますので、感覚を掴んでください……!」
顔を真っ赤にしたシオン先生はむむむーんと唸り始めた。
「何か感じませんか……?」
「今んとこ気恥ずかしさしか」
「あ、あぅ……ゆっくりコツを掴んでいきましょう……むむーん……」
先生の言うことには、俺とシオンの間にエーテルラインを構築して時計回りに循環させているらしい。
シオン先生のやや足早な鼓動を確かに感じながら、目を閉じて集中してみよう。
「ん、コツを掴むまで時間がかかる。私達も練習するか」
「うす、よろしゃっす!」
リコにはうゆ先生がつくようで、差し出した手を素直に握り返している。
「……んにゃ、普通の繋ぎ方で良い」
「あれ? そっすか?」
俺達に倣った親密な繋ぎ方を解き、普通に繋ぎ直す2人。
「あの、シオン先生……?」
「むーんむーん……」
おっと? エーテルを本当に流してるのかすら怪しくなってきたな……?




