刺す時は刃を上にして腰溜めに
どうもスクイークストンプはザコオロギの驚異的な脚力を再現したスキルカードらしい。
蹴り技が強くなったりはしないが、ハイジャンプだけでなく横方向へのステップにも活用できそうだ。
うゆに持たせておくと危険なのでとりあえず近接職である俺が持っていることにしたが、ぶっちゃけ先のザコオロギ戦でカンストしたからすぐ次のジョブカードにする気満々なんだよな。
ま、スキルカードは3人の共有アイテムってことで、機動力が必要になった人が使うことにしよう。
そんなこんなで討伐依頼のザコオロギは倒したし、採集依頼の枯れた枝は十分数溜まったし、みんなのジョブはマスターした。
今回の目的は無事達成という訳で、帰ろうかという話に相成った。
街へはファストトラベルで一発だし、コオロギ林もFTポイントが設定されていたのでお金を払えばまた一瞬で来れる。
ゲームだからこそ、狩場への移動だけで時間を取られるのは避けたい。
睡眠時間がまるっと遊び時間だ。時間はたくさんあるとはいえ、リアルを追求するあまり、次の街まで馬車に揺られて3日間かかりますとか言われても楽しめる自信はない。
ちなみに街とかへの拠点移動はお金はいらないようで、次の街とかあれば開放しておけばできることが広がるだろう。
もっとも、寝具屋を拠点としていて特に不便でもない現状、根城を移す気は特にないんだが。本人達から邪魔だって言われた時に考えよう。
――
――――
――――――
「邪魔ですよ、あなた達」
「ノクス、言われてるぞ」
「バカ言え、うゆが言われてんだよ」
「お二人とも、だと……」
看板娘のみならずフェリシアにも言われてしまった。それもこれも、もう戦闘はないのだからこのまま運んでくれと、うゆが駄々をこねたからに他ならない。
うゆはお姫様抱っこの姿勢のまま離れようとしないし、フェリシアはほっぺを膨らまして不機嫌を隠そうともしない。
しかしフェリシアも、最初に比べて感情表現がストレートになったな、ぷんすこしてばっかだけど。少しは俺達に心を開いてくれたのだろうか。
フェリシアはお姫様抱っこされているうゆのほっぺたをつつき、反撃で口を開けて指を食われそうになっていた。
仲がいい、のかな。
「じゃ、おじゃまみたいだし、そろそろ解散しよっか」
「べ、別にまだ居てもいいですけど?」
「ん! 今日も楽しかったな!」
「大冒険、でした……!」
「ほんとすごい夢だったよな。牛みたいなでかいコオロギと戦う夢なんて想像してなかったよ」
心理学の権威が巨大コオロギの夢なんて聞いたらなんて分析するだろう。やっぱすけべ心の発露とか言われちゃうのかな。
「そうだ、ノクス。一つ聞きたい事があるんだが」
のそのそと抱っこから降りたうゆがいつになく真剣な顔で何事かと喋りだす。
「どした? 明日の予定か?」
「ノクス。フェリシアのこと、愛してると言っていたな?」
「お、おう。言っちゃった、な」
テンションが上がってのことだから、あまり深く突っ込まないで欲しいんだが……。フェリシアも思い出したのか顔を赤くして顔を手で覆っている。
「たしかにフェリシアのヒールアローはお手柄だったな。だが、私もアイスボルトで動きを鈍らせたのも間接的ではあるがノクスを救う一助になったと思う」
「うん、そうだな。あの時は助かったよ」
「だから、その、な。私のことも愛してくれるか?」
そんなストレートな言葉を臆面もなく言いのけては、目を細めて返事を待っている。
いや、別にうゆの事は好きだが、戦闘に酔ってる時ならまだしも、シラフで言うのくっそ恥ずかしいんだが。
今回は外野もいるし……看板娘も興味なさそうな素振りをしているが、聞き耳を立てているのがバレバレだ。
なんという羞恥プレイ……仕方ない、腹を括れ!
……なんか今日腹を括れ案件多くない?
「う、うん、もちろん。その……うゆ、愛してるよ」
「ん、そうか」
なんかあっさりした反応だな。
そう思っていたら、突然ジャンプして首元に抱きつかれた。
「私も愛してるぞ、まひる」
予想だにしていないタイミングで耳元に囁かれ、思わず硬直してしまう。
っていうかいつまで抱きついてんだこいつは。
「あ、あの、うゆさん……?」
「昨日の今日でもう名前を忘れたのか?」
「……かずはさん?」
「ん」
明日からは敬称は要らないぞ、と述べながらようやっと離れてくれた。これ毎日やるつもりかぁ?
「皆、また明日な」
「お、おう。またな」
「お疲れさまです……」
ふぅ……言いたいこと言うだけ言って帰っていったなあいつ……。
「待たせちゃって悪いな、フェリシア。じゃあ俺達もそろそろ……」
「ノクスくん」
「は、はい、なんでしょうか」
思わず敬語になってしまった。
二股がバレた男みたいだな俺。決して誰とも付き合ってないんだが……。
「お役に立てたので、後で褒めてくれるって言ってました、よね?」
「うん。あ、その事? なら……」
「その、良かったらご褒美に、わがまま一つ聞いてくれませんか?」
「……できる範囲なら」
さっきは何でもって言ってエラい目にあったからな。学ぶ男なのだ俺は。
しかしフェリシアは一体なんの要望を通そうと……。
「ノクスくんには、フェリシアじゃなくて……しお…………シオン、って呼んで欲しいんです……!」
「あぁ、なんだそれぐらいならお安い御用だよ」
フェリシアのキャラ名ってフェリシア=シオンだったっけな。勿体ぶった割にはかわいいおねだりだ。急に本名で呼べと耳元をくすぐられるよりハードルは低い。
「じゃあこれからはシオン、だな。また明日からもよろしく!」
「よろしくお願いします、ノクスくん。あ、それと……」
まだ何かあるのだろうか?
そう思ってるとおもむろに近づいてきて……。
ぎゅっ
……え?
「えへへ、うゆちゃんだけズルいですよね。そ、それではまた明日! 学校頑張ってください!」
柔らかいハグはすぐに解かれ、シオンは逃げるようにログアウトしていった。
ハグなんて男同士だと基本しないけど、女同士だと気軽な挨拶なのだろう、多分。うゆやシオンの濃密で軽率なスキンシップに感情が狂っちまうよ……。
「腕のいい防刃チョッキ売り場屋さん知ってるんですけど、教えてあげましょうか?」
どうも刺されるまで秒読みらしい。刃傷沙汰だけは勘弁してくれよ……!




