小さくて素早いのがダメ
「居たぞ」
「あー……大丈夫そ?」
「だ、大丈夫、です……!」
街の西口を出てしばらく。前回の南口と違ってモンスターの分布も違うようで、ぽよぽよなんて可愛いモンスターはおらず、虫型のモンスターがうろついている。
そのせいかプレイヤーは少なめで、どう見ても避けられている雰囲気を感じた。
「女の子って虫苦手なイメージがあるからさ」
「ん、小さいのはあまり得意ではないが、ああも大きいとな」
そう、虫とは名ばかりの段ボールぐらいはありそうなコオロギ。大きいせいで細部まではっきりと観察できるが、コオロギって愛嬌のある顔してるんだな。
相手もこちらを視認してリリリと威嚇する。現実のコオロギより音が低い気もして少し気持ち悪い。
「こいつらがザコオロギかな」
「違うんじゃない? 雑魚っぽいけど」
受けた依頼は『ザコオロギ1体の討伐』。1体しか討伐しなくていい依頼ならば、そいつはそこそこ強いモンスターであるはずだ。いきなりポロっと出てくる雑魚ではないはず。
「じゃあ最初は俺が修業の成果を見せるよ」
「ん! かっこいい所を見せてくれ」
「が、頑張ってください……!」
女子達の応援を背に受け、タルワールをスラリと引き抜く。そういやこれを使うのは初めてだ。勝手が違うかもだし試し切りぐらいしてから来るんだったか。
だがもうここまで来てちょっと待ったは通用しない。あまり大ぶりにせずコンパクトにタルワールを構え、踏み込みと共に横に一閃。
あくまで牽制のつもりだったのだが、コオロギの体が上下に泣き別れしてポリゴンになって還っていった。残されたのは虫の脚。脚かぁ。
「どうかな?」
振り返ってみると、うゆは枕を抱えて頷いてるし、フェリシアは手を口に当てて目を丸くしている。
ふっふっふ、自分でも会心の手応えだ。
おもむろにうゆが近づいてきて、俺の腕を取りフェリシアに語りかける。
「どうだ、かっこいいだろう?」
「か、かっこいいです……!」
だからなんでお前が自慢げなんだよ。魔女っ子帽子越しに頭をぐいぐいーっとしておく。
魔女っ子衣装自体はかわいいんだけど、近くにいると帽子だけしか見えないのが不満だ。
――
――――
――――――
「次は私だな」
次なる標的を見つけて張り切る魔女っ子。
ちなみにドロップアイテムによると、あいつはプチコオロギというそうだ。
プチコオロギよりザコオロギの方が強いのだろうか。雑魚を冠してるくせに。
「ノクスくん、始まりますよ」
おっと、適当なことを考えててうゆの活躍を見逃す所だった。
プチコオロギが反応しない位置に陣取り、杖を取り出す。あれは初期装備の杖だ、だが魔法使いは装備よりスキルカードと言っていたな。一体どんな使い方をするのか。
「ファイア……!」
うゆが呪文を詠唱すると、杖の先端に赤いエフェクトが渦巻く。おお、魔法使ってる!
「ボルトッ!」
その掛け声と共に赤いエフェクトが炎を象り、螺旋状に直進してプチコオロギにぶち当たる。
初期地点周辺の雑魚が当然耐えられるはずもなく、赤いポリゴンが空に立ち上り消えていった。
「ふふん」
自慢げに鼻を鳴らすうゆ。これはドヤ顔しても許されるかっこよさ……!
「俺も魔法使い取った方が良かったかな……」
「ん、後で教えるから安心していい」
断然モチベがあがってきた。
隣で驚いていたフェリシアがうゆの手を取り、精一杯のドヤ顔で俺に向かって話しかける。
「ど、どうですか、かわいいですよね?」
「ん? そこは格好良いじゃないのか」
「うゆちゃんはかわいいです」
どうしても譲らない様子。フェリシアって意外と頑固だよな。
「魔法のスキルカードにはいくつか種類があってな」
種明かしじゃないが、うゆのスキルカードについて教えてもらった。
魔力スロットに装備する『ファイア』『ウィンド』『アイス』などの属性スキルカード。
感覚スロットに装備する『ボルト』『アロー』『ボール』などの射出スキルカード。
これら2つを組み合わせて魔法を発動するらしい。
金銭的に属性はファイアとアイス、形状はボルトとアローをセットしているとのことで、ファイアボルトとファイアアロー、アイスボルトとアイスアローの4つが使えるんだと。
「熟練者になれば3つ、4つ組み合わせて強力な魔法を編み出せるそうだぞ」
「へぇ~、組み合わせを探すの楽しそうだな!」
「その為にはお金を溜めてスキルカードを集めなくてはな」
「いいじゃん、お金を集める動機ってのは大事だぜ」
金稼ぎなんてのは、欲しいアイテムがあるから目標金額に向かって貯めるみたいな所あるからな。
ちなみに魔法使いの初期スキルカードは、呪文組み合わせ時の消費MPを軽減する『呪文結合・初級』と『詠唱補助』だそうな。組み合わせ数が増える度に消費MPが倍々ゲームで増えていくので、現段階では2つが現実的とかなんとか。
試しに『ファイアアイスボルトアロー』を唱えて貰ったら、プスンとガス欠の音がした。
――
――――
――――――
「フェリシア、がんばれー」
「ん! がんばれ!」
「ま、任せてください……!」
ラストは僧侶、フェリシアのターン。
インベントリから僧侶の武器を取り出して……あ、あれ? 見覚えがあるような……も何も、紛うことなき樫の棍棒。
そのままプチコオロギに駆け寄り、ブゥンと叩き潰して戦闘終了。虫が出たからスリッパで叩くような気軽さだ。
「お、おぉー……」
特に何も言うことがない……。え、僧侶の戦い方ってこれで合ってる?
うゆが背中を押して天丼しろとせっついてくる。
そんなこと言われても……仕方なくフェリシアの腕を取り、ドヤ顔でうゆに向かって一言。
「な、フェリシアだろ?」
「どういう意味ですか……!?」
「仕方ないじゃないですか……スキルは回復ぐらいしかないんですから」
そりゃそうだ、僧侶だもんな。ソムニアで僧侶は前衛もこなせる回復役という立ち位置らしく、精神と感覚が高い以外は筋力、頑丈がやや高めな職だ。
「回復はどうやるんだ?」
「えっとですね……。あ、あの、手を貸して貰っていい、ですか?」
「おっけ」
フェリシアは差しだした手を両手で握り、目を瞑って呪文を詠唱する。
「……ヒール!」
「なんか暖かくて気持ちいいかも」
「ん! 私もだ!」
「いいですけど、回復魔法ですからね……?」
うゆも手に回復魔法をかけてもらい、ふぉおおと興奮している。
「こうして手で触れて回復できます……。一応セイントっていう攻撃魔法もあるのですが、こちらも手で触れないと効果がなくて……」
「ほう。……フェリシア、セイントを一瞬貸して貰えるか?」
「はい、いいですよ。どうぞ」
「ん……魔力じゃなくて精神か。かろうじてセットできるな」
魔法使いは精神ステータスが低いらしい。
早速セイントを使おうとやや遠くにいたプチコオロギを目ざとく見つけ、標的にする。
「セイント……アロー!」
「えっ、えっ!?」
杖の先端からピュンとすごい速さで光の矢が飛んでいき、プチコオロギに突き刺さる。
刺さった箇所から光の粒子が舞うが、一撃では倒れずカサカサと向かってきたのをフェリシアが棍棒で叩いてポリゴンにした。
「ん、僧侶系魔法も組み合わせることができるな。私は精神が低いから威力がでないが」
「す、すごいです、うゆちゃん……!」
魔法職組で盛り上がっているが、俺は蚊帳の外だ。悲しい。
ふとスキルカード欄を見てみたら、戦士の初期スキルとして筋力『パワーアタック』と頑丈『HP回復量上昇』が鎮座していた。うん、話に混ざれそうにないな。
「射出できないのは不便だろう、一つぐらい持っておいて損はない。アローでいいか?」
「いいんですか? では、貸してもらいます……!」
「ん、アローもボルトも似たようなものだからな、どっちか持っておけば困らない」
おなじ直線に飛んでいく系統ながら、アローは速度、ボルトは貫通力で差別化されているらしい。
いいなぁ魔法、いいなぁ。組み合わせという所にロマンがある。
どんな組み合わせにしようかスキルカードとにらめっこしているだけで絶対楽しい。
隣の芝生は青く見えるというが、俺、次は絶対魔法使いやるんだ……!




