夢の始まり
「も、もう一回! 頼む!」
「えー」
「えーじゃない! そこをなんとか!」
もう一度チャンスを! と執拗に強請ってくる攻勢をやんわりお断りしながらからかっていると、GMが申し訳なさそうに話しかけてきた。
「あのー、盛り上がってるところすみませんが、あと5分ぐらいで次の私の担当分が始まっちゃうので、そろそろ旅立って貰えると……」
「ん、それはノンビリしていられないな。感謝する、にょこGM」
「わぁっ、名前覚えて貰ったんですね! 嬉しいです!」
そういえばそんな名前だったな、GM。
後でアンケートとかでにょこGMが良かった~とか送っといた方が良いだろうか。
「お前も……失礼、名前は何という?」
「あ、俺? 俺は……」
「あぁ、現実の方じゃないぞ。この世界の名前だ」
おっと危ないあぶない。
夢と現実の区別がついてないって笑われるところだったぜ。
俺は――
「……ノクス。白夜ノクスだ」
「感謝する、ノクス。
きっと君がいなければ今頃、時間切れで追い出され退屈なベッドの上で不貞寝していたのだろう」
追い出しませんよー! とにょこGMが抗議する。
「どれ、にょこGMがご立腹のようだから旅立つとしよう。あの扉を潜るんだったか」
瞑目してからおもむろに歩き出した女の子の隣を、同じ速度で並んで歩く。
隣を見ると、不思議そうな表情で俺を見上げてきた。
「ん? もう補助されなくても歩けるぞ?」
「ちげぇよ。友達と一緒に歩くのはおかしなことじゃないだろ?」
小一時間一緒にいたんだ、友達と言っても過言ではない、はず。
友達と言った瞬間ビクッとされたが、気に触っただろうか。
「そうか……烏有うゆ、と言う」
「からすあり、うゆ?」
「私の名前だ。友達なら忘れてくれるなよ?」
「……あぁ!」
フレンド登録ならメニューから申請できますよ~! というにょこGMの声が聞こえるが、そういうんじゃないんだよな、この関係は。
ぞんざいに手を後ろに振りつつ、夢の扉の前に立つ。
「この扉をくぐれば始まるんだな……俺達の冒険が!」
「そうか、ここがスタートラインか。チュートリアルで満足するのは幾分か気が早かったな」
「一人で夢を見るのも楽しいけれど、みんなと見る夢はもーっと楽しいですよ!
節度を守ってエンジョイユアドリーム!」
GMにょこの決め台詞を背中に受けて、俺達は一歩踏み出し扉を潜る。
初めはあれだけ盛大だった旅立ちを祝う拍手も、今は一人だけ。
だが、とても熱烈に祝ってくれているのが伝わってきた。
扉の奥から色とりどりの星が視界を埋め尽くし、まばゆい光を放つ。あまりの眩しさに目をあけていられなくなり、それから――。




