立てる、引く、斬る
「剣は持ったか? これより剣の訓練を始める!」
講師に連れられてギルドの地下にある訓練場の一画を貸し切りだ。眼の前には寝具屋で見たサンドバックくんが鎮座しており、周りの人間は一心不乱にサンドバックくんをいじめ抜いている。
なんというか、部活の匂いだ。
「体育館倉庫みたいっす」
「体操マットの匂いな」
「諸君! 剣で斬る為には2つの大事なことがある! 1つはなんだ?」
「スライドさせることっす!」
「そうだ! ハンマーのようにガツンとぶつけるのではなく、刃が当たった後に剣を引くのが肝要だ!」
講師は刃をサンドバックくんに当てる。当然斬れやしない。
「この状態から、剣を引く! こうだっ!」
刃を当てた状態から引くことで、ザシュッと効果音がしてダメージが飛び散る。勢いもついてないのに83ダメージか、中々なダメージだな。
まぁ俺はMAXで3ダメージなんだけど。
順番にやってみろと号令がかかったので、まずは俺から試し切りだ。
といっても、剣は振りかぶらずサンドバックくんに刃を当てて、引き斬る。
20ダメージか。刃物は当てるだけでそこそこダメージが出るらしい。使いこなせたら強いな、これ。
次は自分っすーと飛び出したリコは置いといて、周りを見渡してみる。冒険者のような強そうな住人から、駆け出しのプレイヤーまで幅広く訓練をしており、あーでもないこーでもないと試行錯誤している。
カリキュラムじゃなくても借りられるんかな。うゆとフェリシアにも使わせてやりたい、後で聞いてみよう。
「先輩せんぱーい! 見てたっすか!?」
「あ、ごめん、見てなかった」
「も~っ、ひどいっす~っ!」
「少年、見るのも修行のうちだぞ!」
「うす、すません」
いつの間にかリコのターンは終わっていた。
良かったら自分に取り入れて、悪かったら自分はそうなってないか振り返る。見るのも稽古と言っていたが気をつけよう。
「さて! 次は剣で斬る為に重要なこと、その2だ! 一応聞くが、知っている者!」
「力を抜くこと?」
「それも大事だが、趣旨とは少々ずれるな。正解は、刃筋を立てることだ!」
刃筋? 刃の筋を立てるってどういうことだ?
「がぶー」
「それは歯を立てる、だろ」
「刃筋を立てるというのは、剣を振った時の進行方向に対して、刃が真っ直ぐになっているか、ということだ!」
実例を見せよう、と剣を上段に振りかぶって、サンドバックくんに対し剣の腹を見せた状態で止める。
「剣をこの向きのまま振り下ろす。さて、斬れるか?」
「斬れないっす!」
剣の腹がサンドバックくんに当たり、ゴンと音を立てて止まる。
まぁ刃が当たってないんだから斬れる訳ないよな。
次は刃の向きを15度ほど回転させて振り上げる。
「これは斬れるか!?」
「斬れるかもしんないっす!」
剣がサンドバックくんに当たり、ゴガッと音を立てて止まる。
いい感じだと思ったんだけどな。
「この通り、刃筋を立てないと斬れん。そしてこれが、刃筋を立てるということだっ!」
改めて上段に構え直し、刃は真っ直ぐ。そのまま振り下ろし、サンドバックくんを真っ二つに打ち据える。
ザシュンッ! と派手な音が鳴り455ダメージがポップする。うおお……。
…………あれ? 寝具屋の親父は横槌で600ちょっと出してたよな? 剣の講師より強いんじゃねあの人。
「こんなもんだ! 刃筋を立てる、当たった後に引き斬る。最初は勢いをつけなくていい、包丁を思い出しながらゆっくり斬れ! 慣れてきたら勢いをつけてみろ! 始めっ!」
号令と共に剣を握りしめ、サンドバックくんを斬りつける。当然のようにガンッと弾かれた。刃筋が立ってなかったのだろう。
浅く振りかぶり、振る勢いも弱めて正確に当てることを意識する。ザクッ、と音が出てサンドバックに当たるが、引き斬るのを忘れてそこで止まってしまった。
これは……練習のしがいがあるぞ!
「先輩、次あたしやるっす!」
「おっけ、交代な」
こいつは昔からこうだ、俺が何かやってると自分もやりたいと騒ぎ出す。好奇心旺盛なやつだ。
「柔らかいもんを斬るのに一撃の重さや勢いはそこまで必要ない! 重要なのは刃筋を立てて当てること、そして引くことだ!」
俺とリコで交互にサンドバックくんを斬りつけ、時折講師に手本を見せてもらいながら、剣術を己の血肉としていく。
包丁で野菜を切るのも楽しかったが、やっぱり冒険は剣だよな、剣!




