修行の終わり、1日の終わり、色々な終わり
ズバシュッ!
「見事っ! 今の感触を忘れるな!」
練習を繰り返していくうちに段々と気持ちの良い音が鳴る割合も増えていき、とうとう最高の手応えを感じる一撃が入った。
ダメージも103と初の3桁到達だ。
「あたしはどっすか?」
「まぁまぁだな。繰り返していればいずれコツは掴めよう」
「残念っす」
の割にはあんまり残念がってないな。こいつ負けず嫌いだったはずだが、1年で成長したのだろうか。
「剣には大別して直刀と曲刀の2つに分けられる! 直刀は刃が真っ直ぐ故、突きにも用いることができる!」
そう言うと講師は一瞬反動をつけた後、全身のバネを使いビュンと前方に飛び出しサンドバックに一突き。ドスン、と鋭い衝撃が走り、823ダメージを弾き出した。
お、おお、これがギルド講師の本気……! いやまだ本気じゃないかもだが、練習用の武器じゃなかったら一体どれだけのダメージが出るのか。
講師は次に練習用の武器箱から一振りの剣を取り出し、こちらに見せてきた。刀……じゃないな、サーベルかな? 刃が真っ直ぐではなく反りがついている。
「曲刀は反りがある為、振るえば自然と引き斬りになる! 斬る事に最適化された形状故、突きは不向きだ! 武器選びの参考にしてくれ!」
「先輩はどっちにするっすか?」
「うーん、迷うなぁ」
なるほどバッサバッサと斬るのかっこいいし刀に憧れがあるから曲刀が良いとは思うけど、さっきの突きを見てしまうと直刀も良いなと思ってしまう。
「以上で剣の訓練を終わる! あくまで最低限、剣が扱えるようになり剣術の入口に立ったに過ぎない! 立ち回りや技などを学びたい場合は、各々で磨くか道場で教えを乞うて欲しい!」
「おっす!」
「わかったっす!」
――
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――――――
「楽しかったっすね、先輩~」
「だな。極めようとすれば辛くて苦しいこともあるんだろうが」
「うえ~、夢なのに苦しいなんてやめて欲しいっす」
無事に剣の訓練が終わり冒険者ギルドの外へ。穏やかな日差しに照りつけられて気持ちがいい。部活終わりの午後のようだ。太陽は頂点からやや過ぎており、これだけ遊んだのに夢の時間はまだ半分もあるのかと驚かされる。
「これでリアルで襲われても撃退できるっすよー。メーンメーン、突きぃー」
「剣持ち歩く気かよ。そういやリコ、お前なんで冒険者ギルドに居たんだ? 別に用があったりしたんじゃないのか」
「え? そんなの忘れちゃったっす!」
「忘れたってお前な」
「それより、これからどうするんすか? 覚えた技で狩りに行っちゃいます?」
これからかー。2人からメッセージは来てないし、まだ時間はありそうだな。
「武器屋に行こうと思ってるんだけど」
「いっすね、あたしも剣欲しいっす!」
「あぁ、持ってないんだっけ。初期武器何にしたん?」
「弓っす」
「へー、いいじゃん弓……使えた?」
「無理っす、飛びすらしないっす」
だよな、剣すらまともに使えないんだから弓がゲーム補正で使えるようになるとは思えない。逆に言えば剣道や弓道を習ってる人はスタートダッシュできたんじゃなかろうか。
――
――――
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「こんちはー」
「ふん……」
武器屋のじじいは俺達を一瞥すると手元の作業に戻る。帰れと言われないということはお眼鏡にかなったのだろうか。
「こんちはっす!」
「…………」
「こんちはーっす!!」
リコは偏屈ジジイ挨拶チャレンジをしはじめた。リアルでもあーやって無愛想ジジイを根負けして挨拶させた実績がある。負けず嫌い直ってねーじゃん。
それはそれとして、店内を見渡すとたくさんの刀剣が飾ってある。直刀、曲刀、刃渡りの長さ……まだまだ浅いのだろうが、知識を仕入れた上で観察すると見え方がまた違ってくる。
「握ってみても?」
「粗末に扱うなよ」
「こ、ん、ち、はーっ!」
「うるさい」
挨拶チャレンジガールを後ろからチョップで嗜めておき、実際に武器を握る。同じ武器でも微妙に握りにくかったり、しっくり来たりと様々だ。
これゲーム……だよな? 細かい作り込みに新鮮に驚けるということは、まだソムニアに慣れていないということなのだろう。
「おじちゃん全然挨拶してくんないっすー」
「はいはい、代わりに俺が挨拶してやるから機嫌直せ」
「ほんとっすか!? こんちはっす!」
「さって、武器はっと」
「先輩~~!!」
ふと、前回購入を断られたロングソードが目に入った。微妙に性能が悪いあれ。
気になって握ってみ、たが……。
「おっも……」
なんだこれ、持てはするけど片手で振り回すのは骨が折れそうだ。ステータス不足か?
「先輩、これ刃がついてないっすよ」
「え、ほんと?」
「あたしは先輩と違って嘘つかないっす」
よく見ればたしかに刃が丸い。これじゃあ斬れなさそうだ。攻撃力が低いのも頷ける。
「じいさん、こりゃあなんだ?」
「鈍器だ鈍器」
「鈍器ぃ?」
「鎧を着てるやつぁ刃で斬れねぇ。だらぁ重くて堅ぇもんでぶっ叩く。刃がついててもすぐに潰れる、だから刃はつけてねぇ」
なるほど鈍器運用。理には叶っている。
「ちなみに刃を付けたら斬れるのか」
「斬れるが、これを振り回してぇのか?」
「いや全然」
この世界だけなのか現実でもそうなのか知らないが、この世界の剣は軽い。1kgぐらいの重さで、片腕でも軽々と振り回せるし、どうせならそれぐらいの剣が欲しい。
それに鈍器はもう間に合ってるからな。
「もしかして、武器屋通り入口の店で売ってたロングソードって」
「あぁ、可哀想によ。刃がついてねぇのは不良品つって仕入れから弾かれるんで、仕方なく刃ぁつけてるんだとよ。新人の鍛冶屋が愚痴ってんぜ」
むむむ、幅広く武器を売ってると感じていたが、代わりに専門的な知識は薄いらしい。
まぁいい、謎は解けた。そしてこの店は当たりだ。店主は偏屈だが剣に関しては真面目なんだろう。
「どうした? 今ならこれ売ってやんぞ?」
「いや、鈍器は間に合ってる。それよりこっちを売ってくれ」
先程握ってしっくりきた一振り。斬撃が得意な曲刀で、見た目も良い。やっぱゲームなんだからかっこいい武器持ちたいじゃんね。
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タルワール
武器・片手剣
サーベルに影響を与えたとされる湾曲した片刃の片手剣。
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お値段はややお高めの1800Tだが、手持ちで3220Tあるので払えない額ではない。一気に全財産の半分使うって、金遣い荒いって怒られそうだな。やっぱ俺が予算管理するの辞めたほうがいいって。
「いいだろう、今のおめぇには過剰かもしれんがな。せいぜい武器に振り回されんように」
「精進するよ」
財布代わりのトラオム結晶を取り出し、ガチンとぶつけて支払いを済ませる。
「先輩金持ちなんすね」
「色々合ってな」
「へーーーーーん」
なんだと、俺が金持ってちゃ悪いってか。いま半分になったが。
武器屋のじじいからタルワールを受け取り、インベントリに入れる。
「勉強になった。次はもっと金溜めてくるよ」
「実力も身につけて来い。そっちのガキは来なくていいぞ」
「なんだとーっ! こんちはーっ!」
「ふん」
やめとけって、挨拶しないタイプだよこのじじい。
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「いやー楽しかったっすねーっ!」
「あんなにじじいと喧嘩してたのにか?」
「え? そりゃもう!」
武器屋から離れ、改めて冒険者ギルド前までやってきた。結局200トラオムのナイフを買って「先輩とオソロっす」とか言ってたけど全然お揃いではないと思う。
「でも、もう終わりっすねー。時間が経つの早いっす」
「遊んでるとどうしてもな。授業中はあんな長いのに」
「違いねぇっすw」
「そうだ、先輩。フレンド登録しましょうよ」
「いいけど。お前とフレンドってなんか照れるな」
「そっすか?」
学校ではちょくちょく会ってたけど、放課後や休みの日に遊ぼうぜってなってた訳じゃないからな。微妙な中だ。
「へー、白夜ノクスって言うんすね」
「文句あっか」
「リアル知ってると違和感すごいっす」
まぁ…………わからんでもない。今んとこリアフレとやらない理由の一つでもある。
「また遊んで貰ってもいっすか?」
「そうだな、機会がありゃ」
「いくらでも作るっす!」
「気合入ってんなぁ」
「先輩、次はどこ行くっすか?」
「んー……それもいいけど、今日は一旦解散だな」
「えーっ! まだ起きる時間じゃないっすよ!」
「こっちにも用事があんの」
「わかったっす。あたしは物わかりの良い後輩っすから」
「全然嘘つくじゃん」
物わかりの良いやつは偏屈なじじいに挨拶攻撃をしないんだよな。
「じゃあ、最後にいつものやつして欲しいっす」
「いつもの?」
「お別れのぎゅ~」
「は?」
両腕を胸の前でクロスさせ、自分の肩を掴みながら何某かを口走る。
何を言い出すんだこいつは……そんなの一度もしたことないだろ。
「お前なぁ、冗談も程々に……」
突如、ドンッと左から衝撃が走り思わずたたらを踏む。
何事かと左を見やれば、魔法使いの格好をしたうゆが俺の左腕を強く抱きしめ、横目でリコを睨みつけていた。




