剣と刃物は使いよう
「送信っと」
現場に向かう道すがら、先程受付の人から魔術ギルドについて聞いたのでうゆに送っておく。
すぐに「感謝!」と簡潔に返事がきた。嫌になってログアウトはしてなさそうだな。
「フレっすか?」
「そ。偶然知り合った子なんだけど、魔法が使いたいーつっててな」
「へぇ、女の子なんすね」
こいつ、鋭いな。一言も女性だなんて言ってないのに。
「先輩、リアフレとはやんないんすか?」
「しばらくはいいかな。リア友いるとあいつらとしか遊ばなくなりそうだし」
「そんなもんっすかねー」
せっかくの夢の世界なのに、リアルの延長線というか、あまり変わらない顔ぶれになりそうだ。まぁ1、2ヶ月したら合流してもいいかもな。
「ゼンカンさん、受講者を連れてきました」
「ありゃ、2人だけか? 淋しくなっちまって……」
ギルドの広い通路を通ってたどり着いたのは家庭科室のような部屋。机にはシンクがくっついており、机の上にはまな板と包丁。部屋の前方には様々な野菜が積んである。家庭科室やんけ。
「やっぱり野菜を切る工程は不評みたいで……」
「野菜も切れねぇやつが敵を斬れる訳ねぇだろ!」
ギルドの運営にも色々あるらしい。担当するカリキュラムが不人気だとギルドマスターからお叱りがあったりするのだろうか。
そんなことを考えているうちに案内してくれた受付の人は部屋を出ていき、講師だけが取り残される。
「おう! 俺が剣の修行を教えてるゼンカンだ!
修行は二段階! 野菜が切れるようになったらお待ちかねの剣の訓練だ!
包丁も剣も刃物! まずは刃物の扱いを覚えるところからだ!」
薄々想像はしてたが、やっぱり野菜を切るらしい。それぐらい誰だってできそうなもんだが。
「先輩、家庭科の授業とかどうだったすか?」
「まぁ普通? 別に上手でも下手でもなかったかな」
もちろん包丁も使ったことはあるし、野菜が切れないなんてことはないはずだ。いや、かぼちゃとか硬い野菜はやったことないし、アボカドとか出されても切り方わからんが。
「包丁は好きなのを使っていいぞー! 今日は人数も少ねぇから1人で机を占拠してもいい!」
へー、それは贅沢な使い方だ。とりあえず手前のテーブルにあったまな板&包丁セットの前に立つと、隣にリコが陣取った。
「あっちも使えるらしいぞ?」
「隣の方が教えあえるじゃないっすか」
「それもそっか」
リコは包丁を握ると、逆の手の爪にコンコンと刃先を当てる奇行をしだした。うお、危なかっしいな。
「これで切ればいいんっすか?」
「そうだ! レベル1から3までの野菜があって、レベル3の野菜が切れたらクリアだな!」
「いきなりレベル3いってもいい?」
「おっ、気概があるな! もちろん構わないぞ!」
講師が取り出したのは……ニンジン。なんだ、ニンジンか、これぐらいなら楽勝だ。
「じゃあやってみます」
普通に包丁を上から押し当てる。ザクっと刃先が入ったので、そのままゆっくり力を込めて……ぐぐぐっとある程度力を込めたところでザンッとニンジンが両断される。
訓練っていうからもっと特殊なニンジンかと思ったが至って普通のニンジンだった。まぁこんなもんだろう。
「あたしもいくっす!」
そう宣言して何を思ったか包丁を高く振り上げ、ニンジンめがけて振り下ろし半分ぐらいまで刃が突き刺さる。
もう一度ニンジンのくっついた包丁を振り上げ、まな板に叩きつけてパッカーンと両断した。流石にそれはダメだろうよ。
「うむ、2人とも不合格!」
「……えっ?」
「えーっ!?」
「いやお前はエーじゃないだろ」
ちゃんと切れたのに不合格判定だ。解せぬ。
「手本を見せてやろう、刃物で切るというのはこういうことだ!」
講師はニンジンに包丁を当て……スッと動かしたかと思うと、ニンジンが両断された。へ? ニンジンってあんな抵抗なく切れるもんなのか?
「良く見えなかったから近くでやってほしいっす!」
「いいぞ! 何度でも見せてやろう!」
講師は俺達の机まで移動し、備え付けのまな板と包丁を使ってさっきと同じように抵抗なく切ってみせた。
ってことは包丁が特別切れ味が良いって訳でもなさそうだ。
「さて諸君!」
「あ、近くだとうるさいんで怒鳴んないで欲しいっす」
「う、うむ……!」
強面の講師にもこの態度、ほんと物怖じしねぇなぁ……。
「諸君。刃物というのは押し付ければ切れるというものではない」
「ちょ、危ないっすよ!?」
改めてセリフを言い直し、包丁の刃をなんと自分の腕に押し当てる。線がつくほど強く押し当てているようだが、血が出る様子は見られない。
「あれ?」
「先程諸君がやったのはこれだ。ニンジンは切れたのではなく割れたのだ」




