赤はエピックレアリティ
「いよっしゃー!!!」
ドロップだけ残してポリゴンと化したザコオロギを見送りながら、歓喜の声を上げた。
本当にザコオロギか? とも考えがよぎったが、討伐依頼がカウントアップされているので間違いはなさそうだ。
どこがザコなんだよザコオロギさんよぉ。
「ノクス! やったな!」
うゆが片手を上げて走ってくる。きっとハイタッチがしたいのだろうが……。
「んおっ!?」
つい嬉しくなり流れるように抱き上げ、ぐるっと一回転。
「ノクス、喜び過ぎじゃないか?」
「ごめん、嫌だった?」
「もっと回っていいぞ」
お言葉に甘えて追加で3回転。いやー嬉しい! 意外と俺達って強いのかも!
「の、ノクスくん!」
ギュッとしがみつき、もっとだもっとと催促するうゆを降ろし、頑張ってくれたフェリシアを労う。
「ん、フェリシアもお手柄だったな!」
「マジで死ぬとこだったよ、ありがとう」
「そんな、お役に立てたのなら幸いです……!」
役に立ったどころか勲章ものだ。もっと誇って然るべきだろう。
「それで、その……」
フェリシアはおずとずと手を広げ、目を瞑って待ちの姿勢。
「お、お願いします……!」
え、それってそういう事……? 応えてやれとうゆが背中を押してくる。
「そ、そんじゃあ……」
フェリシアの脇の下から手を回し、振り回す姿勢をとる。
向こうも俺の背中に手を回すが、フェザータッチで弱々しい。
「あの、フェリシア……」
「ひゃい!? にゃんですか!?」
「重力がかかるから、力を入れて貰えると」
「わ、わかりましたっ!」
耳まで赤くするフェリシアだが――これ耳元で囁く姿勢になっちゃったな――ギュッと掴んで貰えたのでそのまま3回転。
「ひゃぁ〜!」
悲鳴が面白かったので追加で3回まわしといた。別に、フェリシアにギュッとされたくて長くやった訳じゃあない。
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王闘蟋の鎌脚
コオロギの王たるザコオロギの後ろ足。全体重を持ち上げ跳躍する為に長く太く、そして鋭利に発達した。
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王闘蟋の触角
鞭のように靭やかで艶やかな触角。空間把握に用いるのはもちろん、王の武勇を象徴するシンボルでもある。
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王闘蟋の響前翅
その翅は飛ぶための翅ではなく畏怖を響かせる為に。コオロギは強い縄張り意識を持ち、縄張りに入ったものは何であれ発音器官を鳴り響かせ威嚇の音色を奏でる。
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「あいつ王だったんだ……ザコオロギなんてフザケた名前してな」
実質ダイオウコオロギみたいなもんだったりするんかな。その上に皇帝コオロギなんかいたりして。
「あの、ザコオロギなんですけど……」
「なんかあった?」
フェリシアがフレーバーを読みながら考え事を口にする。
「ザコのコオロギじゃなくって、THEコオロギだったりしませんか……?」
「THE?」
あの、その、って意味だっただろうか。あのコオロギ……うーん、英語むずかしい、よくわからない。
「えっと、日本語にはない概念なのでわかりにくいのですが……THE、というのは特別感を出したい時に使う言葉なんです」
「あの、その、って意味じゃなくて?」
「文法としてはそうですけど……わざわざコオロギではなくTHEコオロギと強調するということは、何か特別な事を伝えたいのかな、って読み取っても間違いじゃないんです」
おいおい、じゃあなんだ? ザコオロギは見る人が見れば名前からして強いオーラを醸し出してたってことか?
「次から討伐依頼の時は気をつけねばな」
「ザコオロギって弱そうな名前だから選んだところあったしな」
ザコ・コオロギじゃなくてザ・コオロギとはな。
もしオロギってモンスターが居たならザコオロギはザコ・オロギなんだろうが……。
いや、オロギってモンスター、居るとしたら終盤に出てくる厄介モンスターだろ。状態異常ばら撒いてくるタイプ。
ザコのオロギは絶対ザコじゃない。
「さて、ドロップ素材はこんぐらいにしといて……そんじゃ本命のドロップ確認と洒落込みますか」
「ん! 久方ぶりのスキルカードドロップだな!」
そう、ザコオロギはスキルカードを落としていたのだ。それも赤色の。
ボス産のスキルカード、これは期待が持てる。
「レアリティ高いんじゃないか?」
「色からして良さげだもんな、赤だぜ赤」
果たしてどんな内容なのか。いざご開帳!
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スキルカード:スクイークストンプ
カテゴリ:敏捷 タイプ:アクティブ
踏む動作の反動が大きくなる
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「えーと……なんだ? これ」
踏む動作の反動? 反動が増えるってデメリットでしかない気がしないでもないが……。
うゆもフェリシアも使い道が思いつかないようで、首をひねっている。
「よくわからんが、実験してみるか。フェリシア、つけてみたらどうだ?」
「そ、そうですね……あれ? ステータスが足りないみたい、です……」
へ? 見てみると敏捷ステータスを7も要求してくるらしく、僧侶では微妙に届かないらしい。
こんなにステータスを要求するなら弱いわけないはずなんだが。
「ん、付けたぞ。とりあえず踏んでみるか。スクイークストンプ!」
どうやら魔法使いは敏捷がそこそこあるようだ。杖をインベントリにしまい思いっきり地面を踏みつける。
ぺしっ。踏みつけたにしては可愛い音が響く。
「のわっ!」
しかし可愛い音に反してうゆは足を軸にして俺の頭ぐらいまで跳ね返され、そのままペショッと地面に落ちた。
「おい、うゆ! ふっ、大丈夫か!?」
「笑いながら言うことか?」
「悪いけど今のは録画しておきたかったな」
コンシューマゲームなら振り返り録画とかできるんだけど、ソムニアはそういうの無いんだろうか。
「ノクス」
「はいはい」
うゆは頬を膨らませながら手を広げてTポーズ。魔女っ子衣装は黒だから汚れが目立ちにくいという訳でもなく、普通に白い汚れが目立つ。
手でパンパンとはたいて身だしなみを整えるやるうゆ係に俺はいつ就任したんだろう。
「うゆちゃんが踏んだ地面……別に凹んだりはしてませんね……」
「へぇー、じゃあ本当に反動だけを増幅するのか。キック力増強みたいに使えないのは残念だな」
アクションが得意なやつが利用すれば反動を利用してなんか色々と悪用できるんだろうが、悲しいかな一般人寄りの俺達では活用方法が思い浮かばない。
「反動か…………ストンプ」
汚れを落としたうゆがボソッと呟くので何事かと見やれば、屈伸運動をしてジャンプしようとする所だった。
膝を曲げて身体を沈ませ溜めを作り、膝を伸ばして足の裏で大地を踏み込めば、まるで半球状のゴム素材でできていて裏返すと時間経過で元に戻って反動でジャンプするオモチャみたいな勢いで、うゆはお空に昇っていった。
「ぬああ〜〜〜〜っ↑」
うわうわうわ! あいつハイジャンプしやがった! 確かにジャンプは踏む動作か!
うゆはぐんぐん上っていき、校舎の2階はあるだろうか、普通のジャンプの8倍ぐらいの高さで最高到達点に達した。
「ぬおお〜〜〜〜っ↓」
ジャンプ力と重力が拮抗し一瞬の無重力体験の後は、当然落下を始めるわけで。
不意に空へ打ち上げられたうゆは姿勢制御が甘く、尻から着地する一歩手前だ。
「のくすぅ〜〜!!!」
「おバカ、口閉じてろ! 舌噛むなよ!」
ボスを倒したのに落下死なんて洒落になんねぇ! 咄嗟に落下地点に先回りし、タイミングを見計らう。
3、2、1、いまっ!
キャッチと同時に膝を柔らかく使って衝撃を和らげる。グンッと衝撃はあったが、大半は受け流せたのではないだろうか。
オヤカタ空から女の子がごっこLv.100に成功した代償に、お姫様抱っこの体勢になったけれど、咄嗟のことなので見逃して欲しい。
あの高さだ、相当怖かったのだろう。うゆは目を見開き、わなわなと震えながら言葉を漏らす。
「もう一回やっていいか?」
このまま落としてやろうかな、こいつ。




