2人だけの特別な
寝具屋への帰路をうゆと2人でのろのろと歩む。機嫌を直してくれたのは良いが、今度はぴったりとくっついて離れてくれそうにない。
そのうち聞き覚えのある楽しげな喋り声が耳に入ってきた。
「なぁ、うゆ。そろそろ着くぞ」
「ん」
「ん、じゃなくて」
「ん」
ダメだこいつ、もうこのまま帰るしかない。腹をくくれ……!
「この前いただいた枕、なかなか使い心地がいいですよ」
「そうなんですか? ……あの、売り物になったりはしますか?」
「そうですね、お父さんに頼んで並べてみますか? ……あ! 2人とも帰ってき……えぇ……」
「おかえりな……さ……ノクス、くん……?」
寝具屋に帰ると、いつもの看板娘と僧侶っぽい格好をしたフェリシアが、俺と俺に抱っこされたうゆを出迎えた。
あーほら、2人の視線が厳しい。
仕方ないだろう、あれから抱きついたまま離れなくて、人通りの少ない路地とはいえ通りがかる人に物珍しそうに見られちゃ堪らない。
そのまま抱っこして帰路についたが、最後まで離れずこのざまだ。
本当におんぶに抱っこされるやつがあるかバカ。
――
――――
――――――
「それは……ノクスくん個人の交友関係に、くちばしを挟む訳にはいかないです、……よね」
かくかくしかじか、これこれうまうまと軽く事情を説明したら、フェリシアなりの見解を述べてくれた。それを聞いたうゆは立つ瀬がないのか、俺の肩に顔を深く埋める。
「でも、うゆちゃんの気持ちもわかる気がします……」
「うゆの気持ちって?」
「その……もしもですよ? うゆちゃんが、知らない男の子の腕に抱きついてる所を見ちゃったら……どう思いますか?」
うゆが知らない男とねぇ。その場面をもやもやーんと想像してみて……うっ、なんか嫌だ。他人である俺がどうこう言える立場じゃないが、決していい気分ではない。
「吐きそう」
「えっ、そんなですか……!?」
抱っこされている黒いのがもぞもぞ藻掻いている。まぁ万が一吐いたら確実に被害を受けるポジだからな。それでも離れようとしないのは何たる執念。夢だから汚いことにはならないだろうが。
「程度はわからないですけど……うゆちゃんも同じ気持ちになって、衝動的に動いちゃったのかもしれません。あくまで想像ですけど……」
フェリシアの想像を特に否定しないところを見るに、大まかには当たっているみたいだ。こいつも吐きそうなぐらい気分悪くなったのかな。
「なぁ、うゆ」
「……なんだ?」
俺の肩に埋めていた顔を上げ、至近距離で見つめ合う。
「悪かったな、変な疑いかけて」
「……私こそ悪かった。ついカッとなってしまった」
「じゃあ、お互い様だな」
「ん、お互い様だ」
おでこ同士をこてんとぶつけ合い、喧嘩両成敗。
「後輩とやらにも悪いことをした。良ければ今度紹介してくれ」
「いいのか?」
「別に、私は狭量じゃない。少し嫉妬しただけだ」
「嫉妬ぉ? うゆがぁ?」
「私も初めての感情で驚いている」
そう言われたら責められないな。まぁ嫉妬される経験というのも悪くない、か?
――
――――
――――――
「さ、今度は2人の話を聞かせてくれよ。その衣装、一体どうしたんだ?」
ただそれはそれとして、これ以上くっついていると看板娘のいう通りフェリシアに刺されそうだ。形容しがたいすごい顔をしている。
うゆをそっと地面に降ろしてリリースすれば、今度は素直に離れてくれた。
なんだかんだ聞けずじまいのうゆの魔女っ子衣装と、フェリシアの僧侶衣装。なんで2人ともしれっと着替えてんだよ。
「あ、あの……ヘンじゃないでしょうか? 僧侶になるなら形からでもと神殿の方に勧められたのですが……」
まずはフェリシアの僧侶服。神職らしく露出が少なめで、清楚なシスターっぽさを醸し出している。
「ん、似合ってるぞ! でもスリットが深すぎじゃないか?」
「で、ですかね……?」
スリット? よくよく見ればRPGの僧侶にありがちな謎スリットが下半身に入っており、ちらちらと太ももが見え隠れする。
「あー……」
「男の人ってやっぱりこういうのが好きなんですか?」
今日はずっとジト目の看板娘が、ここぞとばかりに口撃してくる。
「ノーコメントで」
「お、お嫌いですか……?」
「素直になったほうがいいぞ、ノクス」
「好きだけどさぁーっ!」
あんまり男子中学生の尊厳を奪わないでやってほしい。そんでフェリシアも満更でもなさそうなのなんなんだ。
「うゆちゃんも似合ってますね。か、かわいいです」
「むふー! 魔力ステータスも上がる優れモノだぞ!」
黒のワンピースローブに黒の魔女っこ帽子。胸元にワンポイントの緑の石。ちっちゃいうゆにピッタリだ。
「めっちゃかわいいじゃん。アニメのキャラみたい」
「男の人ってやっぱりこういうのが好きなんですか?」
「これは別に好きでもいいだろ!」
あと多分女子小学生も好きなタイプだぞこういう魔女っ子衣装。
「……あれ? ノクスくん、初めて見たみたいな感想ですけど……」
「あー、近くにいるとさ、上からだと帽子で何も見えないんだよ」
まるで灯台下暗しのような……いや、全然上手くない例えだなこれ。
「ん。ノクスは」
「俺は、って?」
「剣士の衣装とかはないのか?」
「いや、ないけど。2人とも衣装買ってるのにビビってるぐらいだし」
えー、と合唱する3人。看板娘よ、お前もそっち側か。
「あ、でも武器は買ったぞ、ほら」
偏屈な鍛冶屋から購入したタルワールを掲げる。ギラリと光る刃がいい仕事してるぜ。
「ん」
「へー」
「す、すごいですね」
あ、あれ? あんまり興味なさそう。
リコも武器とか興味なさそうだったし、女の子は武器より服なのか?
「ノクス、明日服買いに行くか」
「仕方ないな。でもセンスないし、2人が代わりに選んでくれない?」
「ん! 任せろ!」
「た、楽しみです……!」
昔っから服は親が買ってきたのを着てるぐらいだったからなぁ。いや、これを気にセンスを磨かせてもらうか。剣の技術は日常生活じゃ役に立たないけど、服飾センスは応用が効く、はず。
「よし、明日の予定も決まったし、今日は解散すっか」
「もうそんな時間ですか? まだゆっくりしてってくださいよ」
「ごめんなさい、コトネちゃん。今度、作業しながらゆっくりお話しましょう」
「はぁ~い」
じゃあな、と軽く挨拶をしてパネルからログアウトを選択しようとすると、うゆが近づいてきた。
「どした?」
「ノクス、しゃがんでくれ」
「え、うん」
言われるがままにしゃがむと、うゆが抱きついて耳元で
「また明日、まひる」
「お、おう……」
急に言われるとビビるし、なんだかこそばゆい。
「……私の名前を忘れたか?」
「いや……また明日な、かずは」
むふー、と満足そうな鼻息を一つ出してログアウトしていく。
透明になっていくうゆの向こうには、目をほそーくしてこちらを眺めているフェリシアが見えたのだった。
あの、文句ならうゆにお願いできませんかね……?




