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推定ザコオロギ戦:後編

「ファイア、ボルトッ!」


 俺の後ろから顔を出し、うゆが火弾を放つ。

 バウと爆ぜる音を出して直撃するが、当然一撃では倒れてくれない。

 最初から今まで特大のヘイトを稼いでいるうゆの前に立ち、ザコオロギの視線を遮る。


 といっても、うゆへの攻撃を防ぐ為じゃない。自慢じゃないが盾も無ければ剣でいなす技術もないからな。

 ならば、なぜこんな邪魔な所に立ってるのか。



「っらぁぁぁぁ!」


 鞭のような触角を切り裂こうと一閃、ギャリンと嫌な音を立てて刃が滑る。


「やっぱ無理か!?」

「重要な器官が一発で壊れるとは考えにくい! 続けろ!」

「仰せのままに!」


 そう、無理やりにでもフロントを取ったのは、コオロギの触角を斬り落とす為。いかにも頑強な脚は無理だが、細い触角ならもしかしたらというのがフェリシアの奇計だ。

 触角が何に使われてるんだか知らないが、ただの飾りという訳じゃなし、無くしたら戦力ダウンは免れまい。


 そして、マトモな刃物を持っているのは俺だけなので、触角を斬り落とすのは俺の役目という訳だ。

 フェリシアは側面から樫の棍棒でドスドスどついている。あれもあれでいいダメージが出てそうだ。



「ノクス、気をつけろ!」

「むおっ!?」


 ザコの突進……ではなく、前脚での引っ掻きで体力を削られる。事前動作が短く、見てから避けるのは至難の業だ。

 幸いダメージはそこまで大きくなく、あくまでジャブ的な攻撃なのだろう。ただ、HP が全快でないのが怖いぐらいだ。


「パワーアタック!」


 ザコオロギの引っ掻きの間隙をついて触覚に鋭い一撃をぶち込む。相変わらず嫌な音をたてて滑るが、斬れないという感じはしない。

 この調子であと何回か斬り込めばいつかは……。



「ファイア――」

「と、飛びます!!」


 やべ、うゆの詠唱と同時に突進モーションだと!?


「すまんっ!」

「ぬおっ!」


 咄嗟に振り向き、杖を掲げるうゆの腰に手を回し、荷物のように抱えて横にかっ飛ぶ。


「うにっ」


 俺達が直前まで居た場所を牛のような巨体が通過する。

 2人諸共土にダイブする事になったが背に腹は代えられん、死ぬよりはマシだ。

 うゆを上にして着地したのがせめてもの情け。



「ノクス、後で覚悟しておくように」

「これでも善処した方ですー!」


 ところが今は戦闘中、言い合いしている場合じゃない。脇に手を入れてうゆを立たせ、急いで戦線復帰する。



「す、すみません、危ない役目をお願いして……!」


 離れて戦っていたフェリシアがヒールで回復してくれる。突進は距離を離されるのが厄介だが、回復する余裕も生まれるので一長一短。ずっと前脚で殴られ続けたら遠くないうちに死ぬ。


「サンキュ、手応えはあるから触覚は続行で」

「無茶しないでくださいね。うゆちゃんも……」

「心配するな、死ぬときはノクスと一緒だ」


 同じ縦軸にいるんだから突進で同時に死ぬのはそりゃそう案件だが、フェリシアの顔が曇るからやめてくれ。



「ザコが復帰したぞ、手筈通りよろしく!」

「2人が死んだら私も後を追いますから……」

「だから重いってぇ!」


 余計負けられなくなったじゃねぇか、まずは触覚に一撃!


「パワーアタック!」


 お、これは中々の手応え! 滑るような感覚ではなく、食い込んで刻む様がはっきりと感じられた!


「アイス……ボルトッ!」


 俺が攻撃して射線の開いた隙にうゆの氷弾がコオロギに突き刺さる。



「ん、あまり効かんようだな」

「ナイスチャレンジ、火弾中心で組み立てていこう!」


 俺達の猛攻撃を受けるザコオロギも黙ってはいない。前脚が迫って……?


「ぎっ……よいしょぉ!」

「ノクスくん、流石です!」

「まぐれまぐれ!」


 運よく前脚のジャブのような攻撃をいなす事ができた。戦いのなかで成長するってこういうことか!

 リアル経験値という意味では強敵との戦いが一番だ。現実での使い道なんてないけどな!


「ノクス!」

「おう! ……ん?」


 再度飛んできた前脚をタイミングよくいなす。二回連続でできたらそれは実力では。

 じゃなくて、見てから避けるのが無理げな引っ掻きだったのに、うゆの警告後から避けられたな?



「ファイア、ボルトッ!」


 うゆの火弾が刺さり、炎上するザコオロギ。結構攻撃してるし、もう体力半分割ってたりしません?


 だが攻撃パターンは変わらないようで、何度目かの前脚のひっかき。


「でっ……ぐっ!」

「ん、早い! 発狂したか!?」

「いや、これは……うゆ、アイスボルト頼む!」

「……ん! アイス……ボルトッ!」



 特に理由も聞かずお願いを聞いてくれるのが頼もしい。

 氷の弾がザコオロギに当たりキラキラと結晶を撒き散らす。確かに威力は低いみたいだが……。



「なるほど、大当たりだっ!」


 一つ前に比べてぬるい前脚の攻撃をシャリンと剣でいなせば答えは明瞭。


「こいつ、冷えると遅くなる!」

「ん、所詮変温動物だな!」




 ダメージは火が一番通るとはいえ、氷の速度低下デバフは強烈すぎる。

 メインウェポンを氷弾に切り替えてもらう事で、前脚での攻撃は概ねいなせるようになった。

 突進の予備動作もわりかし長くなり、余裕を持って逃げられるように。もううゆを持って飛び下がる事もない。


 そうして、ザコオロギの大きくなった隙を見逃さず、何度目かの触覚への斬撃を試みて……。



 バキィッ!



「来た! 折れたっ!」


 これで目論見通り戦力がダウンしてくれれば……!

 そう思っていたのも束の間。ザコオロギが羽根を伸ばし、大技のモーションを取る。


「やばい、逃げ……っ!!」






 RiRiRiRiRiRiRiRiRiRiRiRi!!!!!!



 う、うるせー!!!

 突然の不快な甲高い鳴き声に思わず足を竦ませてしまい、遅れて頭を抱え耳を塞ぐ。

 どんな大技が来るのか見極めようと集中していたのも災いして、もろに高周波を浴びてしまったようだ。

 視界の端でフェリシアも口を開けてしゃがんで耳を塞いているのが見えた。



「ノクスく――――」


 あれ、フェリシアが何か言ってる。

 キンキンする耳鳴りを無理やり抑え込み前を向くと、ザコオロギが突然視界いっぱいに迫り――――。







「がはっ!」


 気付いた時には巨大なザコオロギの図体に跳ね飛ばされて地面を転がっていた。


 なんだ、何が起きた!?

 ……よくわからんが突進をもろに受けたみたいだ! この視界のモノクロさ加減、本当にギリでHPが残っているのだろう。

 ……うゆは!? 近くに転がってはいない、送還されたか!?



「アイス……ボルトッ!」


 遠くから飛んでくる氷弾……そうか、無事か。良かった。


 しかし、事態は最悪の状況だ。満身創痍で転がる俺の前には、前脚を振り上げるザコオロギ。いくら緩慢な動きといえど、いくら軽微なダメージといえど、瀕死の状態で引っかかれたら死ねる。


 早く起き上がらなきゃと抵抗する俺に、死神の鎌の如く持ち上げられた前脚が振り下ろされる。

 あっ、これは終わったか……。




「ヒールアローッ!」



 ギロチンが落ちるより一足早く、フェリシアの放つ回復の矢が俺に突き刺さり、少しばかりの傷を癒やし余命を幾許か延長する。


 当然前脚の追撃は喰らったものの、致命傷には至らない。急いで起き上がり、距離を取って体勢を立て直す。



「おおおぉ!! 助かった! 愛してるぜフェリシア!」

「えっ、あっ、え……は、はい!」




 恐らく触覚を切断したのが発狂の契機であろう。そして下手人である俺に極大のヘイトが向いた。


 ということはつまり、触覚は弱点!



「もう一本も斬り裂いてやる! 覚悟しろザーコ!!」


 先程殺されかけたのは棚に置き、触覚に斬撃を仕掛ける。先程からうゆのアイスボルトがザクザク刺さっているが、そんなのには目もくれず俺を狙い続ける。


「ノクスくん、無茶しちゃメッ、です……!」

「嫌いになった?」

「んもう……っ!」


 近くまで走ってきたフェリシアにヒールで回復してもらう。ヒールアローは回復量が減って消費MPもバカにならないので接触式が一番なんだそうな。



「飛ぶぞ!」


 フェリシアに代わり後ろに陣取るうゆの合図で、横に避けて突進を回避。



 ドシャッ


「な、なんだ!?」


 後ろ足を使って突撃してきたザコオロギは、着地に失敗して地面に強打する。うわぁ、痛そう……勢いが半端ない分、少なくない自傷ダメージを負ったようだ。



「フェリシア、後でいっぱい褒めさせてくれ!」

「え!? お、お、お手柔らかに……!」


 恐らく重要パーツである触覚を片方失ってバランスが取れなくなったのだろう。触覚狙いは大当たりだったようだ。


「つまり、両方失ったらどうなるんだいっ!?」


 半ば確信を持って、タルワールで残りの触覚を斬りつける。


 残念ながら俺は、同じところを寸分違わず斬りつけるようなテクニックは身につけていない。

 だが、何度も何度も斬りつけていれば、偶然同じ箇所に当たることも起きうる訳で!



「喰らえ! パワーアタック!!」


 斬撃力を増した一撃が触覚に突き刺さり、パッキーンと分断する。



 ザコオロギはそれを受けて、羽根を伸ばし擦り合わせる。

 だが、種が割れてればなんてことない。耳を塞ぎ鳴き声をシャットアウト。


 鳴き声の次は突進して動けないやつを潰そうってんだろ、知ってんだよ!


「うゆ! 暖めてやれ!」

「ん、ファイアボルトッ!」


 火弾が直撃しケツに火がついたザコオロギは、デバフが取り除かれ素早さを取り戻し、脚を溜めて溜めて――解放。



 驚異の脚力によって超大な推進力を得た馬鹿でかい図体は、己のアイデンティティを破壊しやがった憎きソードマンの横を通り過ぎ、バランスを失い地面に衝突してポリゴンとなり弾けて消えていった。




 ロケット花火のような散りざまだったな。たーまやー。

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